スペースX株がIPO価格割れ スターシップ13回目の実験は反発の起爆剤となるか

イーロン・マスク氏が率いる宇宙開発企業、スペースX(SPCX)の株価が大きな調整局面を迎えています。

2026年7月15日の取引では、一時132.15ドルまで下落し、135ドルのIPO(新規株式公開)価格を割り込みました。終値は135.27ドル(前日比0.6%安)と、かろうじてIPO価格を上回ったものの、投資家心理は悪化しています。

スペースXは6月11日に上場し、わずか数日後の6月16日には225.64ドルまで上昇しました。しかし、その後は利益確定売りなどに押され、約1カ月で高値から約40%下落しています。

株価だけを見れば、上場直後の期待が急速に剥落したようにも見えます。ただし、スペースXの事業価値まで同じように低下したとは限りません。

同社が開発する完全再利用型ロケット「スターシップ」は、宇宙輸送のコスト構造そのものを変える可能性を持っています。足元の株価調整が一時的な需給悪化なのか、それとも成長期待の見直しなのかを考えるうえで、スターシップの進捗が重要な判断材料となります。

株価急落とアナリストの強気評価に大きな隔たり

スペースX株が下落している背景には、IPO直後の過熱感や高いバリュエーションへの警戒があります。

上場直後に株価が急騰したことで、短期投資家による利益確定売りが出やすくなりました。さらに、将来的に初期投資家や従業員が保有株を売却し、市場に流通する株式数が増えることへの懸念もあります。

こうした需給面の不安は、上場直後の企業では珍しくありません。一方で、ウォール街のアナリストは中長期的な成長性について依然として強気です。

RBCのアナリストであるケン・ハーバート氏は、スペースXの目標株価を225ドルに設定しています。アナリスト全体の平均目標株価は約242ドルであり、135ドル前後の株価からは大幅な上昇余地が見込まれていることになります。

ただし、目標株価は将来の事業計画が順調に進むことを前提とした予測です。現在の株価が割安と断定するのではなく、市場価格とアナリストの事業評価に大きな差が生じていると捉えるべきでしょう。

スターシップが宇宙輸送コストを一変させる

スペースXの成長を左右する最大の要素が、完全再利用型ロケットのスターシップです。同社は2026年7月16日に、13回目となるテスト飛行を予定しています。

スターシップの最大の特徴は、圧倒的な輸送能力と低コストです。

現在、スペースXの主力ロケットであるファルコン9は、約2万5,000キログラムの貨物を宇宙へ運ぶことができます。1キログラム当たりの輸送コストは約1,500ドルとされています。

これに対して、開発中のスターシップは約15万キログラムを輸送できる設計です。輸送能力はファルコン9の約6倍となり、完全再利用が実現すれば、1キログラム当たりのコストは約150ドルまで低下する可能性があります。

この価格低下が実現すれば、宇宙ビジネスの採算性は大きく変わります。

これまで打ち上げ費用が高すぎて実現できなかった大型衛星の大量配備や、宇宙空間での製造、軌道上AIデータセンターといった構想が、商業ビジネスとして成立する可能性が高まるためです。

スターリンクV3の展開が収益拡大を加速させる

スターシップの実用化は、衛星インターネットサービス「スターリンク」の成長にも直結します。

現在のファルコン9でもスターリンク衛星の打ち上げは可能ですが、スターシップを利用すれば、より大型で高性能な次世代V3衛星を一度に多数展開できるようになります。

今回の13回目のテスト飛行では、20機のスターリンクV3衛星を想定した機体の展開試験が予定されています。

V3衛星の配備が本格化すれば、通信速度や通信容量が向上し、一般家庭向けだけでなく、航空機、船舶、企業、政府機関向けサービスの拡大も期待できます。

つまり、スターシップは単なるロケット事業ではありません。スペースXが保有する通信ネットワークの設備投資効率を高め、スターリンクの収益力を引き上げるための重要なインフラでもあります。

ロケット製造を自動車産業型へ変えるスターベース

スペースXの競争力は、ロケットの設計だけではなく製造方法にもあります。

従来の宇宙開発では、ロケットは国家プロジェクトとして1機ずつ製造されることが一般的でした。これに対し、スペースXはロケットを航空機や自動車のように量産する体制を目指しています。

スターシップの製造拠点であるテキサス州ボカチカの「スターベース」を視察したケン・ハーバート氏は、施設について、巨大なコストコが複数集まったような規模であり、内部では自動化された設備や多数の製造ツールが稼働していると説明しています。

スペースXが掲げる将来構想は、数百機のスターシップを運用し、年間数千回の打ち上げを行うことです。

この目標を実現するには、ロケットを少数生産する従来型の方法では足りません。製造、整備、燃料補給、再打ち上げまでを標準化し、繰り返し運用できる体制が必要です。

スターベースへの大規模投資は、スペースXが宇宙開発企業から、巨大な輸送インフラ企業へ変わろうとしていることを示しています。

13回目のテスト飛行で注目すべきポイント

7月16日に予定されている13回目のテスト飛行では、第3世代機体の改良に加え、複数の重要な技術が試されます。

具体的には、スターリンクV3衛星を想定した展開試験、宇宙空間でのRaptorエンジン再点火、機体の制御された再突入、インド洋への着水などが予定されています。

これらの試験が成功すれば、スターシップの実用化に向けた技術的な不確実性は一段と低下します。

一方で、テスト飛行には失敗の可能性があります。機体の損失や計画の遅延が発生すれば、株価が再び大きく下落する展開も否定できません。

また、スターシップが技術的に完成しても、年間数千回の打ち上げを実現するには、規制当局の承認や打ち上げ施設の増設、周辺環境への対応が必要です。

まとめ:IPO価格割れだけで投資判断を決めるのは早い

スペースX株は、高値から大きく下落し、IPO価格付近まで調整しています。しかし、今回の下落は、事業価値の急激な悪化というよりも、上場直後の過熱感と需給悪化が影響している可能性があります。

スターシップが完全再利用を実現し、宇宙輸送コストを大幅に引き下げることができれば、スペースXはロケット会社にとどまらず、衛星通信、宇宙物流、軌道上インフラを支配する企業へ成長する可能性があります。

ただし、その成長シナリオはスターシップの技術的成功を前提としています。現在の株価を買い場と見るかどうかは、短期的な値動きではなく、テスト飛行の進捗、打ち上げ回数、スターリンクの収益成長、量産体制の構築を継続的に確認したうえで判断する必要があります。

13回目のテスト飛行は、単なるロケット実験ではありません。スペースXが構想する「宇宙への低価格ハイウェイ」が現実に近づいているのかを見極める、重要な試金石となります。

情報ソース: Barron’s: “SpaceX Stock Dropped Below Its IPO Price. How it Bounces Back.” (By Al Root, July 15, 2026)

※本記事は情報の提供を目的としており、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資は自己責任で行ってください。

*過去記事はこちら スペースX

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