AI、自動車、防衛、スマートフォンなど、先端産業に欠かせないレアアース。そのサプライチェーンを特定国に依存するリスクが強く意識される中、米国で存在感を高めているのがMPマテリアルズ(MP)です。
同社は米国最大級のレアアース鉱山を保有するだけでなく、近年は採掘した資源を自社で分離・精製し、さらにレアアース磁石まで製造する垂直統合型の事業モデルへと大きく舵を切っています。
2026年第2四半期決算でも、その戦略転換が着実に進んでいることが確認されました。本記事では、米投資情報誌バロンズの報道をもとに、MPマテリアルズの現在地と今後の成長可能性を考察します。
「鉱山会社」からレアアース磁石メーカーへ
MPマテリアルズの最大の変化は、単純にレアアースを採掘して販売する企業から、高付加価値製品を供給するメーカーへ進化しようとしている点です。
同社はこれまで外部に販売していたレアアース精鉱(コンセントレート)の販売を停止し、自社の下流工程で使用する方向へ転換しています。
さらに、テキサス州ではレアアース磁石の製造施設を立ち上げており、第4四半期にはゼネラル・モーターズ(GM)向け、2027年にはアップル(AAPL)向けに磁石を出荷する計画です。
これはMPマテリアルズの収益構造を大きく変える可能性があります。
一般的な鉱山会社は、資源価格が下落すると売上高や利益が大きく悪化します。一方、自社で加工・製造まで行えば、単なる原料よりも高い付加価値を生み出すことができます。
特に、ゼネラル・モーターズやアップルといった世界有数の企業との取引は重要です。品質や安定供給に対する要求が極めて高い企業との契約を獲得できていることは、MPマテリアルズの製造能力が一定の水準に達していることを示しています。
今後、磁石事業の比率が高まれば、同社は「資源価格に左右される鉱山会社」から「先端産業向け部品メーカー」に近い企業へ変化していく可能性があります。
国防総省との協定が事業の下支えに
MPマテリアルズのもう1つの大きな特徴が、米国政府との強固な関係です。
同社は米国防総省と資本提供、顧客保証、ネオジム・プラセオジム(Nd-Pr)製品の最低価格保証を含む協定を締結しています。
2026年第2四半期には、この価格保護協定によって1,760万ドルの収入を計上しました。
レアアース市場では、中国企業が圧倒的な供給シェアを握っており、価格競争が激化した場合、米国企業が採算面で不利になる可能性があります。
しかしMPマテリアルズには、一定水準以下まで価格が低下した場合でも事業を支える仕組みがあります。これは長期的な設備投資を進めるうえで大きな強みです。
加えて、同社は名称非公開の大手航空宇宙・防衛請負業者との間で、数億ドル規模のガドリニウム供給契約を発表しました。
MPマテリアルズはEVや家電向けだけでなく、防衛産業に不可欠な特殊レアアースまで供給する企業へと事業領域を広げています。
米国にとってレアアースの国内供給網構築は経済政策であると同時に安全保障政策でもあります。この点でMPマテリアルズは、政府の産業政策そのものから恩恵を受ける立場にあると言えます。
第2四半期は売上高が約2倍、販売量も急増
足元の業績も改善しています。
2026年第2四半期の売上高は1億850万ドルとなり、前年同期の5,740万ドルから大幅に増加しました。
Nd-Prの販売量は1,006トンとなり、前年同期比127%増加しています。
さらに、これまで赤字だったEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)も黒字へ転換しました。
一方で、第2四半期には設備メンテナンスの影響による生産減少があり、価格保護協定収入も第1四半期の4,230万ドルから1,760万ドルへ減少しました。
株式市場ではこうした短期的な要因が意識されやすく、株価は2025年秋に100ドルを超えた水準から大きく調整しています。過去12カ月の騰落率でも約30%の下落となっています。
ただし、株価の調整と事業の成長は必ずしも同じ方向を向いていません。
売上高やNd-Pr販売量は前年同期から大きく拡大しており、実需そのものは強くなっています。
2028年までに生産・販売規模を10倍へ
MPマテリアルズが掲げる長期目標は非常に野心的です。
同社は2028年末までに、生産・販売規模を現在の少なくとも10倍へ拡大する計画を示しています。
数字だけを見ると極めて強気な目標ですが、その背景にはすでに複数の大型需要があります。
ゼネラル・モーターズ向け磁石供給、アップル向け供給、防衛産業向け特殊レアアース契約に加え、米国政府による国内サプライチェーン構築政策も追い風になります。
特に重要なのは、レアアース需要がEVだけに依存していない点です。
データセンター、ロボット、ドローン、航空宇宙、防衛装備など、高性能モーターを必要とする市場が拡大するほど、高性能レアアース磁石の需要も増加すると考えられます。
MPマテリアルズが採掘から精製、磁石製造までを米国内で一貫して行える体制を確立すれば、中国依存を減らしたい企業にとって重要な選択肢になる可能性があります。
MPマテリアルズは「米国レアアースインフラ企業」へ
MPマテリアルズを見る際には、もはや単なる鉱山会社として評価するだけでは不十分です。
同社は採掘、精製、磁石製造を一体化し、米国の自動車、テクノロジー、防衛産業を支えるサプライチェーン企業へと変化しています。
短期的には、レアアース価格、生産設備の稼働状況、設備投資負担などによって業績や株価が大きく変動する可能性があります。
一方で、国防総省による支援、ゼネラル・モーターズやアップルとの契約、防衛産業向けの新規需要という複数の成長材料が存在します。
中国が圧倒的なシェアを握ってきたレアアース市場で、米国がサプライチェーンの再構築を本格化させる中、MPマテリアルズはその中心的な企業になる可能性があります。
今後の最大の注目点は、テキサス州の磁石工場が予定どおり量産体制へ移行できるか、そして2028年までの大幅な生産拡大計画を実行できるかです。
これらが実現すれば、MPマテリアルズは「レアアースを掘る会社」から「米国の先端産業を支える重要インフラ企業」へと評価そのものが変わる余地があります。
情報ソース: Barron’s: “ MP Earnings Show Chinese Rare-Earth Monopoly Is Fading. The Stock Is Up.” (By Al Root, Aug. 7, 2026)
※本記事は情報の提供を目的としており、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資は自己責任で行ってください。
*過去記事「レアアース株の本命はMPマテリアルズか 4大鉱山が握る市場支配力」
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