先日の記事「スペースXがAI電力不足を解決へ?『タービン内製化』が変えるデータセンター競争」では、スペースX(SPCX)がガスタービンの重要部品であるタービンブレードなどを自社生産する可能性について取り上げました。
前回の記事で注目したのは、スペースXが単に製造業へ進出するのではなく、AIデータセンター建設の大きなボトルネックとなりつつある「電力」を自ら確保しようとしている点です。
では、この動きを既存の電力インフラ企業側から見ると、どのような景色が見えてくるのでしょうか。
バロンズは8月31日、スペースXのタービン部品内製化観測を受け、GEベルノバ(GEV)など関連企業への影響を取り上げました。
今回は前回記事の続編として、スペースXの参入がGEベルノバやハウメット・エアロスペース(HWM)にとって本当に脅威なのか、それともAI向け電力設備市場の巨大さを示す新たなシグナルなのかを考察します。
スペースX参入説でGEベルノバが注目された理由
スペースXが発電用タービン部品を自社生産する可能性が報じられたことで、既存の大型ガスタービンメーカーへの影響に市場の関心が集まりました。その中でも注目されたのがGEベルノバです。
GEベルノバは大型ガスタービンの主要メーカーであり、AIデータセンターの電力需要拡大によって注目を集めてきた代表的な電力インフラ企業です。
AIデータセンターの急増により、今後10年の終わりまでに電力需要が最大1,300テラワット時増加するとの予測もあります。これは米国の電力需要を約30%押し上げる規模です。
しかし、需要が急増しても発電能力を短期間で増やすことはできません。
大型ガスタービンは注文すればすぐに納入される製品ではなく、メーカーの生産能力そのものが大きな制約となっています。スペースXがタービン部品の内製化を検討しているとすれば、「必要なものを十分な速さで調達できないなら、自分たちで作る」という同社の垂直統合戦略を電力分野にも広げようとしている可能性があります。
重厚長大産業の参入障壁は想像以上に高い
スペースXがロケット産業で起こしてきた変革を考えれば、既存メーカーが警戒するのは当然です。
同社はロケットの設計からエンジン、部品、生産設備まで垂直統合し、従来の宇宙産業では考えられなかったスピードで開発を進めてきました。
ただし、同じ方法がそのままガスタービン産業にも通用するとは限りません。
ジェフリーズは、タービンブレードの生産能力を新たに立ち上げるには「何年もかかる」と指摘しています。
タービン内部は極めて高温・高圧となるため、ブレードには特殊合金、精密鋳造、冷却技術、耐熱コーティングなど高度な材料・製造技術が求められます。
GEベルノバやGEエアロスペース(GE)、ハウメット・エアロスペースなどが長年蓄積してきたノウハウは、ソフトウェアのように短期間でコピーできるものではありません。
スペースXが生産設備を整えたとしても、安定した品質で量産し、長期間の運転に耐えられる信頼性を確立するまでには時間が必要です。
少なくとも短期的には、既存メーカーの競争優位が大きく揺らぐ可能性は低いと考えます。
ハウメット急落は本当に悪材料なのか
今回の報道で大きく売られた企業の1つがハウメット・エアロスペースです。
同社は航空機エンジンや産業用ガスタービン向けの高性能部品を製造する重要なサプライヤーで、スペースXの参入観測を受けて株価は8月31日の米国市場で7.5%下落しました。
しかし、この下落をそのまま将来の業績悪化と結び付けるのは早計です。
バーンスタインのアナリストも、今回の株価下落を「買いの機会」と評価しています。
仮にスペースXがタービンブレードの自社生産に成功したとしても、既存サプライヤーから短期間で大きなシェアを奪うのは容易ではありません。
むしろ注目したいのは、スペースXほど高い製造能力を持つ企業でさえ、自社生産を検討しなければならないほど電力設備の供給が逼迫しているという事実です。
スペースX参入は巨大需要を裏付けるシグナル
今回のニュースを「GEベルノバに新たな競合が現れる」とだけ捉えると、本質を見誤る可能性があります。
スペースXが自らタービン部品の供給網へ入り込もうとしていること自体が、AI向け電力インフラの需要が既存メーカーの供給能力を上回りつつあることを示しているからです。
これまでAI投資では、エヌビディア(NVDA)のGPUをどれだけ確保できるかが大きなテーマでした。
しかし、GPUを購入しても、それを設置するデータセンターがなければ使えません。データセンターを建設しても、十分な電力を確保できなければ稼働できません。
つまりAI投資のボトルネックは、半導体からデータセンター、電力、ガスタービン、そしてタービン部品へと、サプライチェーンの上流へ広がっています。
AI関連投資の対象も「半導体」から「インフラ」、さらにそのインフラを支える「インフラのインフラ」へと拡大しているのです。
GEベルノバで注意すべきは競争より株価評価
一方、GEベルノバへの投資を考える際には、スペースXの参入以上に注意したいポイントがあります。
それが株価のバリュエーションです。
GEベルノバ株は2024年のスピンオフ以来500%以上上昇し、AIデータセンター向け電力需要拡大の代表的な恩恵銘柄となりました。
6月には約1,196ドルの過去最高値を付けましたが、その後は約25%調整しています。
つまり投資家にとっての大きなリスクは、スペースXが競合になることだけではなく、AI電力需要の長期的な成長を株価がどこまで先取りしているのかという点です。
電力インフラ市場が成長することと、関連企業の株価が一直線に上昇することは同じではありません。業績の成長性と株価の評価水準は分けて考える必要があります。
AI革命が重厚長大産業の価値を変える
前回の記事では、スペースXによるタービン部品の内製化を「AI企業が電力確保のために時間を買う戦略」として考察しました。
今回、既存メーカー側から見ることで、もう1つの構図が浮かび上がります。
スペースXが本格的に参入すれば、長期的にはGEベルノバやハウメット・エアロスペースにとって新たな競争相手となる可能性があります。
ただし現時点では、競争激化への懸念以上に注目したいのが、スペースXほどの企業が自社生産を検討するほど電力設備の供給が逼迫しているという点です。今回の参入観測は、既存企業にとっての脅威であると同時に、AI向け電力インフラ市場の需要の強さを裏付ける動きとも見ることができます。
AI革命によって、半導体、データセンター、電力、ガスタービン、特殊部品という巨大なサプライチェーンが1つにつながり始めています。
これまで最先端テクノロジーとは距離があるように見えた重厚長大産業が、AIの成長スピードを左右する重要な存在になりつつあるのです。
宇宙開発企業スペースXが、本当にガスタービン産業まで変革するのか。それとも既存メーカーが何十年もかけて築いてきた技術の壁が立ちはだかるのか。
今回のタービン市場参入説は単なる異業種参入のニュースではなく、AI投資の主戦場が次にどこへ広がっていくのかを示す重要なシグナルと言えます。
情報ソース: Barron’s: “GE Vernova Stock Drops. Is SpaceX Coming for Them Too?” (By Al Root, Aug 31, 2026)
※本記事は情報の提供を目的としており、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資は自己責任で行ってください。
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