生成AIの急速な普及によって、世界のテクノロジー業界では新たな問題が浮上しています。それがデータセンターの電力不足です。
AIモデルの学習や推論には大量のGPUが必要となり、それを支えるデータセンターでは膨大な電力が消費されます。エヌビディアなどの高性能半導体への投資が拡大する一方、その設備を実際に稼働させるための「電力」がAIインフラ投資の新たなボトルネックになりつつあります。
こうした状況のなかで注目されているのが地熱発電です。
地熱発電を手掛けるファーボ・エナジー(FRVO)は、アルファベット(GOOGL)傘下のグーグルと大型電力供給契約を結びました。この契約は、AI時代の電力供給において地熱発電が重要な選択肢になる可能性を示しています。
上場後に苦戦したファーボ・エナジー
ファーボ・エナジーは次世代地熱発電の有力企業として期待されていますが、上場後の株価は決して順調ではありませんでした。
*過去記事「ファーボ・エナジー上場で注目される地熱発電 AI時代の電力需要を支える新エネルギー株」
同社は2026年5月に株式市場へ上場しましたが、その後数カ月で株価は初値から約58%下落しました。
地熱発電は大きな可能性を持つ一方、発電所の建設には多額の資金と長い時間が必要です。そのため投資家の間では、「技術的に成功しても十分な収益を生み出せるのか」という警戒感が根強く残っていました。
しかし、この状況を大きく変えたのがグーグルとの契約です。
契約発表を受け、ファーボ・エナジーの株価は9月1日の米国市場で28.4%高の19.75ドルまで急騰しました。
これまで同社の評価を支えてきたのは、ビル・ゲイツ氏など著名投資家からの支援という「将来への期待」でした。それに対して今回の契約では、グーグルという世界最大級のテクノロジー企業が実際の顧客として登場しました。
市場にとっては、ファーボ・エナジーが「期待される地熱企業」から「巨大企業に電力を販売できる企業」へ一段階進んだことになります。
AIデータセンターと地熱発電は相性がいい
今回の契約で特に重要なのは、発電された電力がデータセンター向けに利用される点です。
太陽光発電や風力発電はクリーンな電力源ですが、天候によって発電量が大きく変化します。
一方、地熱発電は地下の熱を利用するため天候の影響を受けにくく、24時間安定した発電が可能です。
AIデータセンターではサーバーを24時間稼働させる必要があります。そのため発電量が安定している地熱発電は、AIインフラとの相性が非常に良い電源といえます。
今回の計画では、2028年に稼働予定のユタ州の地熱プロジェクトから396メガワットの電力を供給する予定です。
396メガワットという規模は、地熱発電が実験段階ではなく、大規模データセンターを支える商用電源へ成長しつつあることを示しています。
最大約1ギガワットへ拡大する可能性
今回の契約には、さらに重要なポイントがあります。
グーグルは2030年までに電力供給を最大約1ギガワットまで拡大できるオプションを持っています。
これは今回の396メガワットから約2.5倍に拡大する可能性があることを意味します。
もちろん、データセンター建設には行政当局の承認や送電網の整備など複数の条件があり、最終的に1ギガワットまで拡大する保証はありません。
それでもグーグルにとって、この契約には大きな戦略的意味があります。
AI向けデータセンターの建設競争が続けば、将来的には半導体よりも電力の確保が難しくなる可能性があります。そのため今の段階から地熱電力を確保しておくことは、将来の電力不足に対する一種の保険になります。
一方、ファーボ・エナジーにとっては巨大顧客との長期契約を獲得することで、将来の収益予測を立てやすくなるメリットがあります。
グーグルとの関係は2023年から始まっている
今回の契約は突然生まれたものではありません。
ファーボ・エナジーとグーグルの関係は2023年から始まっています。
さらに2024年6月には115メガワットの電力供給契約を結び、その後今回の396メガワット契約へと拡大しました。
つまり、115メガワットから396メガワット、そして将来的には最大約1,000メガワットへとプロジェクト規模が拡大する可能性があります。
この流れは重要です。
グーグルがファーボ・エナジーの技術やプロジェクト遂行能力を一定期間評価したうえで、契約規模を拡大している可能性が高いからです。
ファーボ・エナジーにとって最大の投資テーマは、地熱技術そのものだけではありません。
「大型プロジェクトを繰り返し建設できるのか」というスケールアップ能力が今後の企業価値を左右することになります。
地熱とSMRは競争ではなく共存する可能性
AIデータセンターの電力需要を巡っては、地熱以外にも太陽光、天然ガス、原子力、次世代小型原子炉(SMR)などさまざまな電源が注目されています。
特にSMRは、大量かつ安定した電力を長期間供給できる可能性があるため、AIデータセンター向け電源として期待されています。
ただし、原子力発電所には建設期間、規制当局の承認、建設コストなどの課題があります。
そのため、少なくとも当面は地熱とSMRのどちらか一方が勝者になるというより、複数の電源を組み合わせる方向へ進む可能性があります。
太陽光や風力に蓄電池を組み合わせながら、地熱や原子力のような24時間稼働できる電源をベースロードとして利用する形です。
AI時代のエネルギー投資では、「最も発電コストが安い企業」だけを見るのではなく、「データセンターが必要とする電力を24時間安定して供給できる企業」が重要になります。
今回のグーグルとファーボ・エナジーの契約は、その変化を象徴する出来事といえます。
エヌビディアなどの半導体企業がAIブームの第1段階をけん引したとすれば、次の投資テーマとして電力インフラ企業への注目がさらに高まる可能性があります。
ファーボ・エナジーが今回のグーグルとの契約をきっかけに、本格的な商用地熱企業へ成長できるのか。今後は発電能力の拡大だけでなく、建設コスト、資金調達、プロジェクトの稼働時期、そしてグーグル以外のビッグテック企業から追加契約を獲得できるかが重要なポイントになりそうです。
情報ソース: Barron’s: “Fervo Energy Stock Surges 27%. The Geothermal Company Will Be Powering Google.” (By Kit Norton, Sept. 1, 2026)
※本記事は情報の提供を目的としており、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資は自己責任で行ってください。
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