中国のAI企業をめぐり、データセキュリティに関する新たな問題が浮上しています。
米テクノロジーメディアのジ・インフォメーションは、中国のインターネット規制当局である国家インターネット情報弁公室(CAC)が、ディープシークとムーンショットAIについて調査を進めていると報じました。
背景にあるのは、米AI企業アンソロピックが、中国企業によってAIモデル「Claude」が無断で利用され、中国国内の機密性の高いデータまで米国側へ送信された可能性があると指摘したことです。
今回の問題は、単なるAIモデルの無断利用ではありません。米中AI競争に「データをどこで処理するのか」という新たな安全保障上の問題が加わった形です。
中国当局がディープシークとムーンショットAIを調査
ジ・インフォメーションによると、中国当局はディープシークとムーンショットAIについて、データセキュリティ上の問題がなかったか調査しています。
きっかけとなったのは、アンソロピックが9月10日に公表した報告書です。
アンソロピックは、中国の複数のAI関連企業が、正式に認められていない方法でClaudeを大規模に利用していたと主張しています。
名前が挙げられた企業には、ディープシーク、ムーンショットAI、アリババ(BABA)、智譜AI、センスタイム、ミニマックス、シャオミなどが含まれています。
中国当局はこれらの企業から事情を聞いた後、特にディープシークとムーンショットAIについて調査を深めているとされています。
ただし、現時点では調査段階です。中国当局が両社の違反を正式に認定したわけではありません。
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問題はAIモデルの「蒸留」だけではない
米国側が以前から警戒しているのが、AIモデルの「蒸留」と呼ばれる手法です。
これは、高性能なAIモデルから得られた大量の出力を使い、別のAIモデルの能力向上につなげる方法です。
米国では、中国のAI企業が米国企業のAIモデルを利用して、自社モデルを強化しているのではないかとの懸念があります。
一方、今回中国側が問題視しているとみられるのは、中国国内の利用者が入力したデータが、本人の知らない間に米国企業のAIモデルへ送られていた可能性です。
この問題が事実であれば、中国にとってはAI開発競争以上に、国家安全保障やデータ管理に関わる重大な問題になります。
軍や警察関連データが送られた可能性
アンソロピックの報告によると、ムーンショットAIの「Kimi」などへ入力された一部のリクエストがClaudeへ転送されていたとされています。
その中には、中国の軍や警察、安全保障に関連する可能性のある情報も含まれていたとアンソロピックは主張しています。
例えば、中国国内の監視カメラ映像を分析するよう求めるリクエストがClaudeへ送られたケースがあったとされています。
中国では、個人情報や重要データの国外移転を厳しく規制しています。
特に軍、警察、政府機関、国有企業などに関係する情報が国外へ送信された場合、通常の企業データとは異なる扱いになる可能性があります。
ただし、これらはアンソロピック側の報告に基づく内容であり、中国当局による最終的な調査結果を確認する必要があります。
数千万件規模でClaudeを利用したとの主張
アンソロピックによると、ムーンショットAIは2026年5月から7月の間に、2,300万件を超えるやり取りをClaudeへ転送したとされています。
ディープシークについても、7月の約2週間で1,200万件を超える利用があったと主張しています。
注目したいのは、ユーザー自身がClaudeを利用していると認識していなかった可能性です。
表面上は中国企業のAIサービスを利用していても、裏側では別の企業のAIモデルが処理していたことになります。
生成AIの利用が広がるほど、「入力した情報が最終的にどこへ送られるのか」という問題は、企業にとって重要になります。
米中AI競争はデータ管理の時代へ
これまで米中AI競争では、半導体、GPU、AIモデルの性能、データセンター、輸出規制などが注目されてきました。
しかし今回の問題は、競争の焦点が「データの所在」へ広がりつつあることを示しています。
生成AIでは、利用者が入力したデータがAIモデルによって処理されます。
そこに企業秘密、政府関連情報、軍事関連情報が含まれる場合、そのAIモデルがどの国の企業によって運営されているのかは非常に重要です。
AIサービスそのものが、国境を越えたデータ移転の経路になる可能性があるためです。
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アンソロピックなど米AI企業にも影響
今回の問題は、中国企業だけに関係するものではありません。
アンソロピックにとっても、自社のClaudeがどのような利用者によって、どのような目的で使われているのかを管理する重要性が高まります。
アンソロピック、オープンAI、アルファベット(GOOGL)などの米国AI企業にとって、今後はAIモデルの性能だけでなく、不正利用を検知する仕組みや利用者管理も競争力の一部になりそうです。
また、エヌビディア(NVDA)などの半導体企業に加え、クラウド、データセンター、サイバーセキュリティ関連企業にも、米中AI規制の影響が広がる可能性があります。
アンソロピックやオープンAIの成長は、AIモデルだけで完結するものではありません。巨額のクラウド利用や半導体、データセンター投資と密接に結びついています。
今後は米中AIエコシステムの分断にも注目
今回のジ・インフォメーションの報道から見えてくるのは、米中AI競争が単なる技術競争ではなくなってきたことです。
米国が中国への高性能半導体輸出を規制する一方、中国も米国のAIモデルへ国内データが流出することを強く警戒する可能性があります。
今後、中国政府が海外AIモデルの利用やデータの越境移転に対する規制を強化すれば、米国と中国のAIエコシステムがさらに分離する可能性もあります。
AI投資を考えるうえでは、AIモデルの性能や半導体需要だけでなく、各国のデータ規制や安全保障政策も重要な材料になっています。
情報ソース: The Information: “China Probes DeepSeek, Moonshot Over Potential Data Leaks to Anthropic” (By Qianer Liu and Jing Yang, Sep. 22, 2026)
※本記事は情報の提供を目的としており、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資は自己責任で行ってください。