2026年7月16日、世界最大の半導体受託製造企業であるTSMC(TSM)が、第2四半期決算を発表しました。
AI向け半導体需要の拡大を背景に、純利益と売上高はともに大幅な増加を記録し、第3四半期についても市場予想を上回る強気な見通しを示しています。
その一方で、決算発表後の時間外取引では株価が5%近く下落しました。過去最高益を更新する好決算でありながら、なぜ投資家は売りで反応したのでしょうか。
本記事では、TSMCの第2四半期決算を整理したうえで、AI半導体市場における競争力、米国で進める巨額投資の意味、今後の株価を左右するポイントについて考察します。
第2四半期決算は市場予想を大幅に上回る
TSMCの第2四半期決算は、AI関連需要の強さを改めて印象付ける内容となりました。
純利益は前年同期比77%増の7066億台湾ドル、約220億ドルとなり、過去最高を更新しました。アナリスト予想の6240億台湾ドルも大きく上回っています。
1株当たり利益(EPS)は27.25台湾ドルとなり、市場予想の24.20台湾ドルを上回りました。売上高も前年同期比34%増の402億ドルとなり、高い成長率を維持しています。
粗利益率は67.7%でした。依然として極めて高い水準ですが、JPモルガン・チェースが予想していた69.5%には届きませんでした。
さらにTSMCは、第3四半期の売上高について446億ドル〜458億ドルとの見通しを示しました。これは市場予想の433億ドルを上回る水準です。
足元の好業績だけでなく、今後もAI向け半導体需要が継続するとの自信を示した決算だったと言えそうです。
AI半導体市場で強まるTSMCの支配力
TSMCの業績を押し上げている最大の要因は、エヌビディア(NVDA)やアップル(AAPL)をはじめとする大手テクノロジー企業からの旺盛な半導体需要です。
特にAIサーバーに使用される高性能半導体では、微細化された最先端製造プロセスに加え、複数の半導体を高密度で接続する先端パッケージング技術の重要性が高まっています。
TSMCは、こうした最先端分野で他社を大きくリードしています。顧客企業にとっても、最先端AIチップを大量かつ安定的に生産できる企業は限られており、TSMCの存在は代替しにくいものとなっています。
第3四半期の強気な売上高見通しは、AI需要が一時的な投資ブームではなく、データセンターやクラウドサービスを支える長期的な設備投資へ移行していることを示唆しています。
AI半導体市場が拡大するほど、TSMCへの生産依存度も高まりやすい構造です。これが同社の高い利益率と圧倒的な競争力を支えています。
アリゾナへの1000億ドル追加投資の狙い
今回の決算では、魏哲家CEOが米国アリゾナ州での製造拡大に向け、1000億ドルの追加投資を行う方針を発表しました。
これにより、TSMCによる同地域への総投資額は2650億ドルに達します。
この巨額投資には、生産能力の拡大だけでなく、地政学リスクを軽減する狙いがあります。
TSMCの主要な生産拠点は台湾に集中しています。台湾周辺の緊張が高まれば、世界の半導体供給網全体に大きな影響が及ぶ可能性があります。
米国内に最先端半導体の生産基盤を整備することは、エヌビディアやアップルをはじめとする米国企業に対し、より安定した供給体制を提供することにつながります。
また、米国政府や主要顧客との関係を深めることで、最先端半導体市場におけるTSMCの地位を長期的に守る効果も期待できます。
短期的な採算だけではなく、将来の市場シェアと顧客基盤を確保するための戦略的な投資と考えられます。
好決算でも株価が下落した理由
TSMCの米国預託証券(ADR)は、決算発表前までの1年間で77%上昇していました。
しかし、過去最高益と強気な見通しを発表したにもかかわらず、決算発表後の時間外取引では5%近く下落しました。
背景にあるのは、市場の期待値が非常に高くなっていたことです。
株価が大きく上昇した銘柄では、単に市場予想を上回るだけでは十分と評価されない場合があります。投資家は、売上高や利益だけでなく、利益率や設備投資の負担についても、ほぼ完璧な内容を期待します。
今回の粗利益率67.7%は高水準でしたが、JPモルガン・チェースの予想を下回りました。この点が、好材料出尽くしによる利益確定売りのきっかけになった可能性があります。
さらに、アリゾナ州への巨額投資は、長期的には生産基盤の強化につながる一方、短期的には減価償却費や人件費の増加を通じて利益率を押し下げる恐れがあります。
投資家はTSMCの成長性を評価しながらも、巨額投資による収益性への影響を警戒していると考えられます。
TSMCの将来性と投資家が注目すべき点
TSMCの長期的な事業基盤は、今回の決算によって一段と強固になったと言えます。
AI半導体の需要拡大、最先端製造技術における優位性、大手顧客との強固な関係は、今後も同社の成長を支える可能性が高いでしょう。
一方、株価にはすでに高い成長期待が反映されています。好決算であっても、利益率が市場の高い期待に届かなければ、株価が下落する局面は今後も起こり得ます。
また、米国への巨額投資が予定通り進むのか、海外工場のコスト上昇をどこまで吸収できるのかも重要です。
今後のTSMCを見るうえでは、売上高や純利益だけでなく、粗利益率、設備投資額、先端パッケージングの供給能力、米国工場の稼働状況を確認する必要があります。
短期的には高い期待値と巨額投資が株価の重荷となる可能性がありますが、中長期的にはAI時代の半導体インフラを支える中心企業であり続ける可能性が高いと予想されます。
情報ソース: MarketWatch: “ TSMC posts record quarter — but expectations are now ‘exceptionally high,’ says fund manager” (By Nora Redmond, July 16, 2026)
※本記事は情報の提供を目的としており、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資は自己責任で行ってください。
*過去記事はこちら TSMC
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