生成AIの普及によって、ソフトウェア企業の成長力に対する見方が大きく揺れています。特にデザインツールや開発支援ツールを手がける企業については、「AIによって既存のソフトウェアは不要になるのではないか」という懸念が市場で広がっています。
その代表的な銘柄の一つが、デザインプラットフォームを展開するフィグマ(FIG)です。同社の株価は2026年に入り大きく下落しており、投資家の不安を強く反映していました。
しかし、5月14日に発表された第1四半期決算は、そうした悲観論に一石を投じる内容となりました。売上、利益、顧客定着率、AI課金の進捗はいずれも強く、フィグマが単なるデザインソフト会社ではなく、AI時代にも稼げるプラットフォーム企業へ進化しつつあることを示しています。
第1四半期決算は市場予想を上回る内容
フィグマが5月14日の株式市場終了後に発表した第1四半期決算では、売上高が前年同期比46%増の3億3300万ドルとなりました。これはアナリスト予想の3億1600万ドルを上回る水準です。
調整後1株当たり利益(EPS)は10セントとなり、前年同期の3セントから大きく改善しました。市場予想の6セントも上回っており、売上成長だけでなく、利益面でも底堅さを示した形です。
特に注目すべきなのが、ネットダラーリテンションレートです。これは既存顧客がどれだけ継続利用し、追加で支出しているかを示す重要な指標です。フィグマのネットダラーリテンションレートは139%となり、前四半期の136%から上昇しました。これは過去2年以上で最も高い水準です。
この数字は、既存顧客がフィグマを解約するどころか、利用規模を広げていることを意味します。ソフトウェア企業にとって、顧客が継続的に支払いを増やしているかどうかは将来成長を測る重要なポイントです。その意味で、今回の決算は非常に強い内容だったと言えます。
ガイダンス上方修正が示す経営陣の自信
フィグマは第2四半期と通期の売上見通しも引き上げました。
第2四半期の売上高見通しは3億4800万ドル〜3億5000万ドルとされ、市場予想の3億3000万ドルを上回りました。通期売上高見通しも14億2200万ドル〜14億2800万ドルに引き上げられ、こちらも市場予想の13億7100万ドルを上回っています。
この上方修正は、単に第1四半期が良かったというだけではありません。フィグマの経営陣が、今後の需要についても強気の見方を持っていることを示しています。
特に重要なのは、AI関連機能の課金が売上成長の新たな柱になり始めている点です。生成AIが既存ソフトウェア企業の脅威になるという見方がある一方で、フィグマはAIを自社サービスの価値向上に取り込み、収益化につなげています。
AI課金は新たな成長エンジンになる可能性
フィグマは3月18日からAI機能のクレジット制限と課金を開始しました。注目すべきは、以前に無料枠を超えてAI機能を使っていたOrganizationおよびEnterpriseプランのユーザーの75%以上が、課金開始後も利用を継続したことです。
これは非常に重要なデータです。AI機能が単なる話題性だけの機能であれば、有料化された時点で利用は大きく減るはずです。しかし、実際には大口顧客の多くが料金を払ってでも使い続けています。
このことは、フィグマのAI機能が企業の業務プロセスに実際に組み込まれ、明確な価値を生み出している可能性を示しています。
さらに、データソースと連携するModel Context Protocolサーバーや、キャンバス上で機能するAIアシスタントなどの新機能も、有料プランへの移行を後押ししています。フィグマは単なるデザインツールではなく、企画、設計、開発、共同作業をつなぐAI時代のワークスペースへと進化しつつあります。
株価下落と事業実態の間にあるギャップ
一方で、フィグマ株は2026年に入り大きく売られてきました。年初来で45.8%下落しており、同じ期間にS&P 500指数が9.6%上昇していたことを考えると、市場からかなり厳しい評価を受けていたことが分かります。
その背景には、AIによってデザイン作業が自動化され、従来型のデザインソフトウェアの需要が低下するのではないかという懸念があります。つまり、市場はフィグマを「AIに破壊される側」と見ていた可能性があります。
しかし、今回の決算はその見方に対して明確な反論となりました。売上は高成長を維持し、利益は市場予想を上回り、既存顧客の利用拡大を示すネットダラーリテンションレートも上昇しています。
これは、顧客がフィグマを手放していないどころか、むしろより深く使い込んでいることを示します。株価が大きく下がる一方で、事業そのものは強さを増しているというギャップが生じているのです。
利益率低下はAI投資の先行コスト
注意すべき点もあります。フィグマは2026年の非GAAP営業利益率について、中間値で9%を見込んでいます。これは2025年実績の12%から低下する水準です。
表面的には収益性の悪化に見えます。しかし、現在のフィグマはAI機能の開発、インフラ投資、人材投資を加速している段階にあります。高度なAI機能を提供するには、コンピューティングコストや開発費がかかります。
そのため、利益率の低下を単純なマイナス材料と見るのではなく、将来の成長に向けた先行投資として捉えることもできます。第1四半期の利益が市場予想を上回っていることを考えると、同社は成長投資をしながらも一定の収益力を維持していると評価できます。
AI時代の勝ち組ソフトウェア企業になれるか
今回のフィグマの決算で最も重要なのは、AIが同社にとって脅威ではなく、収益機会になり始めている点です。
市場は「AIがソフトウェア企業を衰退させる」と警戒していました。しかし、フィグマはAIを自社プラットフォームに組み込み、有料機能として顧客に提供することで、新たな収益源を作り出しています。
5月15日の米国市場午前の段階で株価が10%あまり上昇したことは、一部の投資家がこの変化に気づき始めたサインとも言えます。
もちろん、今後も競争環境には注意が必要です。生成AI分野では大手テック企業や新興企業が次々と新機能を投入しており、フィグマが現在の優位性を維持できるかは継続的に見極める必要があります。
それでも、今回の決算を見る限り、フィグマはAIに破壊される企業ではなく、AIを取り込んで成長する企業へと変化しつつあります。高い顧客定着率、AI課金の成功、売上見通しの上方修正は、その可能性を強く示しています。
フィグマ株は大きく下落してきましたが、事業の基盤はむしろ強固です。今後、AI機能の収益化がさらに進めば、同社はデザインソフト企業の枠を超えたAI時代の開発プラットフォームとして再評価される可能性があります。
情報ソース:MarketWatch “Figma has a fix for its ailing stock — a new way to make money off its AI products”(By Hannah Pedone, May 14, 2026)
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
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