ASMLホールディングス(ASML)が2026年4月15日に発表した第1四半期決算は、市場予想を上回る好内容でした。しかし、株価はプレマーケットで下落しました。好決算にもかかわらず株価が売られた背景には、同社の将来を左右する複数の変化とリスクが複雑に絡み合っています。
本記事では、公開された事実情報に基づき、半導体露光装置で圧倒的な地位を築くASMLの将来性を分析します。
予想を大きく上回った第1四半期の実績
まず注目すべきは、第1四半期の業績がアナリスト予想を上回ったことです。売上高は87.7億ユーロとなり、市場予想の86.3億ユーロを上回りました。純利益も予想の25.5億ユーロに対して27.6億ユーロと、力強い数字を示しました。
1台あたり4億ドルを超えることもある高額な露光装置を扱うASMLにとって、四半期ごとの売上変動は避けにくい面があります。それでも今回の実績は、顧客からの底堅い需要を示す内容だったと言えます。
2026年に向けた強気の上方修正とその背景
今回の決算で市場に大きなインパクトを与えたのが、2026年通期売上高見通しの上方修正です。従来の340億ユーロ〜390億ユーロから、360億ユーロ〜400億ユーロへと引き上げられました。
この背景には、主要顧客による積極的な設備投資があります。TSMC(TSM)やサムスン電子などの大手半導体メーカーが、AI向けプロセッサや先端メモリ需要の拡大を見据えて生産能力の増強を進めており、それがASMLの中長期的な売上見通しを支える構図となっています。
なぜ好決算でも株価は下落したのか
今回の決算で最も重要なのは、業績自体が悪かったわけではないのに、なぜ株価が下落したのかという点です。その理由は大きく3つに整理できます。
1つ目は、すでに株価が大きく上昇しており、好材料がかなり織り込まれていたことです。バロンズの記事でも過去12カ月で株価が2倍以上に上昇していたとされており、市場の期待値はかなり高い状態でした。決算とガイダンスは確かに良好でしたが、すでに高水準にある株価をさらに押し上げるには力不足と受け止められ、利益確定売りにつながった可能性があります。ジェフリーズのアナリストが、株価評価のマルチプルは徐々に低下し、上値余地は限られると指摘している点も重しになりました。
2つ目は、今回の業績上振れが中国向け需要の強さに支えられていたと見られていることです。アナリストの見方では、中国向けの液浸リソグラフィ装置の売上が想定以上に堅調だったことが、今回の好決算を後押ししました。ただし、これは本質的な需要の増加というより、米国の新たな輸出規制を見越した中国企業による駆け込み需要、つまり前倒し発注の影響が大きい可能性があります。市場はこの強さを持続的な成長とは見なさず、一時的な特需と受け止めたことで評価が慎重になりました。
3つ目は、対中輸出規制の強化による将来の売上減少リスクです。米国では半導体製造装置の対中販売をさらに制限する法案、いわゆるMATCH Actが議論されており、その草案ではASMLが名指しで対象とされています。昨年の売上高の約3分の1を中国市場が占めていたことを考えると、この規制が強化された場合の影響は小さくありません。足元の決算が良くても、将来の収益機会が制約される懸念が株価の重しとなったと考えられます。
「四半期受注額の非開示」という戦略的転換の意味
ASMLは今後、四半期ごとの受注額を開示しない方針も明らかにしました。一般的には、開示情報の減少は投資家に不安を与えやすいものです。ただ、ASMLの場合は、短期的な数値の振れに市場が過剰反応するのを避けたいという意図があると考えられます。
露光装置は極めて高額で、納品時期の違いだけでも四半期業績が大きく変動します。そのため同社は、投資家の視線を短期の受注ブレから、数年単位の供給計画や設備投資サイクルへ移したいのだと考えられます。これは、自社の装置が半導体産業において代替の効かない存在であるという自信の表れとも受け取れます。
「チャイナ・リスク」との向き合い方
将来性を占ううえで最大の懸念材料は、やはり中国向け売上の縮小です。事実として、昨年のASMLの売上高の約3分の1は中国向けでしたが、同社は2026年にはその比率が20%程度に低下するとの見通しを示しています。
一見するとこれはマイナス材料に見えます。しかし、別の見方をすれば、中国依存を減らしながらAI向けの最先端プロセス需要へと軸足を移す構造改革でもあります。CEOのクリストフ・フーケ氏は、現在のガイダンスには輸出規制の影響を織り込んでいると説明しています。つまり、規制強化という逆風を前提にしてなお売上見通しを引き上げている点は、同社の事業基盤の強さを示しているとも言えます。
結論:ASMLの未来は不透明か、それとも盤石か
ASMLの将来性を考えるうえで重要なのは、足元の株価反応だけではなく、2026年に向けた上方修正済みガイダンスを達成できるかどうかです。
今回の株価下落は、好決算そのものが否定されたというより、すでに高騰していた株価水準、中国の駆け込み需要への警戒、そして対中規制強化への不安が重なった結果と見るのが妥当です。つまり、市場は現在の強さよりも、その持続性を厳しく見極めようとしている段階にあります。
それでも、ASMLの競争優位は依然として際立っています。4億ドル超の先端露光装置を供給できる独占的な地位を持ち、TSMCやサムスン電子といったトップ顧客の投資需要にも支えられています。地政学リスクという大きな課題はあるものの、半導体産業の心臓部としての重要性は今後も高い状態が続く可能性があります。
短期的には不透明感が残る一方で、中長期では依然として非常に強固なポジションを維持している企業と評価できます。
情報ソース: Barron’s: “ASML Stock Drops. Why an Earnings Beat Wasn’t Enough to Keep Its Rally Going.” (By Adam Clark, April 14, 2026)
※本記事は情報の提供を目的としており、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資は自己責任で行ってください。
*過去記事「ASMLに迫る中国リスク MATCH Actで変わる半導体製造装置市場」
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