スペースXが通信業界を揺るがす AT&T急落の裏で急騰した銘柄とは

✨ この記事でわかること

  • スペースX(SPCX)が800MHz帯の周波数免許を取得する契約を締結。スターリンク・モバイルの本格展開に向けて前進しました。
  • AT&T(T)やベライゾンなど通信大手3社の株価が急落する一方、通信塔企業の株価は急騰。通信関連株の明暗が鮮明になりました。
  • スペースXの全国規模の通信網構築には課題が残ります。既存通信会社との提携や2029年以降の業績への影響が注目されています。

スペースXの新たな一手が米通信業界を揺さぶる

イーロン・マスク氏が率いるスペースXが、米国の携帯通信市場に大きな変化をもたらそうとしています。

米投資情報専門誌バロンズは10月9日付の記事で、スペースXによる無線周波数の取得が、米国の携帯通信業界や関連企業の株価に与える影響を取り上げました。

さらに、マーケットウォッチも同日、スペースXの参入計画に対するウォール街の評価や、既存通信会社が直面する競争リスクについて詳しく報じています。

今回の動きで注目されるのは、スペースXが衛星インターネットサービスの提供にとどまらず、既存の携帯通信大手と直接競争する方向に進んでいることです。

スペースXは投資会社グレイン・マネジメントから、米国全土を対象とする800MHz帯の周波数免許を取得する契約を締結しました。

取得対象は最大14MHzのペア周波数帯です。

800MHz帯は比較的低い周波数に分類され、電波が建物などの障害物を回り込みやすく、広い地域をカバーするのに適しています。

衛星通信を中心に展開してきたスペースXにとって、地上の通信網を強化するうえで重要な資産となります。

バロンズが紹介したレイモンド・ジェームズのアナリスト、リック・プレンティス氏の推計によると、今回の取引が完了すれば、スペースXが米国で確保する携帯通信向け周波数帯域幅の合計は、従来の約65MHzから約79MHzに拡大する見通しです。

ただし、AT&Tなどの大手通信会社は数百MHz規模の周波数帯域を保有しており、スペースXとの差は依然として大きい状況です。

スペースXによる通信事業の拡大については、過去の記事でも取り上げています。

関連記事:スペースXショックで米通信株に異変 1.6兆ドル市場を揺るがすスターリンクの脅威

通信大手3社が歴史的な株価急落

スペースXの発表を受け、10月9日の米国株式市場では既存の携帯通信会社に売りが集中しました。

マーケットウォッチによると、同日午後の取引では以下の下落率となりました。

  • AT&T:約10%安
  • ベライゾン・コミュニケーションズ(VZ):約10%安
  • TモバイルUS(TMUS):約13%安

※騰落率はマーケットウォッチが10月9日午後2時16分(米東部時間)に更新した記事の取引中の数値です。終値ではありません。

特に注目されるのは、下落率の大きさです。

ダウ・ジョーンズ・マーケット・データによると、この時点の下落率が終値まで続いた場合、ベライゾンは約24年ぶり、AT&Tは約26年ぶり、Tモバイルは約13年ぶりの大幅な1日下落率を記録する可能性がありました。

株式市場が、スペースXの参入を既存通信会社の収益構造に対する重大な脅威として受け止めたことがうかがえます。

ただし、今回の株価下落は将来の競争激化に対する懸念が中心であり、現時点で既存通信会社の業績が急激に悪化したわけではありません。

スペースXの参入には大きな障壁も

一方、マーケットウォッチが紹介したアナリストの見解には、今回の株価下落を行き過ぎとみるものもあります。

モフェットネイサンソンのアナリスト、クレイグ・モフェット氏は、低い周波数帯の確保は通信エリアの拡大や建物内での接続に重要だと認めながらも、スペースXが大手通信3社と本格的に競争するには、まだ多くの設備や資産が不足していると指摘しています。

人工衛星を運用する技術と、地上の基地局を全国に整備する技術や事業運営は異なります。

全国規模の携帯通信網を構築するには、多額の設備投資に加え、基地局の設置、通信品質の確保、利用者へのサービス提供体制などが必要になります。

今回取得する予定の周波数免許だけで、全国規模の携帯通信サービスを実現できるわけではありません。

Tモバイルの最高技術責任者(CTO)、ジョン・ソー氏も、周波数を保有することと、多数の利用者に優れた通信サービスを提供することは別の問題だと指摘しています。

こうした事情から、スペースXの競争力が実際にどの程度高まるかについては、ウォール街でも見方が分かれています。

既存通信会社との提携が現実的な選択肢か

マーケットウォッチの記事で特に興味深いのは、スペースXが独自の通信網を全国に構築するのではなく、既存の通信会社の設備を活用する可能性が指摘されていることです。

その方法として挙げられているのが、MVNO(仮想移動体通信事業者)という事業モデルです。

MVNOは、自社で大規模な携帯通信網を保有する代わりに、既存通信会社のネットワークを借りて通信サービスを提供する仕組みです。

例えば、チャーター・コミュニケーションズ(CHTR)やコムキャスト(CMCSA)は、ベライゾンの通信網を活用して携帯通信サービスを提供しています。

スペースXも同様の仕組みを利用すれば、地上通信網の建設に必要な巨額の投資を抑えながら、スターリンク・モバイルの事業を拡大できる可能性があります。

ただし、モフェット氏は、米国の通信大手3社が競争相手となるスペースXに自社の通信網を提供する可能性は低いとみています。

提携が実現するかどうかは、スペースXの今後の事業展開を左右する重要な要素となります。

通信塔企業には新たな成長機会

興味深いのは、携帯通信会社と通信インフラ企業で株価の反応が正反対になったことです。

バロンズによると、通信塔などを運営するクラウン・キャッスルの株価は11.2%上昇し、アメリカン・タワー(AMT)も7.1%上昇しました。

※騰落率はバロンズの記事で示された取引中の数値です。

スペースXが携帯通信サービスを本格展開する場合、人工衛星だけでは十分な通信環境を提供できず、地上の通信設備も必要になると考えられているためです。

スペースXがすべての通信設備を自社で新設するとは限りません。

既存の通信塔や関連インフラを活用する場合、通信塔事業者に新たな需要が生まれる可能性があります。

つまり、スペースXの参入は既存の携帯通信会社にとって競争上の脅威となる一方、通信インフラ企業には事業拡大の機会をもたらす可能性があります。

同じ通信関連銘柄でも、事業内容によって株価への影響が大きく異なる点は、投資家にとって注目すべきポイントです。

スペースXが衛星通信を超えて事業領域を拡大する動きについては、過去の記事でも分析しています。

関連記事:スペースXはもはや「単なるロケット企業」ではない:通信・AI覇権を握る次世代メガテックの正体

周波数の価値上昇も通信大手の負担に

マーケットウォッチの記事では、スペースXの参入が周波数の市場価格に与える影響についても取り上げています。

エバコアのアナリスト、クトグン・マラル氏は、今回の取引が既存通信会社にとって新たなマイナス材料になると指摘しています。

これまで大手通信会社は、スペースXが十分な低周波数帯を保有していないことを競争上の弱点とみなしてきました。

しかし、今回の周波数取得によって、その弱点が一部解消される可能性が出てきました。

さらに重要なのは、スペースXが地上通信向けの周波数を積極的に取得する姿勢を示したことです。

周波数は有限の資源であり、新たな買い手が市場に参入すれば、将来の周波数オークションで落札価格が上昇する可能性があります。

スペースXが実際に落札しなくても、競争相手が増えるだけで既存通信会社の周波数取得コストが高まることも考えられます。

つまり、スペースXの参入は顧客獲得競争だけでなく、通信インフラの整備コストにも影響を与える可能性があります。

既存の通信会社への影響は2029年以降か

一方で、スペースXが短期間で既存の携帯通信大手から大きな市場シェアを奪うとは限りません。

バロンズの記事では、シティグループのアナリスト、マイケル・ロリンズ氏の見方も紹介されています。

同氏は、スペースXが米国の大手通信3社の業績に大きな影響を与えるのは、早くても2029年以降になると予想しています。

また、マーケットウォッチが紹介したライトシェッド・パートナーズのアナリスト、ウォルター・ピエシク氏も、今回の市場の懸念には時期尚早な面があると指摘しています。

ただし、同氏は既存通信会社がこれまでスペースXの脅威を軽視し、競争力を高める機会を十分に活用してこなかった点にも言及しています。

例えば、ベライゾンがエコスター(ECHO)の保有するAWS-3周波数帯を取得していないことを問題視しています。

既存通信会社が今後も競争力を維持できるかどうかは、スペースXの事業展開だけでなく、自社の通信網強化や周波数取得戦略にも左右されそうです。

スペースXの成長性については、初決算を取り上げた記事でも詳しく分析しています。

関連記事:スペースX初決算は予想超え スターリンクとAI事業が示す真の将来性

投資家が注目すべき3つのポイント

今回のバロンズとマーケットウォッチの記事からは、今後の投資判断に関係する3つの論点が浮かび上がります。

まず、スペースXがどのような事業モデルで携帯通信市場に参入するかという点です。

独自の地上通信網を構築するのか、既存通信会社との提携を活用するのかによって、必要な投資額も競争環境も変わってきます。

衛星通信の分野では、ASTスペースモバイル(ASTS)がAT&Tやベライゾンなど既存通信会社との提携を進めています。

関連記事:宇宙通信の覇権争い:ASTスペースモバイルの巨額資金調達が示す「リスク」と「勝機」

次に、通信塔企業への恩恵がどの程度広がるかという点です。

スペースXが既存インフラの利用を増やせば、通信塔企業にとって新たな収益機会となる可能性があります。ただし、今回の株価上昇がそのまま将来の利益成長を保証するものではありません。

最後に、既存の携帯通信大手の株価下落が適正なものかという点です。

今回の株価下落は過去10年以上で最大級の規模になる可能性が指摘されましたが、業績への本格的な影響は数年先との見方もあります。

競争激化への懸念と現在の企業価値を分けて評価することが重要です。

まとめ:スペースX参入で通信業界の投資構図が変わる可能性

今回のバロンズとマーケットウォッチの記事が示しているのは、スペースXによる携帯通信市場への参入が、単なる将来構想から具体的な事業展開へと進みつつあることです。

800MHz帯の周波数取得はその重要な一歩ですが、既存の通信会社に直ちに大きな業績悪化をもたらすとは限りません。

全国規模の地上通信網の構築には巨額の設備投資が必要であり、既存通信会社との提携にも課題が残っています。

一方で、スペースXが新たな周波数の買い手として存在感を高めれば、通信大手の設備投資や周波数取得コストにも影響を与える可能性があります。

投資家にとって重要なのは、スペースXの成長可能性だけでなく、その参入によって利益を得る企業と競争上の圧力を受ける企業を見極めることです。

衛星通信と地上通信の融合が進むなか、米国の通信関連株には新たな投資機会とリスクが生まれています。

今後はスペースXの通信網整備の進展、既存通信会社との提携の可能性、通信塔企業の受注動向が重要な注目材料となりそうです。


情報ソース:

Barron’s: “What SpaceX’s Spectrum Buy Says About a Starlink Mobile Network” (By Al Root, Oct. 9, 2026)

MarketWatch: “As AT&T, Verizon and T-Mobile shares fall, Wall Street assesses the growing SpaceX threat” (By Emily Bary, Oct. 9, 2026)

※本記事は情報の提供を目的としており、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資は自己責任で行ってください。

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