PER最安水準でも安心できない…AIが選別するSaaS銘柄「生き残り」と「脱落」の境界線

  • 2025年12月22日
  • 2025年12月22日
  • BS余話

米国株市場では、エヌビディアをはじめとするAIインフラや半導体銘柄への資金集中が続く一方で、かつて市場を牽引したソフトウェア・セクターが歴史的な割安水準で放置されています。

2025年12月20日付のマーケットウォッチの記事によると、ナスダック100やS&P500情報技術セクター等の主要銘柄のうち、10社が予想PERベースで「過去5年間の最低水準から10%以内」という歴史的安値圏で取引されているとのことです。

本日は、同記事で紹介されたスクリーニングデータを確認しつつ、SaaSの巨人たちが直面している「AIによる選別」の現状について、投資家が留意すべきポイントを解説します。

1. 過去5年の最安値圏にある10銘柄とデータ

まず、マーケットウォッチがファクトセットのデータを基に抽出した、過去5年間の予想PER最低値付近で取引されている10社を確認します。多くの銘柄が年初来でマイナスリターンとなっており、市場からの資金流出が顕著であることがデータから読み取れます。

【該当銘柄リスト(予想PER / 5年安値PER / 年初来株価騰落率)】 (出所:マーケットウォッチ記事内のファクトセットデータを基に作成)

  • ローパー・テクノロジーズ(ROP):20.6倍 / 20.5倍 / -15%
  • ワークデイ(WDAY):20.5倍 / 20.4倍 / -15%
  • タイラー・テクノロジーズ(TYL):36.0倍 / 35.7倍 / -20%
  • ゴーダディ(GDDY):17.6倍 / 17.4倍 / -36%
  • サービスナウ(NOW):38.3倍 / 37.7倍 / -27%
  • フォーティネット(FTNT):28.2倍 / 26.9倍 / -15%
  • CDW(CDW):13.9倍 / 13.1倍 / -19%
  • イントゥイット(INTU):27.2倍 / 25.2倍 / +7%
  • セールスフォース(CRM):19.6倍 / 18.1倍 / -23%
  • ガートナー(IT):18.3倍 / 16.6倍 / -48%

通常、これだけのキャッシュフロー優良企業が過去最低水準のPERまで売り込まれる局面は、バリュエーション面での「絶好の買い場」と判断されがちです。しかし、同記事では、これが一時的な不調ではなく、AIネイティブ企業による市場シェア浸食という「構造的な脅威」に起因する可能性を指摘しています。

2. 記事が指摘する「防御」と「攻め」の明暗

上記のリストには具体的な数値が含まれていませんが、記事中ではアドビ(ADBE)も同様の割安水準にあると言及されています。同記事におけるアナリストの分析を要約すると、各社のAI戦略に対する評価には明確な濃淡が出ています。

▼ アドビ:競争激化への懸念
アドビについては、フィグマやキャンバといった競合に加え、生成AI自体がクリエイティブ作業の参入障壁を下げている点が懸念材料として挙げられています。キーバンクやメリウス・リサーチなどのアナリストが相次いで投資判断を引き下げていることからも、市場が「成長の鈍化」を織り込み始めている様子がうかがえます。

▼ セールスフォース & サービスナウ:収益化への期待
一方で、セールスフォースとサービスナウに対しては、AIによる収益化の兆しがあるとの見方が紹介されています。

  • セールスフォース:AIエージェントにおけるトークン処理量の増加や、製品値上げの実施。
  • サービスナウ:AI対応プランでの値上げ成功と、課金モデルの移行。

特に値上げ(プライシングパワーの維持)ができている点は、製品競争力が維持されている証拠として好感されているようです。ただし、サービスナウに関しては、新たな買収報道(アーミス社)による経営戦略のブレを懸念する声もあり、評価が分かれています。

3. 【考察】SaaS銘柄の「バリュートラップ」を避けるために

ここからは、上記の報道内容を踏まえ、現在の相場環境においてこれらSaaS銘柄をどう評価すべきか考察します。

ハードウェアからソフトウェアへの資金循環は起きるか
現在、市場の関心は「AIを作るためのインフラ(半導体など)」に集中していますが、次のフェーズとして「AIを使って稼ぐアプリケーション(ソフトウェア)」へ資金が循環(セクターローテーション)する可能性は常に議論されています。 今回のリストにある企業群が「底値」であるならば、ローテーションが起きた際のアップサイドは大きいと考えられます。

「安さ」の理由を見極める
しかし、単にPERが低いというだけで飛びつくのはリスクが高い局面です。SaaS企業において重視される指標の一つに「Rule of 40(売上成長率+利益率が40%を超えるべき)」がありますが、AI投資のコスト増によって利益率が圧迫され、かつ競争激化で成長率が鈍化する「ダブルパンチ」の状態にある企業は、低PERであっても正当化される(=バリュートラップとなる)可能性があります。

投資判断の分かれ目
報道にある通り、セールスフォースのように「AI機能の実装が値上げにつながっているか」は極めて重要なシグナルです。

  • アドビ型のリスク:AIが自社製品の代替品(競合)となってしまう。
  • セールスフォース型の期待:AIが自社製品の付加価値を高め、単価向上につながる。

このどちらに転ぶかを見極めるには、四半期ごとの決算で「AI関連の売上寄与」が具体的な数字として表れてくるのを待つのが賢明でしょう。不確実性が高い現状では、割安感だけで判断せず、AIによる収益化(Monetization)の確証が得られるまで慎重な姿勢を崩さないことが、資産を守ることにつながります。

情報ソース: MarketWatch: “Adobe and these 9 fellow tech stocks are rarely this cheap. Are they great deals or value traps?” (By Christine Ji, Dec. 20, 2025)

※本記事は情報の提供を目的としており、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資は自己責任で行ってください。

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