生成AIブームを代表するオープンAIとアンソロピックのIPO(新規株式公開)が、米国株市場に思わぬ影響を与える可能性があります。
マーケットウォッチが2026年9月7日に掲載した記事では、エバコアISIのストラテジストによる分析を紹介しています。
注目すべきなのは、オープンAIやアンソロピックそのものではありません。
超大型IPOへ投資するための資金を確保する目的で、機関投資家が既存の保有株を売却する可能性があり、その対象として「今年すでに株価が低迷している銘柄」が狙われる恐れがあるという点です。
スペースX IPOでも起きた「資金捻出売り」
2026年6月にはスペースX(SPCX)がIPOを実施しました。
エバコアISIによれば、そのIPOを控えた時期、一部の機関投資家はスペースX株を購入するため、既存のポートフォリオのどの銘柄を減らすか検討していたといいます。
つまり、新しいIPOへの投資資金を追加するのではなく、
「現在持っている株を売って、新しい有望株へ乗り換える」
という動きです。
オープンAIやアンソロピックが株式市場へ登場すれば、同じ現象がさらに大規模に起きる可能性があります。
両社は生成AI市場を代表する企業だけに、IPOが実現すれば機関投資家から非常に大きな需要が集まることが予想されます。
AI相場はまだ終わっていない?
興味深いのは、エバコアISIが現在のAI相場を「バブル崩壊直前」とは考えていない点です。
スペースXのIPOを、ドットコムバブル末期の象徴的な大型案件ではなく、むしろ1995年のネットスケープIPOに近いと見ています。
ネットスケープの上場は、その後本格化するインターネット時代の初期を象徴する出来事でした。
現在のAIも同様に、技術の経済効果が完全には証明されていない一方、生産性を大幅に高める可能性が期待されています。
さらに、強気相場を終わらせる典型的な条件もまだそろっていないとしています。
例えば、
・米国経済の景気後退
・米10年国債利回りが5%を大きく超える状況
・FRBによる積極的な利上げ
・極端なFOMOによる投機熱
などです。
個人投資家の強気心理についても、2000年前後のITバブル期ほど極端な水準には達していないと分析されています。
つまり、「AI相場そのものはまだ続く可能性がある」というのがエバコアISIの基本的な見方です。
問題は「AI以外の低迷株」
しかし、AI関連株への資金流入が続くことは、すべての米国株にとって好材料とは限りません。
特に危険なのが、すでに投資家から人気を失いつつある銘柄です。
エバコアISIは米国株の幅広い指数であるラッセル3000を対象に、売却圧力を受けやすい可能性のある企業を抽出しています。
主な条件は、
・時価総額50億ドル以上
・年初来10%以上下落
・2026年の安値からの上昇率が20%未満
・過去3カ月の利益予想修正が悪化
というものです。
単に株価が下がっているだけでなく、業績予想にも改善の兆しが乏しい企業を対象にしている点が重要です。
テスラやIBMも候補に
マーケットウォッチの記事で紹介されたスクリーニングの結果には、意外な大型企業も含まれています。
代表例として、
テスラ(TSLA)
IBM(IBM)
アメリカン・エキスプレス(AXP)
マクドナルド(MCD)
S&Pグローバル(SPGI)
ロウズ(LOW)
アプラビン(APP)
クーパン(CPNG)
ASTスペースモバイル(ASTS)
ファースト・ソーラー(FSLR)
フェア・アイザック(FICO)
アルベマール(ALB)
ドラフトキングス(DKNG)
などが挙げられています。
もちろん、このリストに入っているからといって株価が必ず下落するわけではありません。
エバコアISIのスクリーニングはあくまで「ポートフォリオ整理の対象になりやすい条件」を満たした企業を抽出したものです。
それでも、IPO前後の需給を考えるうえでは興味深い指標となります。
10月の「損出し」とIPOが重なる可能性
今回特に注意したいのがタイミングです。
米国では秋になると、ミューチュアルファンドなどが税務上の理由から含み損銘柄を売却する動きが出やすくなります。
いわゆる「タックスロス・セリング」です。
損失を確定させることで、他の投資で発生した利益と相殺し、税負担を抑えることができます。
通常でも売られやすい低迷株に、
「オープンAIやアンソロピックIPOの購入資金を作りたい」
という事情が重なれば、売却圧力がさらに強まる可能性があります。
エバコアISIが警戒しているのは、この2つの要因が同時に発生することです。
「良い会社」でも売られるのが株式市場
今回の記事から読み取れる重要なポイントは、株価が企業価値だけで決まるわけではないということです。
ファンドが新しい銘柄を購入する際には、何かを売却して資金を作る必要があります。
その場合、最も保有継続の理由が弱い銘柄から整理される可能性があります。
「株価が低迷している」
「利益予想が下方修正されている」
「年末までの反発材料が乏しい」
といった企業は、その候補になりやすくなります。
企業の長期的な将来性とは関係なく、短期的な資金フローによって売られる可能性があるわけです。
オープンAI・アンソロピックIPOは米国株全体を動かす可能性
オープンAIやアンソロピックのIPOについては、通常「どちらの企業に投資すべきか」という視点で語られがちです。
しかし、もう一つ重要なのが、
「その株を買う資金がどこから出てくるのか」
という視点です。
スペースXのIPO時にも、既存株を減らしてIPOへの投資枠を確保する動きが見られたとされています。
オープンAIやアンソロピックのIPO規模がさらに巨大になれば、その影響はAI関連株だけでなく、米国株市場全体へ広がる可能性があります。
特に2026年に大きく出遅れている銘柄については、業績だけでなく「大型IPOに伴う資金移動」という需給面にも注意しておく必要がありそうです。
まとめ
今回のマーケットウォッチの記事で興味深いのは、AIブームの継続そのものよりも、その裏側で起きる資金移動に焦点を当てている点です。
オープンAIやアンソロピックがIPOすれば、大量の資金が新しいAI株へ向かう可能性があります。
一方、その資金を捻出するため、今年株価が低迷している企業が売却対象となる可能性があります。
さらに10月前後のタックスロス・セリングと重なれば、一部の出遅れ株には通常以上の売り圧力がかかることも考えられます。
AI時代の大型IPOを見る際には、「何が買われるか」だけではなく、「その代わりに何が売られるのか」という視点も重要になりそうです。
情報ソース:MarketWatch「Just like for SpaceX, investors may look to ‘make room’ for AI lab IPOs. These stocks could pay the price.」Jamie Chisholm、2026年9月7日
※本記事は情報の提供を目的としており、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資は自己責任で行ってください。
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