AI(人工知能)の急速な進化により、テクノロジー業界の資金の流れや企業のビジネスモデルが、大きな転換点を迎えています。
かつて「ソフトウェアが世界を飲み込む」と表現された時代から一転し、現在はソフトウェア企業自身がAIに飲み込まれるリスクに直面しています。
ただし、ソフトウェア市場そのものが消滅するわけではありません。重要なのは、AI時代に適した課金体系や製品構造へ移行できるかどうかです。
本記事では、市場データや主要企業の動きを基に、ソフトウェア業界で今後勝者となる企業と、淘汰される可能性が高い企業の違いを分析します。
半導体に資金が集中するソフトウェア「冬の時代」
現在の株式市場では、AI関連投資の資金がソフトウェアよりも半導体やデータセンターなどのハードウェア分野へ集中しています。
過去1年間でPHLX半導体株指数が108%上昇した一方、100社以上のソフトウェア株を保有するETFのIGMは15%下落しました。
IBM(IBM)の決算でも、企業のIT予算がサーバーやメモリへ振り向けられたことで、ソフトウェアやメインフレーム事業の販売が低迷しました。これを受け、IBM株は25%下落しています。
企業は現在、限られたIT予算をAIインフラの整備に優先的に投じています。そのため、既存ソフトウェアへの支出が一時的に抑制されているのです。
もっとも、新しいテクノロジー市場は、最初に半導体やサーバーなどのインフラが整備され、その後にアプリケーションやサービスへ価値が広がる傾向があります。
現在はAIインフラ投資の初期段階であり、ソフトウェア業界にとっては冬の時代です。しかし、AIを実際の業務に活用する段階が本格化すれば、ソフトウェアへの投資が再び拡大する可能性があります。
SaaSの高利益率モデルが崩れ始めている
従来のクラウドソフトウェア企業は、利用者数に応じて料金を徴収するサブスクリプション型のビジネスモデルによって、70%から90%という高い粗利益率を維持してきました。
しかし、AIエージェントが人間の業務を代替するようになれば、1人の利用者ごとに料金を請求する「シート課金」の仕組みは成長しにくくなります。
例えば、アドビ(ADBE)が提供するCreative Suiteは月額70ドルですが、一部の作業は月額20ドルのChatGPTでも対応できるようになっています。
教育関連ソフトウェアのチェグ(CHGG)も、生成AIによって従来の学習支援サービスの価値を奪われ、株価は78セントまで下落しました。
さらに、企業が外部のソフトウェアを購入せず、AIを利用して自社開発する動きも始まっています。パランティア・テクノロジーズ(PLTR)は、既存のCRMベンダーを自社開発アプリへ置き換えたことを明らかにしています。
今後は利用者数ではなく、実際のデータ処理量やAIの利用回数に応じて料金を徴収する従量課金モデルが重要になります。
スノーフレイク(SNOW)の直近の粗利益率は66%であり、従来のSaaS企業と比べると低い水準です。それでも、AI時代の利用形態に適した消費型モデルを採用している点は強みです。
ユーザー単位のライセンス売上への依存度が40%未満のSAP(SAP)も、ビジネスモデル転換の影響を比較的受けにくい企業と考えられます。
自社の主力事業を破壊できる企業が生き残る
AI時代における既存ソフトウェア企業の生存条件は、自社の成功モデルを自ら破壊できるかどうかです。
セールスフォース(CRM)の予想PERは、一時の20倍から12倍へ低下しました。市場は従来型CRMの成長性に疑問を持ち始めています。
これに対し、セールスフォースはAIエージェントサービスのAgentforceを展開し、年間経常収益を12億ドルまで拡大しました。
さらに、データ基盤を強化するためにインフォマティカ(INFA)を80億ドルで買収し、人間向けの操作画面を持たない「ヘッドレス版」も投入しています。
ヘッドレス版は、人間が画面を操作するのではなく、他社のAIエージェントが裏側からセールスフォースの機能を利用するための仕組みです。
これは、同社が従来のUIやユーザー課金に固執せず、AIエージェントを支えるデータ基盤へ変化しようとしていることを示しています。
マイクロソフト(MSFT)も、自社製品で発見された500件以上の脆弱性をAIで修正するなど、AIを実際の業務へ組み込んでいます。
また、オープンAIの約25%を保有し、AIモデルを自社のクラウドや業務ソフトウェアへ統合する戦略を進めています。
過去にモバイルOS市場で後れを取ったマイクロソフトは、その教訓を生かし、AI分野では早い段階から大規模投資を行っています。
初期の勝者はセキュリティとデータ基盤
AI時代のソフトウェア市場で、すでに明確な需要が生まれているのがサイバーセキュリティとデータ統合の分野です。
過去3カ月で、クラウドストライク・ホールディングス(CRWD)は95%、パロアルトネットワークス(PANW)は112%、オクタ(OKTA)は105%上昇しました。
一方、これらの企業の予想PERは37倍から148倍と高く、市場の期待がすでに株価へ大きく織り込まれています。
データドッグ(DDOG)は80%、パランティアは84%という高い粗利益率を維持しています。企業のシステム監視やデータ統合への需要が、AI投資の拡大とともに増加しているためです。
AIの普及は、企業に生産性向上をもたらす一方、サイバー攻撃の高度化や社内データの急増という新たな課題も生み出します。
AIモデル自体の価格競争が進み、AIがコモディティ化したとしても、安全な運用環境や整理されたデータ基盤は不可欠です。
そのため、セキュリティ企業やデータ基盤企業は、どのAIモデルが勝者になっても需要が残る「ツルハシ売り」の立場を確立しています。
AI時代の勝者を見極める3つの条件
ソフトウェア業界は終わったのではなく、成長のルールが変化しています。
今後の勝者となる企業には、3つの共通点があります。
第1に、ユーザー数に依存したシート課金から、従量課金や成果連動型の料金体系へ移行できることです。
第2に、人間が操作するソフトウェアだけでなく、AIエージェントが利用するデータ基盤やAPIを提供できることです。
第3に、既存事業を守るのではなく、自らカニバリゼーションを起こして新しい市場へ移行する経営判断ができることです。
高い粗利益率や安定したサブスクリプション収入に固執する企業は、AIによる代替や顧客の内製化によって成長余地を失う可能性があります。
一方、セールスフォースやマイクロソフトのように、自社の従来型製品をAI時代に合わせて作り変える企業には、再成長の機会があります。
投資家が見るべきなのは、現在の利益率の高さだけではありません。AIによって既存事業が破壊される前に、自らビジネスモデルを変えられる企業かどうかが、今後の重要な判断材料となります。
情報ソース: Barron’s: “ How to Find the Bargains in the Software Stock Wreckage” (By Adam Levine, July 17, 2026)
※本記事は情報の提供を目的としており、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資は自己責任で行ってください。
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