AI(人工知能)の進化は、株式市場にも大きな変化をもたらしています。企業の決算分析や市場予測だけでなく、実際にAIが銘柄を選定して運用するETF(上場投資信託)も数多く登場しました。
「AIなら人間よりも正確に市場を分析し、高いリターンを実現できるのではないか」
このような期待を抱く投資家は少なくありません。しかし、これまでの運用実績を振り返ると、AIが市場を大きく上回る成果を安定して生み出しているとは言い難い状況です。
本記事では、マーケットウォッチで報じられたデータをもとに、AI搭載ETFの現状を整理するとともに、その課題や将来性について考察します。
AI搭載ETFが直面する厳しい現実
AIによる運用は近年急速に注目を集めましたが、その道のりは決して順調ではありません。
モーニングスターの分析によると、2017年以降に設定されたAI活用ETF16本のうち、すでに8本が運用を終了しています。つまり、約半数が市場から姿を消したことになります。
さらに、生き残ったファンドについても成績は決して芳しくありません。
設定来の平均リターンは、米国市場全体へ投資する代表的なETFであるバンガード・トータル・ストック・マーケットETF(VTI)を年率約5%下回っています。さらに、一部のファンドでは毎年10%以上も市場平均を下回る結果となっています。
AIは大量のデータを高速で分析できる一方で、市場には過去のデータだけでは説明できない出来事が数多く存在します。
金融市場は企業業績だけで動くわけではありません。地政学リスク、政策変更、金融当局の発言、突発的なニュース、さらには投資家心理までもが株価に影響を与えます。
AIは過去から学習して未来を予測しますが、過去に存在しなかったイベントに対しては十分な対応が難しく、予測精度が低下するケースも少なくありません。
また、高度なAIモデルを運用するためには継続的なシステム開発やデータ処理が必要となります。さらに頻繁な売買が発生すると売買コストも増加するため、それらのコストがリターンを押し下げている可能性も考えられます。
インデックス投資の強さを改めて証明した結果
AIが特に苦戦しているのが、低コストなインデックスETFとの比較です。
例えば、ウィズダムツリーが2022年に設定したAI搭載ETFのAI Enhanced Value Fund(AIVL)は、設定来リターンが44%となっています。
一方、同じ投資テーマのベンチマークとなるバンガードのETFは67%のリターンを記録しました。
海外バリュー株についても同様です。
AIを活用したAI International Enhanced Value Fund(AIVI)ファンドのリターンは67%でしたが、比較対象となるiシェアーズ(IVLU)は90%に達しています。
一見すると、割安株の発掘はAIが得意とする分野に思えます。
企業の財務データやPER、PBR、利益率などを瞬時に分析できるため、人間よりも効率的に有望企業を見つけられそうに感じます。
しかし現実には、数字上は割安でも将来の成長力が乏しい企業を選んでしまうケースがあり、市場全体を上回る成果には結び付いていません。
AIは「割安」という数値には強く反応できますが、「今後成長する企業かどうか」という定性的な判断は依然として難しい部分が残っています。
長期投資ではシンプルな運用が依然として優位
AI運用ETFの代表例として知られるAI-Powered Equity ETF(AIEQ)の実績も興味深い結果となっています。
設定来のリターンは96%でしたが、市場全体へ投資するETFは172%という高いリターンを記録しています。
もちろん96%という数字自体は決して悪い成績ではありません。
しかし、投資家が期待していた「AIなら市場を大きく上回る」という結果には至っていません。
その背景には、近年の米国株市場を牽引してきた巨大テクノロジー企業の存在があります。
エヌビディア(NVDA)をはじめとする大型AI関連銘柄は、株価が急騰しても高PERを理由にAIモデルが利益確定を急ぎ、上昇相場に十分乗れなかったケースがあったと分析されています。
人間のファンドマネージャーであれば、「市場全体がAI革命を評価している」という流れを踏まえて保有を継続する判断を下すことがあります。
一方でAIは設定されたアルゴリズムに忠実であるため、急騰局面では機械的に利益確定を行い、その後の大幅上昇を取り逃すケースも起こり得ます。
結果として、市場全体をそのまま保有するインデックス投資の方が高いリターンを得られる状況が続いています。
AI運用は進化の途中にある
ただし、AI搭載ETFの将来性を悲観する必要はありません。
実際に運用会社はAIの弱点を認識し、運用手法を見直し始めています。
その代表例がAIEQの運用変更です。
同ETFは2024年初頭から、ポートフォリオのリバランス頻度を日次から月次へ変更しました。
これは非常に重要な改善と考えられます。
毎日売買を繰り返すと、小さな市場変動にもAIが過剰反応し、売買回数が増えて取引コストが膨らみます。
月次運用へ切り替えることで短期的なノイズに振り回されにくくなり、中長期のトレンドを重視する運用へと進化しています。
つまり、AIを超短期売買のツールとしてではなく、中長期投資を支援する分析ツールとして活用しようという方向へ変化しているのです。
AIモデルの進歩が将来を左右する
AIそのものも急速に進歩しています。
香港大学の研究では、市場平均を上回る可能性を持つAIモデルが発表されるなど、学術分野でも研究が活発化しています。
さらに、ボヤ(VOYA)やクアンタムストリートAIなどの企業は、AIモデルの改良やデータ管理を継続的に進めています。
生成AIの進歩も無視できません。
オープンAIやアンソロピックなどが開発する大規模言語モデルは、文章理解や情報整理能力が飛躍的に向上しています。
こうした技術が金融市場へ本格的に応用されれば、企業決算、ニュース、SNS、市場心理など、従来のAIでは扱いきれなかった情報まで分析対象となる可能性があります。
今後は、数値データだけでなく、企業経営者の発言や市場センチメントまで含めて総合的に判断できるAIへと進化していくことが期待されています。
結論
現在の運用実績を見る限り、「AI搭載ETFなら市場平均を簡単に上回れる」という考え方は現実的ではありません。
実際のデータでは、多くのAIファンドが低コストなインデックスETFに劣後しており、半数近くが市場から撤退しています。
一方で、AI技術そのものは現在も急速に進化を続けています。
運用会社も頻繁な売買を見直し、中長期投資を重視する方向へ戦略を修正しています。また、生成AIや新たな機械学習モデルの発展によって、従来の弱点を克服できる可能性も十分にあります。
現時点では、インデックス投資が依然として有力な選択肢であることに変わりはありません。
しかし5年後、10年後にはAIが市場分析の在り方そのものを変え、投資手法の常識を書き換える可能性も否定できません。
投資家として重要なのは、「AIだから勝てる」と過度に期待することでも、「AIは役に立たない」と決め付けることでもありません。
技術の進歩と運用手法の変化を冷静に見極めながら、長期的な視点でAI投資の進化を注視していく姿勢が求められます。
情報ソース: MarketWatch: “Opinion: Can AI-powered ETFs beat the stock market?” (By Brett Arends, July 24, 2026)
※本記事は情報の提供を目的としており、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資は自己責任で行ってください。
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