D-ウェーブ株が決算後7%安 受注1,120%増でも市場が警戒した理由

  • 2026年8月7日
  • 2026年8月7日
  • BS余話

量子コンピューティング企業のD-ウェーブ・クオンタム(QBTS)は、2026年8月6日の米国株式市場開始前に第2四半期決算を発表しました。

今回の決算では、上半期の受注高が前年同期から大幅に増加した一方、第2四半期の売上高と1株当たり損失は市場予想に届きませんでした。決算発表後の株式市場では、足元の収益規模や大型案件への依存度が意識され、同社株は7%下落しました。

本記事では、発表された決算内容を整理したうえで、D-ウェーブが抱える収益構造の課題と、今後の成長可能性について考察します。

第2四半期決算の主要数値

第2四半期の売上高は308万ドルとなり、アナリスト予想の408万ドルを下回りました。

1株当たり損失は13セントでした。前年同期の42セントからは大幅に改善したものの、市場予想の8セントより赤字幅が大きい結果となっています。

純損失は4,800万ドルとなり、前年同期の1億6,700万ドルから大きく縮小しました。ただし、事業活動そのものから生じる営業損失は、前年同期の2,650万ドルから5,330万ドルへ拡大しています。

純損失が改善した一方で営業赤字が増加した背景について、経営陣は製品開発の加速や、新たな製品を市場へ投入するための投資が増えたためだと説明しています。

現時点では、収益性の改善よりも技術開発と事業基盤の拡大を優先している段階と考えられます。

上半期の受注高は1,120%増

今回の発表で特に目を引いたのが、ブッキングと呼ばれる受注高の急増です。

2026年上半期のブッキング総額は3,550万ドルとなり、前年同期比で1,120%増加しました。表面的には、顧客からの引き合いが急速に拡大しているように見えます。

ただし、その内容を四半期別に確認すると注意が必要です。

第1四半期のブッキングが3,340万ドルだったのに対し、第2四半期は210万ドルにとどまりました。また、上半期の受注額には、1月にフロリダ・アトランティック大学へ販売した2,000万ドルの量子コンピューターシステムが含まれています。

つまり、受注高の急増は複数の顧客から継続的に案件を獲得した結果というよりも、単一の大型案件による影響が大きかったと考えられます。

大型案件に左右される収益構造

今回の決算から見えてくる最大の課題は、売上高や受注高が一部の大型案件に左右されやすいことです。

D-ウェーブが提供する量子コンピューターは、一般的なソフトウェアサービスのように多数の顧客から毎月安定した収益を得る事業ではありません。システムの販売や大型契約が成立する時期によって、四半期ごとの業績が大きく変動する可能性があります。

第2四半期の売上高が市場予想を下回り、ブッキングも第1四半期から急減したことは、安定した収益基盤がまだ確立されていないことを示しています。

決算後に株価が下落した背景には、1,120%増という受注成長率よりも、その多くが単発の大型案件によって構成されていた点を市場が警戒したことがあると考えられます。

営業赤字拡大は将来への先行投資

営業損失の拡大は短期的には懸念材料ですが、すべてを否定的に捉える必要はありません。

D-ウェーブは、特定の計算問題を効率的に処理する量子アニーリング方式を主力技術としてきました。一方で、2021年には汎用性の高いゲート方式の量子コンピューター開発へ再参入する方針を発表しています。

さらに、2026年1月にはゲート方式の量子技術を開発するクアンタム・サーキッツ社を買収しました。

買収に伴う一時的な費用や研究開発、人材採用、新製品の市場投入に向けた支出が、営業費用を押し上げている可能性があります。

競合のイオンキュー(IONQ)が四半期売上高を約300%増加させ、通期の業績見通しも引き上げたのに対し、D-ウェーブ・クオンタムは目先の売上成長よりも、アニーリング方式とゲート方式の双方を扱える技術基盤の構築に力を入れていると見られます。

*関連記事「売上4倍でも純損失19億ドル イオンキュー決算が映す量子コンピューター覇権への先行投資

防衛・通信分野で広がる事業機会

足元の業績には不安定さが残るものの、長期的な成長につながる事業基盤は整いつつあります。

D-ウェーブは2011年にロッキード・マーティン(LMT)へ量子コンピューターシステムを販売した実績を持っています。近年では、防衛テクノロジー企業のアンドゥリル・インダストリーズや通信大手AT&T(T)との関係も拡大しています。

量子コンピューターは、物流の最適化、通信ネットワーク、防衛、製造、金融など、複雑な組み合わせを扱う分野での活用が期待されています。

特にD-ウェーブが強みを持つ量子アニーリングは、実社会の最適化問題との相性が良いとされており、企業や政府機関での導入事例を積み重ねられるかが今後の成長を左右します。

米政府との合意が持つ意味

将来性を考えるうえで重要なのが、米商務省との暫定的な合意です。

同社は少数株と引き換えに、連邦政府から資金提供を受ける方向で合意しています。量子技術は経済成長だけでなく、防衛、暗号、通信など国家安全保障に直結する重要分野です。

米政府の資金提供対象に選ばれたことは、D-ウェーブの技術や事業が国家戦略上、一定の重要性を持つと評価されていることを示しています。

ただし、政府からの支援が直ちに売上高や利益の増加につながるとは限りません。今後は技術開発の成果を具体的な製品や継続契約へ結びつけられるかが焦点となります。

D-ウェーブの今後の注目点

今回の決算は、D-ウェーブが高い成長期待を持つ一方、事業としてはまだ発展途上にあることを示しました。

上半期のブッキングは大幅に増加しましたが、単一案件への依存度が高く、第2四半期の受注は低水準でした。売上高も市場予想を下回り、営業赤字は拡大しています。

今後は、大型システム販売に加えて、クラウド経由の利用料や継続的な法人契約を増やし、四半期ごとの変動を抑えられるかが重要です。

一方で、アニーリング方式で積み上げた実績、ゲート方式への投資、防衛・通信企業との連携、米政府からの支援は、中長期的な成長を支える材料です。

短期的には業績の変動が大きい状態が続く可能性がありますが、技術開発への投資が受注や売上高へ転換し始めれば、企業価値が大きく変化する余地もあります。投資家にとっては、受注高の伸び率だけではなく、受注の内訳や顧客数、継続収益、営業費用の推移を確認することが重要になります。

情報ソース: Barron’s: “Why D-Wave Quantum Stock Is Sliding After Earnings Reveal a 1,120% Surge in Bookings” (By Mackenzie Tatananni, Aug. 06, 2026)

※本記事は情報の提供を目的としており、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資は自己責任で行ってください。

*過去記事「D-ウェーブとAT&Tの提携拡大が示す量子コンピューティング商用化の現在地

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