「量のYMTC、利益のマイクロン」NAND市場の勝者を決めるeSSD競争

2026年、AIデータセンターへの巨額投資が続くなか、半導体メモリ市場の競争にも大きな変化が起きています。

これまでNANDフラッシュメモリ市場では、サムスン電子、SKハイニックス(SKHY)、キオクシア、マイクロン・テクノロジー(MU)などが世界市場をリードしてきました。しかし、その勢力図を崩そうとしているのが中国の長江存儲科技(YMTC)です。

米バロンズ誌が2026年8月13日に報じたデータによると、YMTCはNANDの出荷量でマイクロンやキオクシアを上回るまでに成長しています。

今回はNAND市場で起きている変化を確認するとともに、マイクロンとYMTCの競争が今後どのように進むのか考えていきます。

マイクロン株の乱高下が映すAI期待と警戒感

マイクロンの株価は2026年に入ってから200%以上上昇しています。

AIサーバー向けメモリ需要の拡大を背景に、DRAMや高帯域幅メモリ(HBM)への期待が株価を押し上げてきました。直近でも3営業日連続で上昇し、8月13日の終値は949.83ドルとなっています。

一方、6月下旬につけた高値からは20%以上下落しています。

この動きから見えてくるのは、AI関連メモリの成長期待が続く一方、現在のメモリ価格上昇や高い利益率がいつまで続くのか、投資家が警戒し始めているということです。

特に注意したいのがNAND事業です。NANDはマイクロンの収益のおよそ4分の1を占めています。

そのため、DRAMやHBMが好調でも、NAND市場で価格競争が激しくなれば、会社全体の利益率に影響する可能性があります。

マイクロンを見る場合、AI向けHBMの成長だけではなく、NAND市場で高い収益力を維持できるかどうかも重要なポイントになってきました。

NAND出荷量で世界3位に浮上したYMTC

NAND市場で最も大きな変化を起こしているのが、中国のYMTCです。

第2四半期のNAND出荷量シェアでは、サムスン電子が25%で首位、SKハイニックスが22%で2位となりました。

そしてYMTCが僅差でキオクシアを上回って14%となり、キオクシアとマイクロンを抜き、出荷量で世界3位に浮上しています。

中国メーカーが世界のNAND市場でここまで存在感を高めたことは、既存のメモリメーカーにとって無視できない変化です。

ただし、出荷量と収益では状況が大きく異なります。

YMTCは出荷量では世界3位ですが、売上高ベースでは5位にとどまり、マイクロンやキオクシアを下回っています。

その理由は製品構成です。

YMTCはスマートフォンなどに使われる比較的単価の低い消費者向けNANDの比率が高く、大量に出荷しても売上高や利益につながりにくい構造となっています。

つまり、現時点では「量のYMTC」に対して「収益力のマイクロン、キオクシア」という構図です。

本当の脅威はYMTCのeSSD進出

YMTCの存在がさらに大きな脅威になる可能性があるのは、同社が高付加価値市場への進出を狙っているためです。

YMTCは2026年下半期から、企業やデータセンター向けのエンタープライズSSD(eSSD)の販売を拡大する計画です。

AIデータセンターでは大量のデータを高速で保存・読み出す必要があるため、高性能SSDへの需要が急速に拡大しています。

この市場は消費者向けNANDより単価や利益率が高く、マイクロンやキオクシアにとって重要な収益源になっています。

もしYMTCがeSSD市場でシェアを拡大すれば、単純にNANDの出荷量が増えるだけではありません。マイクロンなどが現在利益を稼いでいる高付加価値市場そのものに競争が広がります。

NAND市場にとって、本当の転換点はこちらになる可能性があります。

IPOで加速する可能性がある中国の半導体投資

さらにYMTCは、中国本土でのIPO(新規株式公開)も準備しています。

IPOによって大規模な資金調達に成功すれば、研究開発や半導体製造設備への投資をさらに加速できる可能性があります。

中国政府も半導体の国産化を重要政策として進めているため、YMTCは民間企業としての成長だけではなく、中国の半導体戦略を担う企業として設備投資を拡大していく可能性があります。

ただし、大きな壁も存在します。

YMTCは2022年から米国商務省のエンティティ・リストに指定されており、最先端の半導体製造装置や技術へのアクセスが制限されています。

AIデータセンター向けSSDでは、容量だけでなく性能、耐久性、信頼性など非常に高い品質が求められます。

制裁下で最先端技術へのアクセスが制限されるなか、YMTCがこうした高性能製品を安定した歩留まりで大量生産できるかどうかが、今後の最大の焦点になります。

マイクロンとYMTCの勝負は「出荷量」より「利益率」

NAND市場を見るうえで重要なのは、単純な世界シェアだけではありません。

YMTCが出荷量で世界3位に浮上したことは大きな変化ですが、現時点ではマイクロンやキオクシアの方が高付加価値製品を販売し、より大きな売上高を確保しています。

今後YMTCがeSSDなど高収益市場への進出に成功すれば、この構図が変わる可能性があります。

逆に、高性能製品の量産や品質確保に苦戦すれば、出荷量では成長しても利益率の低いメーカーにとどまる可能性があります。

マイクロンにとっても、今後の競争軸はNANDを何個販売するかではなく、AIデータセンターなどの高付加価値市場でどれだけ高い利益率を確保できるかになりそうです。

AI時代のNAND市場では「量の競争」から「収益性の競争」へと戦いの舞台が移りつつあります。

マイクロン、キオクシア、サムスン電子、SKハイニックスに中国YMTCが加わり、NAND市場の勢力図は今後数年間で大きく変化する可能性があります。

投資家としては世界シェアだけを見るのではなく、eSSDなど高付加価値製品の売上比率や利益率、そして各社の設備投資動向を確認していくことが重要です。

情報ソース: Barron’s: “Micron Stock Keeps Rallying. Watch Out for This New Memory-Chip Rival.” (By Jack Denton and Anita Hamilton, Aug 13, 2026)

※本記事は情報の提供を目的としており、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資は自己責任で行ってください。

*過去記事はこちら マイクロン・テクノロジー MU

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