イーロン・マスク氏が率いる宇宙開発企業スペースX(SPCX)は、2026年6月のIPO(新規株式公開)以降、株式市場で大きな注目を集めています。
世界最大級の宇宙企業が上場したことで、株価は一時大きく上昇しました。しかし、華々しい上場直後の勢いは続かず、足元ではIPO価格を下回る水準まで下落しています。
一方、事業面では大型宇宙船スターシップの第13回テスト飛行が成功し、技術開発は着実に前進しています。
本記事では、スターシップの最新テスト結果や衛星通信サービスのスターリンクの成長性、IPO後の株価推移などを整理し、スペースX株の将来性について考察します。
スターシップ第13回テスト飛行で重要技術の実証に成功
スペースXは米東部時間の7月24日午後6時51分、スターシップの第13回テスト飛行を実施しました。
今回の飛行では、大型ブースターをメキシコ湾沖に着水させたほか、上段宇宙船に搭載されたRaptorエンジンの再点火にも成功しています。
Raptorエンジンを宇宙空間で再点火できることは、軌道の調整や衛星の展開、将来的な月・火星への飛行を実現するうえで重要な技術です。
スターシップが目指している最大の特徴は、機体を繰り返し使用できる完全再利用型の輸送システムです。実用化されれば、軌道上へ物資を輸送する際の1キログラム当たりのコストを90%以上削減できる可能性があります。
打ち上げコストが大幅に低下すれば、人工衛星の輸送だけでなく、月面開発、宇宙ステーションへの物資輸送、火星探査など、宇宙産業全体の市場規模が拡大する要因になります。
スペースXが単なるロケット企業ではなく、宇宙輸送インフラを支配する企業へ成長できるかどうかは、スターシップの実用化にかかっています。
打ち上げ延期が示す技術開発の難しさ
今回のテスト飛行は成功しましたが、当初予定されていた7月17日の打ち上げは延期されました。
延期の原因は、凍結した水によってターボポンプが固着したことでした。ターボポンプはロケットエンジンへ燃料や酸化剤を送り込む重要な装置です。
こうしたトラブルは、巨大ロケットの開発が依然として高い技術的リスクを抱えていることを示しています。
スターシップは約5トンの極低温推進剤を扱う大規模なシステムであり、わずかな機器の不具合でも打ち上げ全体が延期される可能性があります。
技術開発の遅延が続けば、研究開発費や人件費などの負担が増加し、収益化の時期も後ろ倒しになります。そのため、短期的な業績を重視する投資家にとって、スターシップ開発の不確実性は株価を抑える要因になっています。
スターリンクV3衛星20機の展開に成功
今回のテスト飛行では、上段宇宙船から20機のスターリンクV3衛星が展開されました。
スターシップの試験結果に注目が集まりやすいものの、現在のスペースXの企業価値を支えている中心事業は、衛星通信サービスのスターリンクです。
スターリンクは、低軌道上に多数の通信衛星を配置し、地上の通信設備が乏しい地域でも高速インターネットを提供するサービスです。
加入者数はすでに1000万人を超えており、スペースXにとって継続的な収益を生み出す事業へ成長しています。
新型のスターリンクV3衛星は、従来型より通信能力が高く、1機当たりのデータ処理能力も向上するとみられています。V3衛星の配備が進めば、通信速度や接続可能人数の拡大が期待できます。
スターシップとスターリンクが生み出す競争優位性
スペースXの最大の強みは、ロケット打ち上げ事業と衛星通信事業を自社内で組み合わせている点です。
通常、衛星通信企業は、他社のロケットを利用して衛星を軌道上へ運ぶ必要があります。この場合、打ち上げ費用やスケジュールを外部企業に依存することになります。
スペースXは自社のロケットでスターリンク衛星を打ち上げるため、打ち上げコストを抑えながら、衛星配備の頻度を高められます。
さらに、スターシップが完全再利用型ロケットとして本格稼働すれば、従来より多くの衛星を低コストで軌道へ投入できるようになります。
打ち上げコストの低下はスターリンクの利益率改善につながり、スターリンクから生み出された利益をスターシップの開発へ再投資する循環も形成できます。
この垂直統合型の事業モデルは、競合企業が短期間で再現することが難しく、スペースXの大きな競争優位性になっています。
IPO価格を下回るスペースX株
事業面では前進が続いている一方、株価は厳しい状況にあります。
スペースXのIPO価格は135ドルでしたが、7月24日の終値は115.07ドルとなり、IPO価格を約15%下回りました。
また、上場後に記録した過去最高値201.80ドルからは40%以上下落しています。直近26営業日のうち17営業日で株価が下落しており、明確な弱気トレンドが続いています。
同じ日にS&P 500やダウ平均が上昇したにもかかわらず、スペースX株は下落しました。そのため、現在の株価低迷は市場全体の下落ではなく、スペースX固有の要因による影響が大きいと考えられます。
IPO直後に株価が急上昇した反動や、上場前から株式を保有していた投資家による利益確定売りも、株価の重荷になっている可能性があります。
アナリスト評価は強気と慎重姿勢に分かれる
スペースX株に対するアナリストの見方は分かれています。
HSBCは目標株価を115ドルとし、投資判断を「ホールド(中立)」としています。現在の株価が115.07ドルであるため、HSBCは短期的な上昇余地をほとんど見込んでいません。
一方、スペースXを担当するアナリスト全体では、76%が「買い」を推奨しています。平均目標株価は約237ドルで、現在の株価から約2倍の水準です。
S&P 500採用銘柄に対する平均的な買い評価の割合が55%〜60%程度であることを考えると、スペースXに対する長期的な期待は非常に高い水準にあります。
評価が大きく分かれている背景には、投資期間の違いがあります。
短期的には、IPO後の需給悪化やスターシップ開発の遅延、巨額の研究開発費がリスクになります。一方、長期的には、宇宙輸送コストの大幅な低下やスターリンクの加入者拡大が企業価値を押し上げる可能性があります。
8月4日の初決算が株価反転の試金石
スペースXは2026年8月4日、上場企業として初めての決算発表を予定しています。
市場が特に注目するのは、スターリンクの加入者数、売上高、利益率、設備投資額などです。
スターリンクの加入者が引き続き増加し、安定したキャッシュフローを生み出していることが確認されれば、スターシップ開発に対する投資家の不安が和らぐ可能性があります。
一方、売上高の伸びに対して設備投資や研究開発費が急増している場合、利益確定までの期間が長期化するとの懸念が強まる可能性もあります。
スペースX株が反転するためには、技術的な成功だけでなく、スターリンクが収益面でも成長していることを数字で証明する必要があります。
現在の株価低迷がIPO後の一時的な調整なのか、それとも高すぎた企業評価の修正なのかは、初決算の内容によって判断されることになります。
スペースX株の将来性に対する考察
スペースXの将来性は、スターシップによる打ち上げコストの削減と、スターリンクによる継続的な収益の2つによって支えられています。
スターシップが実用化されれば、人工衛星の打ち上げ頻度を高めながら、宇宙輸送コストを大幅に引き下げられます。同時に、スターリンクの通信網を短期間で拡大し、加入者数や収益性を伸ばすことも可能になります。
ただし、現在の株価には、将来の成長期待が一定程度織り込まれています。スターシップの開発遅延や打ち上げ事故、設備投資の増加が続けば、株価の下落が長期化するリスクもあります。
スペースX株は、安定した利益を生み出す成熟企業への投資というより、宇宙産業の構造変化に投資する成長株と位置付けられます。
短期的な株価変動は大きくなる可能性がありますが、スターリンクの収益拡大とスターシップの再利用技術が計画どおり進めば、現在の株価低迷が長期投資家にとって買い場となる可能性もあります。
まずは8月4日の決算で、スターリンクの成長性とスペースX全体の収益構造を確認することが重要です。
情報ソース: Barron’s: “SpaceX Starship Aces Test 13. How That Will Help the Stock.” (By Al Root, July 24, 2026)
※本記事は情報の提供を目的としており、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資は自己責任で行ってください。
*過去記事はこちら スペースX
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