2026年前半の米国株式市場では、「AIの進化によって従来型のソフトウェア企業は不要になるのではないか」という見方が広がっていました。特に、生成AIによるコーディング支援や業務自動化が進むなかで、ソフトウェアエンジニアの需要低下や、SaaS企業の成長鈍化を懸念する声が強まっていました。
しかし、足元の市場動向を見ると、その悲観論に変化が出始めています。エヌビディア(NVDA)の新たなAIチップをきっかけに、サービスナウ(NOW)、アドビ(ADBE)、アサナ(ASAN)などのソフトウェア関連銘柄が反発しました。これは単なる短期的な買い戻しではなく、AI時代におけるソフトウェア企業の役割が再評価され始めた動きと見ることができます。
エヌビディア新チップが示すエッジAIの可能性
今回の注目点は、エヌビディアがマイクロソフト(MSFT)と連携し、ノートPCやミニPC上でAIエージェントを動かすためのアームベースCPU「RTX Spark」を発表したことです。
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これまでAIの主戦場は、巨大なクラウドデータセンターでした。大量のGPUを並べ、膨大な計算資源を使ってAIモデルを学習・運用するという構図です。しかし、今後はAI処理の一部が個人のPCや企業内デバイスなど、より利用者に近い場所で行われる可能性が高まっています。
この流れは、いわゆる「エッジAI」の拡大を意味します。個人のPC上でAIエージェントが動き、資料作成、データ分析、業務支援、コード生成などを自律的にこなすようになれば、企業はそれらのAIを安全に管理し、既存システムと連携させる必要があります。
つまり、AIハードウェアの進化は、ソフトウェア企業にとって脅威であると同時に、新たな需要を生み出す追い風にもなります。AIを導入する企業が増えるほど、そのAIを管理・統制・活用するためのソフトウェア基盤が必要になるからです。
AIはエンジニアを不要にするのか
市場では一時期、「AIがコードを書くようになれば、ソフトウェアエンジニアの仕事は減る」という見方が広がりました。しかし、足元のデータはむしろ逆の方向を示しています。
2026年に入り、ソフトウェア開発プラットフォームであるGitHubへのアップロード数は3倍に増加し、米国のソフトウェアエンジニア求人件数も15%増えています。
この動きから見えるのは、AIがエンジニアを置き換えているのではなく、エンジニアの生産性を高めているという現実です。AIによってコード作成のスピードが上がれば、企業はより多くのプロジェクトを同時に進められるようになります。その結果、開発そのものの総量が増え、管理ツールや設計ツール、データ基盤、セキュリティ基盤への需要も拡大します。
この観点では、アサナのようなプロジェクト管理ツール、アドビのようなクリエイティブソフト、そしてサービスナウのような業務管理プラットフォームは、AI時代にむしろ重要性を増す可能性があります。
サービスナウが注目される理由
ソフトウェア銘柄のなかでも、特に注目されているのがサービスナウです。同社は5月だけで株価が40%以上上昇し、6月1日の米国市場でも9%上昇しました。
サービスナウの強みは、企業内の業務プロセスを統合し、自動化するプラットフォームを持っていることです。AI時代には、社内のさまざまな部署でAIエージェントが使われるようになります。しかし、その利用状況を管理部門が把握できなければ、「シャドーAI」と呼ばれるリスクが高まります。
シャドーAIとは、企業が正式に承認していないAIツールやAIエージェントが、現場で勝手に使われる状態を指します。これは情報漏えい、コンプライアンス違反、セキュリティリスクにつながる可能性があります。
サービスナウが提供する「AI Control Tower」は、こうしたAI利用を監視・統制する仕組みとして注目されています。AIが企業活動に深く入り込むほど、AIを管理するプラットフォームの必要性は高まります。その意味で、サービスナウはAI時代のエンタープライズITにおける中核企業の一つになる可能性があります。
スノーフレイク急騰が示したデータ基盤の重要性
ソフトウェア企業への再評価は、サービスナウだけにとどまりません。スノーフレイク(SNOW)は決算発表後に株価が46%急騰しました。
この動きが示しているのは、企業がAIを活用するためには、質の高いデータ基盤が不可欠だということです。AIモデルはデータがなければ十分に機能しません。企業内に散らばるデータを整理し、安全に利用できる形にすることが、AI活用の前提になります。
そのため、データクラウドや分析基盤を提供する企業には、AIブームの恩恵が波及しやすいと考えられます。AI関連投資というと半導体やデータセンターに注目が集まりがちですが、その上で動くソフトウェアやデータ基盤も、重要な投資テーマになりつつあります。
年初来下落に残る見直し余地
6月1日の米国市場ではソフトウェア関連銘柄に反発の動きが出ています。サービスナウは9%上昇、アドビは6%上昇、アサナにいたっては18%上昇しました。
一方で、年初来の株価を見ると、依然として大きく下落しています。
サービスナウは年初来で11%下落、アドビは22%下落、アサナは34%下落しています。
ここに投資家が注目すべきポイントがあります。もし年初からの下落が、「AIによってソフトウェア企業の価値が損なわれる」という過剰な悲観論によるものだったとすれば、現在の反発は単なる短期的なリバウンドではなく、評価の見直しの始まりである可能性があります。
もちろん、すべてのSaaS企業が同じように恩恵を受けるわけではありません。競争力の弱い企業や、AIによって機能が代替されやすい企業は厳しい局面を迎える可能性があります。しかし、AIを管理し、企業データを活用し、業務プロセスを高度化する企業には、むしろ新たな成長機会が広がっていると考えられます。
AI時代の勝者はハードウェアだけではない
エヌビディアの「RTX Spark」発表は、単なる新チップのニュースではありません。AIの利用環境がクラウドからPCやローカルデバイスへ広がることで、企業向けソフトウェアの役割がさらに重要になる可能性を示しています。
AIがソフトウェアを不要にするのではなく、AIを使いこなすためのソフトウェアが必要になる。これが、今回の市場反応から読み取れる重要なポイントです。
半導体企業がAIインフラの土台を作る一方で、その上でAIを安全に運用し、業務に組み込み、データと結びつけるのはソフトウェア企業の役割です。2026年前半に強まったSaaS企業への悲観論は、今後徐々に修正されていく可能性があります。
AI時代の投資テーマは、エヌビディアのような半導体企業だけではありません。サービスナウ、アドビ、アサナ、スノーフレイクのような企業も、AI活用の拡大によって新たな成長機会を得る可能性があります。
情報ソース: MarketWatch: “ ServiceNow, Adobe stocks jump as Nvidia’s new AI chip sparks software rally” (By Christine Ji, June 1, 2026)
※本記事は情報の提供を目的としており、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資は自己責任で行ってください。
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