IBM株に303ドルの壁 量子の価値65ドルでも強気になれない事情

  • 2026年7月12日
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米投資情報誌『バロンズ』は2026年7月10日、サスケハナのアナリストであるジェームズ・フリードマン氏が、IBM(IBM)の調査カバレッジを開始したと報じました。投資判断は「中立(Neutral)」、目標株価は303ドルです。

IBMの株価は同日に2.6%下落し、287.56ドルで取引を終えました。目標株価までの上昇余地は約5%にとどまり、アナリストがIBMの成長性を評価しながらも、現在の株価水準では積極的に買いを推奨していないことが分かります。

IBM株は2026年第2四半期に約25%上昇し、5月末には過去20年以上で最大となる週間上昇率を記録しました。しかし、年初来では10日時点で約3%の下落となっており、10%以上上昇しているS&P 500種株価指数に対して大きく後れを取っています。

短期間では量子コンピューティングへの期待から株価が急騰した一方、年間を通じて見ると市場平均を下回っています。この対照的な株価動向は、IBMが持つ大きな成長機会と、既存事業が抱える構造的なリスクの両方を反映していると考えられます。

IBMの成長を支える量子コンピューティング

IBMの将来性を考えるうえで、最も注目される事業が量子コンピューティングです。

フリードマン氏は、IBMの量子コンピューティング部門だけで1株当たり65ドルの価値があると試算しました。株価287.56ドルを基準にすると、IBM全体の企業価値の2割強を量子関連事業が占める計算になります。

量子コンピュータは、従来型コンピュータでは膨大な時間が必要となる複雑な計算を高速で処理できる可能性を持っています。創薬、金融、物流、素材開発、暗号、人工知能など、幅広い産業での活用が期待されています。

IBMの強みは、量子コンピュータの研究開発だけでなく、すでにクラウド経由で量子コンピュータへのアクセスを提供し、収益化を進めている点です。単なる研究プロジェクトではなく、顧客が実際に利用できるプラットフォームとして事業を展開しています。

今後、量子技術の性能向上と利用企業の拡大が続けば、IBMは量子コンピューティング市場で先行者利益を獲得できる可能性があります。ハードウェアだけでなく、クラウド、ソフトウェア、開発環境、コンサルティングを一体で提供できることも、同社の競争力となります。

5月末に記録した株価の急騰も、IBMが量子コンピューティング市場の有力企業として再評価されたことが背景にあると考えられます。

AI事業はコンサルティング依存が課題

量子コンピューティングへの期待が高まる一方、IBMのAI関連事業には収益性の課題があります。

IBMは「watsonx」を中心とするAI製品群を展開していますが、現在のAI関連受注の多くはコンサルティング部門によるものです。コンサルティングは顧客企業のAI導入を支援する重要な事業ですが、一般的にはソフトウェアライセンスやクラウドサービスと比べて利益率が低く、人員の増加も必要になります。

AI関連の受注が拡大しても、その大部分が人手を必要とするコンサルティングであれば、売上高の成長がそのまま利益率の上昇につながるとは限りません。

IBMが今後、高い収益性を実現するためには、AI導入支援だけでなく、watsonxを継続課金型のソフトウェアやクラウドサービスとして広く普及させる必要があります。AI事業の成長率だけでなく、ソフトウェア収入とコンサルティング収入の構成比が重要になります。

生成AIがメインフレーム事業を脅かす可能性

IBMにとって、より大きなリスクとなる可能性があるのが、生成AIによるレガシーシステムの近代化です。

多くの銀行、保険会社、政府機関、大企業では、現在もIBMのメインフレームとCOBOLで構築された基幹システムが利用されています。これらのシステムは企業活動を支える重要な存在ですが、長年の改修によって複雑化し、新しいシステムへの移行には高いコストと大きなリスクが伴います。

顧客企業が簡単にメインフレームから移行できないことは、IBMに安定した保守・運用収入をもたらしてきました。

しかし、生成AI企業のアンソロピックは、古いCOBOLコードの解析やモダナイゼーションを効率化するツールを公開しました。AIによって古いプログラムの構造を把握し、新しい言語やクラウド環境への移行が容易になれば、企業がメインフレームから離れる際の障壁が低下する可能性があります。

IBMにとってAIは、watsonxの需要を拡大する成長要因である一方、自社の安定収益を支えてきたレガシーシステムを置き換える技術にもなり得ます。

メインフレームの利用企業が減少すれば、保守契約や関連ソフトウェアの収入だけでなく、移行支援やシステム運用に関するコンサルティングの価格交渉力も低下する恐れがあります。

IBMの将来性を左右する2つのスピード

IBMの将来性は、量子コンピューティングを中心とする新規事業の成長スピードと、メインフレームや従来型コンサルティング事業の衰退スピードのどちらが上回るかによって決まります。

量子コンピューティング市場で主導的な地位を確立できれば、IBMは次世代のコンピューティング基盤を提供する企業として再成長できる可能性があります。しかし、量子事業が本格的な利益を生み出すまでには時間が必要です。

その間に、生成AIによるシステム移行の効率化が進み、メインフレーム関連の高利益率収入が減少すれば、新規事業の成長が既存事業の縮小を補い切れない可能性もあります。

第2四半期の株価上昇は量子コンピューティングへの期待を示しています。一方、年初来でS&P 500を下回っていることは、既存事業の成長力やAI時代における競争力について、市場が慎重に見ていることを表しています。

IBMは量子コンピューティングという強力な成長カードを持っていますが、現在の株価には一定の期待がすでに織り込まれています。投資家は量子分野の技術的な進展だけでなく、AI関連売上高の収益性、ソフトウェア事業の成長率、メインフレーム収入の変化を継続的に確認する必要があります。

IBMへの投資判断では、量子コンピューティングの夢だけを見るのではなく、既存の高利益率事業がどの程度維持されるのかを含めて評価することが重要です。

情報ソース: Barron’s: “IBM Is a Great Quantum Play. It’s Still Not a Buy.” (By Mackenzie Tatananni, July 10, 2026)

※本記事は情報の提供を目的としており、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資は自己責任で行ってください。

*過去記事はこちら IBM

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