生成AIへの投資が世界的に拡大するなか、あえて成熟したスマートフォン市場に挑み、投資家から大規模な資金を集めている企業があります。2020年に設立された英国発のスタートアップ、Nothingです。
バロンズは2026年9月4日付の記事で、NothingがAI一色となりつつあるベンチャー投資市場のなかで、異例ともいえる成長を続けている状況を紹介しています。
アップル(AAPL)やサムスン電子が圧倒的な存在感を持つスマートフォン市場で、Nothingはどのような戦略を描いているのでしょうか。
AIに資金が集中するなかで4.56億ドルを調達
現在のベンチャーキャピタル市場では、AI関連企業への資金集中が鮮明になっています。
バロンズがPitchBookのデータとして紹介したところによると、2026年第1四半期のベンチャー投資額は2,560億ドルに達し、すでに2025年通年の水準を上回りました。
一方、消費者向けテクノロジーへの投資は減少しています。
同分野のVC案件数は2021年に約3,000件でピークを付けましたが、その後は半分程度まで減少し、2026年も低下傾向が続いています。
スマートフォンがカメラ、GPS、音楽プレーヤー、計算機、デジタルアシスタントなど多くの機能を取り込んだことで、新しいコンシューマーハードウェアを開発する企業にとって、市場参入のハードルは高くなっています。
そうした環境下で、Nothingは累計4.56億ドルを調達しました。2025年には2億ドルのシリーズCを実施し、その際の企業価値は13億ドルに達したとバロンズは伝えています。
Nothingは「性能」だけでiPhoneと戦わない
Nothingは当初、ワイヤレスイヤホンから事業をスタートし、その後スマートフォンやスマートウォッチへと製品を拡大しました。
特徴的なのは、単純な性能競争ではなく、デザインとブランド戦略を重視していることです。
透明感を生かした筐体や独自のインターフェースなどにより、デザインが似通いつつあるスマートフォン市場で差別化を図っています。
価格も大手メーカーより抑えています。
バロンズによると、256GBモデルのNothing 4a Proは599ドルからとなっている一方、同程度の容量を持つiPhone 17は799ドルからです。
高性能スマートフォンを最安値で提供するのではなく、「アップルやサムスンとは違う端末を使いたい」というユーザー層を狙っていることがNothingの特徴といえます。
若い世代を中心にブランドが浸透
Nothingが注目を集めている背景には、若い世代からの支持があります。
バロンズによれば、Google Trendsにおける「Nothing Phone」や「Nothing headphones」への関心は、過去5年間との比較で大きく上昇しています。
TikTokなどのSNSでもNothing製品に関する投稿が増加しており、アップル以外の選択肢を求めるユーザーの間でブランド認知が高まっています。
カール・ペイCEO自身もアップルを強く意識した発信を続けており、iPhoneユーザーの一部を奪うという姿勢を隠していません。
Nothingにとって重要なのは、スマートフォン市場全体でアップルに勝つことではありません。
世界に存在する膨大なiPhoneユーザーのうち、現在のスマートフォンに飽きを感じている一部を獲得するだけでも、スタートアップとしては十分に大きな市場になります。
累計売上高は10億ドルを突破
Nothingは話題性だけで評価されている企業でもありません。
バロンズによると、同社の累計売上高は2024年に10億ドルを突破しました。
設立から数年でこの規模に達したことは、コンシューマーハードウェア企業として一定の市場ニーズを獲得していることを示しています。
ただし、この業界で長期的に成長することは簡単ではありません。
バロンズは過去の例としてFitbitやGoProを紹介しています。
両社とも一時は大きな企業価値を獲得しましたが、スマートフォンの機能向上や競争激化によって成長が鈍化しました。
Nothingについても、デザインや価格だけに依存すれば、大手メーカーに類似機能を投入された際に差別化が難しくなるリスクがあります。
本当の勝負は「AI×ハードウェア」
Nothingの将来を考えるうえで重要なのが、AIとの融合です。
現在のベンチャーキャピタル市場では、スマートフォンに代わる次世代のAI端末への関心が高まっています。
AIがユーザーの日常を理解し、スケジュール管理、メッセージ送信、買い物のリマインドなどを支援するようになれば、スマートフォンとは異なる新しいハードウェア市場が生まれる可能性があります。
Nothing自身も、AIの可能性を最大限に引き出すには、消費者向けハードウェアそのものを再設計する必要があるとの考えを示しています。
そのため、Nothingが目指しているのは「デザイン性の高いAndroidスマートフォンメーカー」だけではない可能性があります。
現在のスマートフォンを通じてブランドとユーザー基盤を構築し、その先に新しいAIデバイスを投入できれば、成長余地は大きく広がります。
最大の武器は「アップルではないこと」
スマートフォン市場でアップルやサムスンと規模を競えば、Nothingにとって厳しい戦いになります。
しかし、巨大企業と同じ市場シェアを獲得する必要はありません。
独自のデザイン、価格、ブランドイメージによって一定のユーザーを確保し、イヤホン、スマートウォッチ、AIデバイスへと製品を広げることができれば、独自のエコシステムを築ける可能性があります。
一方、AIとの融合には課題もあります。
バロンズが紹介したPew Research Centerの調査では、30歳未満の米国成人の55%が、AIについて期待より懸念の方が大きいと回答しています。
Nothingが支持を集める若年層ほどAIに慎重である可能性もあり、単純にAI機能を増やせば売れるとは限りません。
プライバシーや使いやすさを維持しながら、AIによって明確な価値を提供できるかが重要になります。
まとめ
AI企業への投資が集中するなか、Nothingはスマートフォンを中心としたコンシューマーハードウェアで累計4.56億ドルを調達し、企業価値13億ドルまで成長しました。
同社の強みは、アップルやサムスンと正面から性能競争をするのではなく、デザイン、価格、ブランドによって「大手とは違う端末を使いたい」というユーザーを獲得している点です。
今後の最大の注目点は、スマートフォンで築いたブランドをAI時代の新しいデバイスへつなげられるかです。
Nothingが単なる個性的なスマートフォンメーカーで終わるのか、それともAI時代を代表する新たなコンシューマーテック企業へ成長するのか。今後の製品戦略は、次世代ハードウェア市場を占ううえでも注目されます。
情報ソース: Barron’s: “ A Start-Up Called Nothing Has Raised $450 Million. It’s Coming for the iPhone.” (By Angela Palumbo, Sept 04, 2026)
※本記事は情報の提供を目的としており、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資は自己責任で行ってください。
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