2026年7月、S&P 500指数は2014年以来となる7月の月間下落を記録しました。
ただし、米国株市場全体が一方向に冷え込んだわけではありません。指数の内部では、2026年前半まで相場をけん引していた半導体やAIインフラ関連株が大きく売られる一方、ソフトウェア、ITサービス、金融、エネルギーなどへ資金が移動する大規模なセクターローテーションが発生しました。
本記事では、マーケットウォッチがまとめたS&P 500構成銘柄の7月の上昇・下落ランキングを基に、2026年後半の米国株市場で何が評価され、何が警戒され始めているのかを分析します。
7月のS&P 500で大きく下落した銘柄
まずは、2026年7月に大きく下落したS&P 500構成銘柄を確認します。
表1:S&P 500における7月の最大下落銘柄トップ20
| 企業名 | 7月の株価変動率 | 2026年年初来変動率 | 2025年株価変動率 |
|---|---|---|---|
| サンディスク(SNDK) | -46.6% | +411.8% | N/A |
| コーニング(GLW) | -45.9% | +57.9% | +84.3% |
| KLA(KLAC) | -39.4% | +50.5% | +92.8% |
| マーベル・テクノロジー(MRVL) | -37.0% | +120.7% | -23.1% |
| インテル(INTC) | -35.4% | +144.4% | +84.0% |
| コヒレント(COHR) | -33.4% | +42.4% | +94.8% |
| ジェネラック・ホールディングス(GNRC) | -32.7% | +44.5% | -12.0% |
| ラム・リサーチ(LRCX) | -32.4% | +71.2% | +137.0% |
| フレックス(FLEX) | -29.8% | +88.3% | +57.4% |
| アプライド・マテリアルズ(AMAT) | -29.8% | +97.5% | +58.0% |
| マイクロン・テクノロジー(MU) | -28.7% | +188.4% | +239.1% |
| バーティブ・ホールディングス(VRT) | -27.9% | +49.1% | +42.6% |
| レノックス・インターナショナル(LII) | -27.4% | -14.4% | -20.3% |
| テスラ(TSLA) | -26.0% | -30.8% | +11.4% |
| ビルダーズ・ファーストソース(BLDR) | -25.7% | -35.4% | -28.0% |
| テラダイン(TER) | -24.0% | +90.0% | +53.7% |
| キャタピラー(CAT) | -23.5% | +42.2% | +57.9% |
| アプラビン(APP) | -23.2% | -41.2% | +108.1% |
| シエナ(CIEN) | -23.1% | +61.2% | +175.8% |
| モデルナ(MRNA) | -21.7% | +85.9% | -29.1% |
半導体・AIインフラ株に集中した利益確定売り
下落銘柄を見ると、サンディスク、KLA、マーベル・テクノロジー、インテル、ラム・リサーチ、アプライド・マテリアルズ、マイクロン・テクノロジーなど、半導体関連企業が目立ちます。
さらに、光通信関連のコヒレントやシエナ、データセンター向け電力・冷却設備を手掛けるバーティブも大幅に下落しました。
この結果だけを見ると、AI・半導体相場が崩壊したようにも感じられます。しかし、2026年年初来の株価変動率を見ると、異なる景色が見えてきます。
サンディスクは7月に46.6%下落したものの、年初来では+411.8%です。マイクロン・テクノロジーも7月に28.7%下落しましたが、年初来では+188.4%を維持しています。
インテルは+144.4%、マーベル・テクノロジーは+120.7%、アプライド・マテリアルズは+97.5%です。
つまり、7月の急落は半導体産業の成長ストーリーが否定されたというより、2026年前半に急騰した銘柄へ利益確定売りが集中した結果と考えられます。
暴落ではなく過熱相場のガス抜きか
AIデータセンターへの投資拡大、先端半導体需要、HBMを中心としたメモリ需要の増加といった長期的な成長テーマは続いています。
一方、株価が短期間で数倍に上昇した銘柄については、将来の成長を相当程度織り込んでいました。そのため、決算が市場予想を上回ったとしても、受注や利益率、業績見通しにわずかな不安が見られるだけで、大規模な売りが発生しやすくなります。
7月の下落は、AIブームの終わりというよりも、期待先行で上昇した銘柄のバリュエーションを調整するガス抜きの側面が強いと考えられます。
ただし、テスラ、ビルダーズ・ファーストソース、キャタピラーなども大きく下落しました。金利上昇や景気減速への警戒が、住宅、自動車、設備投資関連の景気敏感株にも広がったことを示しています。
7月のS&P 500で大きく上昇した銘柄
次に、厳しい市場環境の中で大きく上昇した銘柄を確認します。
表2:S&P 500における7月の最大上昇銘柄トップ20
| 企業名 | 7月の株価変動率 | 2026年年初来変動率 | 2025年株価変動率 |
|---|---|---|---|
| コグニザント・テクノロジー(CTSH) | +42.9% | -33.3% | +7.9% |
| アクセンチュア(ACN) | +33.3% | -38.2% | -23.7% |
| ペイパル・ホールディングス(PYPL) | +32.5% | -2.0% | -31.6% |
| ワークデイ(WDAY) | +31.0% | -25.3% | -16.8% |
| ウィリス・タワーズ・ワトソン(WTW) | +28.5% | +2.2% | +4.9% |
| Cboeグローバル・マーケッツ(CBOE) | +27.8% | +23.6% | +28.5% |
| フィリップス66(PSX) | +25.2% | +64.0% | +13.3% |
| マイクロソフト(MSFT) | +24.6% | -3.9% | +14.7% |
| HP(HPQ) | +24.3% | +22.4% | -31.7% |
| デックスコム(DXCM) | +23.9% | +25.7% | -14.7% |
| インターコンチネンタル・エクスチェンジ(ICE) | +23.9% | -5.9% | +8.7% |
| マラソン・ペトロリアム(MPC) | +23.8% | +94.6% | +16.6% |
| ガーミン(GRMN) | +23.7% | +44.8% | -1.7% |
| バクスター・インターナショナル(BAX) | +22.7% | +36.9% | -34.5% |
| レジェネロン・ファーマシューティカルズ(REGN) | +22.3% | -1.2% | +8.4% |
| アドビ(ADBE) | +22.1% | -28.5% | -21.3% |
| IQVIAホールディングス(IQV) | +21.6% | +4.3% | +14.7% |
| CMEグループ(CME) | +21.3% | -1.9% | +17.6% |
| インテュイット(INTU) | +21.1% | -52.3% | +5.4% |
| PTC(PTC) | +20.8% | -21.2% | -5.3% |
出遅れていたソフトウェア・ITサービス株が復活
上昇ランキングでは、コグニザント・テクノロジーやアクセンチュアなどのITサービス企業、ワークデイ、アドビ、インテュイット、PTCなどのソフトウェア企業が目立ちます。
これらの多くは、2026年前半に大きく売られていた銘柄です。
コグニザント・テクノロジーは7月に+42.9%上昇しましたが、年初来では-33.3%です。アクセンチュアは-38.2%、ワークデイは-25.3%、アドビは-28.5%、インテュイットは-52.3%となっています。
AIによって既存のソフトウェアやITコンサルティングが代替されるとの警戒から、これらの企業は長期間売られていました。
しかし、株価下落によってバリュエーションが低下する一方、各社の顧客基盤、継続課金収入、キャッシュフロー創出力は維持されています。
半導体などの急騰銘柄を売却し、収益力が高いにもかかわらず出遅れていたソフトウェア・サービス企業を買う、典型的な資金循環が発生したと考えられます。
金融取引所とエネルギー株にも資金が流入
Cboeグローバル・マーケッツ、インターコンチネンタル・エクスチェンジ、CMEグループといった金融取引所関連も上昇ランキングに入りました。
株式市場の変動率が高まると、株式、先物、オプションなどの取引量が増加しやすくなります。取引所運営企業は、相場が上昇しても下落しても取引手数料を得られるため、不安定な市場環境で収益の安定性が評価されやすい企業です。
また、フィリップス66とマラソン・ペトロリアムなどのエネルギー関連株も上昇しました。
AI・半導体関連へ集中していた資金が、金融、エネルギー、ヘルスケアなど、安定した利益やキャッシュフローを生み出す分野へ分散し始めたことが分かります。
AIブームはインフラ構築から収益化の段階へ
7月のデータが示しているのは、AIブームの終了ではなく、AI投資テーマの成熟です。
これまでは、半導体、メモリ、サーバー、ネットワーク、電力、冷却設備など、AIインフラを構築する企業が高く評価されてきました。
今後は、構築されたAIインフラを活用し、実際に売上高や利益、キャッシュフローを増加させられる企業が評価される段階に入ります。
マイクロソフトが7月に+24.6%上昇したことは象徴的です。同社はAIインフラへ巨額投資を行う一方、Azure、Microsoft 365、Copilotなどを通じて、AIを継続課金型サービスとして収益化しています。
市場の関心は、AI向け設備を販売する企業だけでなく、AIによって顧客単価や契約件数、生産性、利益率を高められる企業へ移りつつあります。
2026年後半は期待より実績が問われる
2026年前半は、AIとの関連性が高いというだけで株価が大きく上昇する企業も見られました。
しかし、7月の急変動を経て、市場は企業ごとの売上成長率、利益率、受注残、キャッシュフロー、業績見通し、バリュエーションを厳しく確認するようになっています。
半導体やAIインフラ関連は、長期的には引き続き有望な投資テーマです。ただし、株価が短期間で大幅に上昇した銘柄については、高い市場期待に届かなければ、好決算であっても大きく売られる可能性があります。
一方、ソフトウェア、ITサービス、金融、エネルギーなど、これまで出遅れていた分野には再評価の余地があります。
2026年後半の米国株市場では、人気テーマを追いかけるだけでなく、実際に利益を生み出しているか、現在の株価が成長力に見合っているかを見極める姿勢が一段と重要になります。
情報ソース: MarketWatch: “ S&P 500 ends with its first July decline since 2014. Here are the stocks that led the selloff.” (By Philip van Doorn, July 31, 2026)
※本記事は情報の提供を目的としており、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資は自己責任で行ってください。
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