アップル 3大クラウドを競わせて漁夫の利

アップル(AAPL)とアルファベット(GOOG)のグーグルは、モバイルOS、スマートフォン、スマートスピーカー、ストリーミングメディアサービス、デジタルペイメントなどの成長市場で互いに競い合っています。しかし、アップルはグーグルのトップカスタマーのひとつでもあります。

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5年前、アップルはiCloudサービスの一部をホストするために、Google Cloudと契約を結びました。詳細は明らかにされませんでしたが、それまでアップルのiCloudサービスのほとんどをホストしていたアマゾン(AMZN)のAWSやマイクロソフト(MSFT)のAzureにとっては大きな損失と考えられました。

この取引関係が長続きするのかどうか、多くの人が疑問に思っていましたが、デジタルメディアのニュースサイト「The Information」はこのほど、アップルが今年、Google Cloudへの支出を50%増やし、グーグルの企業向けクラウドストレージの最大の顧客になると主張しています。

2016年にRe/codeが報じたところによると、アップルは独自のクラウド・インフラストラクチャー・プラットフォームの開発を検討しており、独自のデータセンター構築により「約3年」で収支を合わせられると見積もっているとのことです。

独自のクラウドの構築は、特定の市場でアップルと競合するアマゾン、マイクロソフト、グーグルへのアップルの依存を解消します。また、コネクテッドカー、AR(拡張現実)機器、スマート家電など、次世代産業への進出をサポートすることも可能です。

しかし、アップルは、3大クラウドプラットフォームとの契約において、圧倒的な交渉力を持っています。アップルは、部品の発注や製造契約を複数の企業に分割しているのと同様に、クラウドホスティングの契約も複数の企業から調達することができます。

また、アップルはiCloudストレージの追加料金をユーザーに請求しています。したがって、この収入がGoogle Cloud、AWS、Azureへのクラウドホスティングの支払いを相殺する限り、自前のクラウド・インフラストラクチャー・プラットフォームを構築する代わりに、現状を維持する方が経済的であるかもしれません。

The Informationによると、アップルは今年、グーグルのクラウド・ストレージサービスに約3億ドルを支出しますが、これはアップルの今年の推定売上高の0.08%にしかならないとのことです。

Google Cloudの売上は、2019年には53%増の89億ドル、2020年には46%増の131億ドル(アルファベット全体の売上の7%)に達しました。その堅調な成長を支えていたのは、ターゲット、ホームデポ、P&G、ペイパル、ツイッターといった顧客の増加でした。

多くの小売業者は、ライバルであるアマゾンの最も収益性の高い部門を養うような取引を避けたいと考えたようですし、一部のハイテク企業は、マイクロソフトの広大なソフトウェア・エコシステムに縛られたくないと考えたようです。そのような企業にとって、Google Cloudは魅力的な選択肢に見えたということです。

しかし、Canalysによると、2021年第1四半期の世界のクラウドインフラストラクチャ市場において、Google Cloudのシェアはわずか7%でした。AWSは市場の32%を占め、Azureは19%のシェアで2位となっています。

また、Google Cloudはまだ利益を上げていません。その営業損失は、2018年の43億ドルから2019年に46億ドルへと拡大し、2020年には56億ドルへと再び拡大しました。AWSは一貫して利益を上げていますが、マイクロソフトはAzureの正確な収益や営業利益を開示していません。

これらの数字は、アップルがグーグルから最も安いクラウドホスティング料金を確保している可能性が高いことを示唆しています。グーグルは、AWSやAzureについていくために、より多くのパートナーシップを獲得する必要があります。これはアップルにとって有利な環境であり、Google Cloudにとってはその苦境を象徴するような関係性です。

The Informationによると、アップルのクラウドへの支出増加により、Google Cloudの「最大」の法人顧客になる可能性があるとのことですが、3億ドルはグーグルの昨年の総クラウド売上の2%に相当するに過ぎません。

アップルはまだ多くのiCloudサービスをAWSやAzureでホスティングしているようなので、この支出増加のレポートは必ずしもGoogle Cloudがアップルの優先的なクラウドプロバイダになることを意味するものではありません。

むしろこのレポートは、アップルにとっては、独自のクラウド・インフラストラクチャを構築するよりも、3つのクラウド・プラットフォームを競わせて有利なホスティング価格を得る方が賢いということを示しています。

また、AWSやAzureに比べて価格決定力が大幅に劣るGoogle Cloudは、当面の間、収益性の低い状態が続く可能性があることも示唆されています。

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