ASMLに迫る中国リスク MATCH Actで変わる半導体製造装置市場

  • 2026年4月4日
  • 2026年4月4日
  • BS余話

米中の半導体覇権争いが、ここにきて新たな段階へ進みつつあります。今回注目したいのは、米国で新たに提出された対中輸出規制法案「MATCH Act」です。この法案は、半導体の製造そのものではなく、それを支える製造装置の供給網にまで踏み込む内容となっており、世界の半導体製造装置業界に大きな影響を及ぼす可能性があります。

なかでも最も大きな打撃を受けるとみられているのが、オランダの半導体製造装置大手ASMLホールディング(ASML)です。EUV露光装置を事実上独占する同社は、AI時代の中核インフラを握る存在として高く評価されてきました。一方で、ここ数年の業績を支えてきた中国市場への依存が、今後は大きな弱点として意識される局面に入りつつあります。

中国向け売上の急拡大が示していた“特需”

ASMLはこれまで、米国による対中規制の強化を受けながらも、巧みに事業を拡大してきました。最先端のハイエンド装置については中国向け輸出が厳しく制限されていたものの、旧世代の装置については一定の販売余地が残されていたからです。

実際、中国向け売上比率は2022年の14%から2024年には41%へと急上昇し、2025年も全体の約3分の1を占める規模に達しました。これは、中国の半導体メーカーが最先端装置を入手できない代わりに、成熟世代向けの装置を大量に導入した結果とみられます。ASMLにとって中国市場は、単なる補完先ではなく、すでに大きな売上ドライバーになっていたのです。

しかし、今回のMATCH Actは、この構図そのものを変える可能性があります。報道によれば、2015年に発売された既存機種まで規制対象に含める方向で議論が進んでおり、従来の“抜け道”が封じられる懸念が強まっています。これが現実になれば、ASMLは中国向けのボリューム販売を大きく失う可能性があります。

本当に重いのは装置販売よりサービス規制

今回の規制強化で見落としてはならないのが、単に新規装置の販売が制限されるだけではない点です。高利益率のサービス事業まで対象になる可能性があることは、ASMLにとってより深刻な問題です。

半導体製造装置のビジネスでは、装置を一度納入して終わりではありません。保守、部品交換、性能最適化、ソフトウェア更新といった継続的なサービスが、安定した収益源となります。しかもこれらは一般的に利益率が高く、企業のキャッシュフローを支える重要な柱です。

もし中国向けサービス提供まで厳しく制限されるなら、ASMLは一時的な売上減少にとどまらず、収益構造そのものに圧力を受けることになります。投資家が注視すべきなのは売上高だけではなく、マージンの低下がどこまで進むかという点です。

2026年の中国売上比率20%予想は楽観的か

ASMLは2026年の中国向け売上比率について、20%程度まで低下するとの見通しを示していました。しかし、米国の政治環境を踏まえると、この想定はかなり甘い可能性があります。

MATCH Actは、下院で共和・民主両党の議員が共同で提出しており、上院でも超党派で同様の動きが進んでいます。米中対立が選挙向けの一時的なスローガンではなく、米国の長期戦略として定着していることを考えると、対中半導体規制は今後さらに強化される方向にあると見るのが自然です。

そうなると、ASMLが想定する中国売上比率20%も維持が難しくなり、一段と低い水準へ落ち込む可能性があります。市場がまだそのリスクを十分に織り込んでいないなら、今後の決算やガイダンスでネガティブサプライズが出る余地もあります。

それでもASMLの核心的価値は揺らがない

もっとも、ASMLの企業価値そのものが失われるわけではありません。AIサーバー向けGPUや先端メモリの製造には、ASMLの最先端露光装置が不可欠です。エヌビディア(NVDA)のGPUも、マイクロン・テクノロジー(MU)の広帯域メモリも、こうした装置なしには生産できません。

つまり、AI時代の半導体競争が続く限り、ASMLの技術的独占力は依然として極めて強固です。問題は、最先端需要の強さだけで中国市場の縮小をどこまで補えるかにあります。

さらに重要なのは、ASMLが次世代装置を開発し続けるためには、巨額の研究開発投資が必要だという点です。旧世代装置や中国市場から得られるキャッシュは、こうした研究開発を支える意味でも大きな役割を果たしてきました。もし中国関連の利益が想定以上に細るなら、将来の技術開発ペースにも影響が及ぶ可能性があります。

米国の規制強化が生む皮肉なジレンマ

ここで浮かび上がるのが、米国自身にとってのジレンマです。中国の半導体産業を抑え込むための規制が、結果として西側のAI基盤を支えるASMLの投資余力を削ぐかもしれないからです。

もちろん、短期的には中国向け供給を絞ることで地政学的な優位を保つ狙いがあるのでしょう。しかし長期的には、ASMLの研究開発能力が鈍れば、最終的に米国側の半導体競争力にも跳ね返る可能性があります。MATCH Actは対中包囲網を強化する法案である一方、西側サプライチェーンにも副作用をもたらす可能性を秘めています。

まとめ

ASMLは今なお、世界で最も重要なテクノロジー企業の1社です。ただし、これまで業績を下支えしてきた中国の需要拡大が、今後も続く前提では見られなくなってきました。MATCH Actが本格化すれば、中国向け売上と高収益サービスの両方が圧迫される恐れがあります。

今後の焦点は明確です。中国市場の縮小による利益率悪化を、AI向け最先端装置の需要拡大でどこまで埋め合わせられるのか。このバランスこそが、ASMLの中長期的な株価評価を左右する最大のポイントになりそうです。

情報ソース: Barron’s: “House Bill Would Ban More Chipmaking Equipment Shipments to China. One Company Would Feel the Most Pain.” (By Adam Levine, April 03, 2026)

※本記事は情報の提供を目的としており、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資は自己責任で行ってください。

*過去記事「【ASML決算詳報】受注額2.4兆円超え!AIインフラ構築の「爆発」は止まらない

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