台湾で開催された今年のComputexカンファレンスでは、エヌビディア(NVDA)から複数の重要な発表がありました。ところが、市場の反応は必ずしも前向きではありませんでした。発表内容そのものよりも、短期的な材料出尽くし感や、消費者向けAI市場への不透明感が意識され、週末にかけて株価は下落しました。
6月5日のエヌビディア株は6.2%下落し、205.10ドルで取引を終えました。週間ベースでも2.9%の下落となっています。急成長株として市場の期待を集めてきたエヌビディアにとって、この下落は投資家心理を冷やす材料になりました。
しかし、今回の株価下落を単なる悪材料として見るべきか、それとも中長期投資家にとっての買い場と見るべきかは、冷静に整理する必要があります。この記事では、Computexで示された発表内容と、エヌビディアの今後の成長シナリオについて考察します。
バリュエーション低下は悲観材料か、それとも好機か
今回の下落で注目したいのは、株価だけでなくバリュエーションの変化です。バロンズによると、エヌビディアの予想PERは20.31倍まで低下しました。以前、同誌が同社株を推奨した際は、株価が約226ドル、予想PERが約26倍だったとされています。
つまり、事業の成長ストーリーが大きく崩れたわけではないにもかかわらず、株価とPERの両方が下がった形です。AI関連株は期待先行で買われやすく、少しでも市場の期待に届かないと売られやすい傾向があります。今回の反応も、その典型例といえます。
ただし、エヌビディアは依然としてAIインフラの中心企業です。生成AI、データセンター、AI推論、半導体設計、ネットワーク機器など、AI投資の多くの領域で同社の技術は重要な役割を担っています。その企業が予想PER20倍台前半まで低下したことは、長期目線では注目に値します。
もちろん、株価がさらに下がる可能性はあります。しかし、成長性と収益力を考えると、今回の調整は過度な悲観というより、バリュエーションの正常化に近い動きと見ることもできます。
本当の注目点はベラ・ルービンの進捗
Computexでの発表の中で、最も重要なのは消費者向けPCチップではなく、データセンター向けAIハードウェアの進捗です。特に次世代AIプラットフォームであるベラ・ルービンの大量生産が、第3四半期の出荷に向けて予定通り進んでいる点は大きな意味を持ちます。
AI半導体市場では、需要の強さだけでなく、供給体制が重要です。どれほど注文があっても、生産や出荷に遅れが出れば、売上成長は鈍化します。そのため、ベラ・ルービンが予定通り進んでいるという情報は、エヌビディアの今後の業績見通しにとって安心材料です。
市場は短期的な株価材料に反応しがちですが、エヌビディアの本質的な成長ドライバーはデータセンター向けAI投資です。クラウド大手や大企業によるAIインフラ投資が続く限り、同社の次世代ハードウェアへの需要は高水準で推移する可能性があります。
CPU市場への展開が意味するもの
もう一つ見逃せないのが、単独の中央演算処理装置(CPU)ベラの展開です。エヌビディアはこれまでGPU市場で圧倒的な存在感を示してきました。しかし、単独CPUの展開は、同社がデータセンターのより広い領域を取りにいく姿勢を示しています。
これは単なる製品追加ではありません。GPUだけでなく、CPU、ネットワーク、ソフトウェアを含めたAIインフラ全体を押さえる戦略と見ることができます。データセンターの中核部品におけるエヌビディアの存在感がさらに高まれば、同社の対象市場は一段と広がります。
これまでエヌビディアは「AI半導体の王者」として評価されてきました。しかし、今後は「AIデータセンター全体のプラットフォーム企業」としての色合いが強まる可能性があります。この変化は、同社の長期的な成長余地を考える上で非常に重要です。
RTX Sparkは未知数だが上振れ要因になり得る
一方で、消費者向けPC市場用の新プロセッサであるRTX Sparkについては、市場が慎重に受け止めた可能性があります。端末側でAI処理を行うPCがどこまで普及するのか、一般消費者がどれほど価値を感じるのかは、現時点ではまだ不透明です。
ただし、この点を過度に悲観する必要はありません。エヌビディアの主力はあくまでデータセンター向けAI事業です。B2B領域で強固な収益基盤を持っているため、消費者向けAI PC市場は追加的な成長機会と考えることができます。
仮にRTX Sparkが大きく成功すれば、エヌビディアの成長ストーリーに新たな柱が加わります。一方、普及に時間がかかったとしても、データセンター向け事業の強さが同社を支える構図は変わりません。つまり、RTX Sparkは下振れリスクというより、成功すれば評価を押し上げる上振れ要因として位置づけられます。
アナリスト評価はなお強気
バロンズの記事では、モルガン・スタンレーのアナリストであるジョセフ・ムーア氏が、エヌビディア株のレーティングをオーバーウェイトに据え置き、目標株価を288ドルとしていることも紹介されています。
現在の株価が205ドル付近であることを考えると、同氏の目標株価はなお大きな上値余地を示しています。もちろん、アナリストの目標株価は将来を保証するものではありません。しかし、プロの視点では、今回の下落によってエヌビディアの成長シナリオが崩れたとは見ていないことがわかります。
まとめ:短期の下落より成長シナリオを見たい局面
今回のエヌビディア株の下落は、Computexでの発表内容そのものへの失望というより、短期的な材料出尽くしや消費者向けAI市場への不透明感が重なった結果と考えられます。
しかし、ベラ・ルービンの量産が予定通り進んでいること、単独CPUによってデータセンター市場での対象領域を広げようとしていること、そしてアナリストが強気評価を維持していることを踏まえると、同社の長期的な成長ストーリーは依然として有効です。
株価下落は投資家にとって不安材料になりますが、エヌビディアのような高収益・高成長企業では、調整局面こそ将来のリターンを考える上で重要なタイミングになる場合があります。予想PERが20倍台前半まで低下した今、同社株は改めて注目すべき水準に近づいているといえます。
情報ソース: Barron’s: “Nvidia’s PC Chip Reveal Obscures a Bigger Catalyst for the Stock” (By Adam Clark, June 5, 2026)
※本記事は情報の提供を目的としており、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資は自己責任で行ってください。
*過去記事はこちら エヌビディアNVDA
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