半導体市場は値動きが激しく、投資家心理が大きく揺れやすいセクターです。直近ではフィラデルフィア半導体株指数(SOX指数)が高値から20%以上下落し、弱気相場入りしたことが注目されました。
しかし、その後はメモリー半導体関連銘柄を中心に急反発する場面も見られています。市場全体には警戒感が残る一方、AI向けデータセンターの拡大によって、DRAMやNAND型フラッシュメモリーの需要は依然として強い状態です。
本記事では、モルガン・スタンレーやキーバンクの分析、SKグループ経営陣の発言をもとに、メモリー半導体市場の現在地と2028年までの展望を考察します。
AI需要が引き起こすDRAMのボトルネック
生成AIの学習や推論には、大量のデータを高速で処理するためのメモリーが欠かせません。AIサーバーの性能はGPUだけで決まるものではなく、DRAMや高帯域メモリーの容量、転送速度、供給量にも大きく左右されます。
モルガン・スタンレーのアナリストは、AIによるDRAM消費がボトルネックの状態にあると指摘しています。AIインフラへの投資が急拡大する一方で、メモリーの供給能力が需要の伸びに追いついていないためです。
供給不足が続けば、メモリーメーカーは価格交渉で優位に立ちやすくなります。キーバンクは、今年第3四半期のDRAM価格が前四半期比15~20%上昇し、第4四半期もさらに15%上昇すると予測しています。
NAND型フラッシュメモリーについては、第3四半期に30~40%上昇するとの見通しが示されました。予測通りに価格が上昇すれば、マイクロン・テクノロジー(MU)やSKハイニックス(SKHY)などの売上高と利益率を押し上げる要因になります。
AI半導体の主役はGPUだけではない
AI関連株では、GPUを提供するエヌビディア(NVDA)や、ネットワーク半導体を手がけるブロードコム(AVGO)が注目されがちです。
ただし、GPUの演算性能を十分に引き出すためには、高速かつ大容量のメモリーを組み合わせる必要があります。GPUだけを増やしても、メモリーの容量や転送速度が不足すれば、AIシステム全体の処理能力は制限されます。
このため、AIインフラ投資の拡大はメモリー需要の増加に直結します。AI市場の成長が続く限り、DRAMやNANDを供給する企業は、AIエコシステムの重要な構成企業として恩恵を受ける可能性があります。
SKグループ会長がメモリー価格の過熱に警鐘
需要見通しが強い一方で、現在の価格上昇に対する警戒論も出ています。
SKグループの崔泰源(チェ・テウォン)会長は、現在のメモリー価格を異常な水準と表現し、長期的には持続不可能との見方を示しました。価格が正常化しなければ、製品需要が縮小するほか、新規参入や競合企業による供給拡大を招く可能性があると指摘しています。
この発言は、メモリー株に対する弱気材料として受け止められる可能性があります。ただし、現在の市場がそれだけ高い収益性を持っていることを、業界トップが認めた発言とも捉えられます。
さらに同会長は、来年のメモリー需要が全体で60%近く増加し、2027年までは需要が供給を上回る状態が続くとの見通しも示しています。
価格上昇が永遠に続くわけではありませんが、少なくとも短中期では、AIを中心とする需要の増加が供給能力を上回る可能性が高いと考えられます。
供給不足は2028年まで続くのか
半導体業界は、需要増加、設備投資、供給過剰、価格下落を繰り返す「シリコンサイクル」の影響を受けてきました。
しかし、モルガン・スタンレーやキーバンクは、今回のメモリー不足が少なくとも2028年まで続く可能性があると予測しています。
メモリーの生産能力を増強するには、クリーンルームの建設や製造装置の導入、歩留まりの改善などに長い時間がかかります。キーバンクによると、クリーンルーム拡張による本格的な生産能力の増加は、2027年後半まで期待しにくい状況です。
仮に設備投資が計画通り進んだとしても、その間にAIサーバーやデータセンターの需要がさらに拡大すれば、供給不足は簡単には解消されません。
今回のメモリー需要が一時的な特需ではなく、数年間続く構造的な変化であるならば、従来のシリコンサイクルとは異なる長期的な成長局面に入っている可能性があります。
激しい株価調整は投資機会になるのか
メモリー需要の見通しが強い一方で、関連銘柄の株価は大きく変動しています。
マイクロン・テクノロジーの株価は過去1カ月で30%下落し、時価総額が6月5日以来初めて1兆ドルを割り込む場面がありました。その後、週明けの7月20日には一時5.3%上昇して893.53ドルとなり、サンディスク(SNDK)などの関連銘柄も反発しました。
過去12カ月で700%近く上昇した後であることを考えれば、利益確定売りや市場全体のリスク回避によって、株価調整が大きくなった面もあります。
一方、キーバンクはマイクロン・テクノロジーにオーバーウェイトの評価を付け、目標株価を1,750ドルに設定しています。短期的な値動きには慎重な姿勢が必要ですが、機関投資家はAIによるメモリー需要の拡大を長期的な成長要因として評価しています。
メモリー株を見るうえで注目したいポイント
今後のメモリー半導体市場では、価格上昇の大きさだけではなく、その持続性を確認する必要があります。
注目したいのは、DRAMやNANDの価格推移、AI向けメモリーの出荷量、各社の設備投資計画、そして新規供給の立ち上がり時期です。価格上昇が急激すぎれば、顧客の需要を抑制したり、競合企業の参入を促したりする可能性があります。
一方で、AIインフラ投資が市場予想を上回り続ければ、供給能力を増やしても不足が解消されない展開も考えられます。
短期的には株価の乱高下が続く可能性がありますが、投資家にとって重要なのは、日々の値動きだけで判断しないことです。2028年まで続く可能性がある需給の歪みが、各社の業績にどの程度反映されるかを見極める必要があります。
メモリー半導体は、AIブームを支える裏方ではなく、AIインフラの性能と拡張速度を左右する中核部品です。強気な需要予測と価格正常化への警戒論が交錯するなかでも、メモリー市場がAI時代の重要な投資テーマである状況は続きそうです。
情報ソース: MarketWatch: “As Micron’s stock rebounds, Morgan Stanley says investors shouldn’t get spooked by the past” (By Britney Nguyen, July 20, 2026)
情報ソース: Barron’s: “Why Micron Stock Is Rising After SK Hynix Warning” (By Adam Clark, July 20, 2026)
※本記事は情報の提供を目的としており、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資は自己責任で行ってください。
*過去記事「半導体株19銘柄が25%以上急落、それでもAI相場は終わっていないのか」
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