2026年6月、イーロン・マスク氏率いるスペースX(SPCX)がついに新規株式公開(IPO)を果たしました。長らく非公開企業として注目を集めてきた同社の上場は、宇宙ビジネスだけでなく、AI、通信、データインフラを含む次世代テクノロジー市場全体にとって大きな節目となりました。
IPO直後は、主幹事を務めた投資銀行などが一定期間リサーチレポートの公開を控える「沈黙期間」があります。そのため投資家は、ウォール街がスペースXをどのように評価するのかを注視していました。そしてその沈黙期間が明け、ついに主要金融機関から一斉に評価が公表されました。
本記事では、バロンズ紙が報じた内容をもとに、スペースXの将来性、株価評価、そして「10兆ドル企業」という壮大なシナリオの現実味について考察します。
ウォール街が一斉に示した強気評価
リサーチ解禁後、スペースXには金融機関から相次いで新規評価が出されました。モルガン・スタンレー、ゴールドマン・サックス、バンク・オブ・アメリカ、RBC、ウェルズ・ファーゴ、バーンスタイン、UBSなどを含む15件の新規評価のうち、14件が「Buy(買い)」、残る1件が「Hold(中立)」でした。売り推奨はゼロです。
これは非常に強い評価です。S&P500構成銘柄における平均的な「Buy」評価の割合は55%〜60%程度とされる中で、スペースXはアナリストの約75%が買い推奨を出していることになります。上場直後の企業としては、かなり高い期待を集めていると言えます。
目標株価も強気です。新規評価の平均目標株価は約250ドルで、企業価値に換算すると約3.3兆ドルに相当します。全体平均でも約240ドルとされており、記事執筆時点の株価152.10ドルから見れば、およそ50%の上昇余地がある計算になります。
強気評価の背景にある成長シナリオ
ウォール街がここまで強気なのは、スペースXを単なるロケット打ち上げ企業として見ていないためです。アナリストたちは、同社が2031年に5,650億ドル超の売上高を達成する可能性を織り込んでいます。
一方で、現在のバリュエーションは非常に高い水準にあります。2027年予想売上高の約45倍という評価は、一般的な企業と比較すれば割高感が強いと言わざるを得ません。
それでもアナリストが買い推奨を出しているのは、数年後の売上成長が現在の割高さを正当化すると見ているためです。つまり、現在の株価は「今のスペースX」ではなく、「2030年代に巨大インフラ企業へ進化したスペースX」を先取りして評価していると言えます。
レイモンド・ジェームズが示した10兆ドル企業シナリオ
特に市場を驚かせたのが、レイモンド・ジェームズのブライアン・ジェスアル氏によるレポートです。同氏はスペースXに対して、目標株価800ドル、企業価値10兆ドル超という非常に大胆な見通しを示しました。
この評価は、2031年予想EBITDAの27倍を基準に算出されています。参考までに、アルファベット(GOOGL)は2027年予想EBITDAの約16倍で評価されています。つまり、スペースXには既存の巨大テック企業を上回るプレミアムが付与されていることになります。
では、なぜこれほど高い評価が可能になるのでしょうか。鍵を握るのは、スペースXの事業構造です。同社はロケットを打ち上げるだけの企業ではありません。
スペースXは、完全再利用型ロケット「Starship」を含む宇宙輸送インフラを持ち、宇宙ベースのブロードバンド通信網を展開し、AIモデル開発やデータセンター構想にも関わっています。さらに、5億5,000万人規模のユーザーを抱える「X」との連携も視野に入ります。
つまり、スペースXは輸送、通信、データ、AI、プラットフォームを垂直統合する可能性を持つ企業です。この点こそが、従来の宇宙企業とは大きく異なる部分です。
ロケット企業ではなく次世代インフラ企業
スペースXの真の価値は、ロケットの打ち上げ回数や衛星の数だけでは測れません。同社が目指しているのは、宇宙空間を活用した次世代インフラの構築です。
キャンター・フィッツジェラルドのアナリストが指摘するように、スペースXはデータを生み出すプラットフォーム、通信網、処理基盤、そしてそれらを宇宙へ展開する輸送手段を自社で保有しています。
多くのテック企業は、クラウド、通信、半導体、データセンター、物流などの一部を外部企業に依存しています。しかしスペースXは、それらを自社エコシステムの中に取り込む可能性があります。
この垂直統合モデルが実現すれば、同社は単なる宇宙企業ではなく、AI時代の基盤を支える「21世紀型インフラ企業」として評価されることになります。10兆ドルという評価は一見すると極端に見えますが、アナリストはこの巨大な統合モデルに価値を見いだしていると考えられます。
株式市場はまだ慎重に見ている
ただし、アナリストの熱狂とは対照的に、株式市場の反応はやや冷静です。スペースXの株価は公開価格135ドルから上昇しているものの、直近では152.10ドルと5.2%下落する場面もありました。同じタイミングでS&P500の下落率が0.3%だったことを考えると、スペースXの値動きはかなり大きいと言えます。
この動きは、投資家がウォール街の描く成長シナリオをそのまま受け入れているわけではないことを示しています。2031年に向けた売上拡大やAI・通信インフラ構想が実現すれば大きな上昇余地がありますが、その道のりには不確実性もあります。
特に、ロケット開発には技術的リスクが伴います。打ち上げ失敗、開発遅延、規制対応、設備投資負担などは、収益化のタイミングを遅らせる要因になります。また、AI事業やデータセンター構想が期待通りに進むかどうかも重要なポイントです。
高い成長期待で評価されている企業ほど、少しの失望で株価が大きく下落する可能性があります。スペースXも例外ではありません。
今後の注目点
今後の焦点は、スペースXが壮大なビジョンをどれだけ実際の収益に変えられるかです。
まず注目すべきは、Starshipを含むロケット事業の進捗です。完全再利用型ロケットが安定的に運用されれば、宇宙輸送コストの低下が進み、衛星通信や宇宙インフラ展開の競争力が高まります。
次に、ブロードバンド通信事業の拡大です。宇宙ベースの通信網が世界中で普及すれば、スペースXは通信インフラ企業としての収益基盤を強化できます。
さらに、AIやデータセンター分野との連携も重要です。宇宙空間を活用したデータ処理やAIインフラ構想が現実味を帯びれば、同社の評価はロケット企業の枠を完全に超える可能性があります。
まとめ
スペースXの上場後に公表されたウォール街の評価は、同社に対する非常に強い期待を示すものでした。15件の新規評価のうち14件が買い推奨という事実は、アナリストがスペースXを単なる宇宙ベンチャーではなく、次世代インフラ企業として見ていることを表しています。
一方で、現在の株価にはすでに大きな成長期待が織り込まれています。2027年予想売上高の約45倍というバリュエーションは、成長が順調に進むことを前提とした水準です。今後、決算や事業進捗で市場の期待に応えられるかが重要になります。
スペースXが本当に10兆ドル企業へ成長するかどうかは、ロケット、通信、AI、データインフラを一体化したビジネスモデルを現実の利益へ変えられるかにかかっています。夢のようなシナリオではありますが、もし実現すれば、同社は21世紀を代表するインフラ企業になる可能性があります。
情報ソース: Barron’s: “SpaceX Just Got 14 New Buy Ratings—and 1 Crazy Price Target” (By Al Root, July 07, 2026)
※本記事は情報の提供を目的としており、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資は自己責任で行ってください。
*過去記事はこちら スペースX
🎧この記事は音声でもお楽しみいただけます。AIホストによる会話形式で、わかりやすく、さらに深く解説しています。ぜひご活用ください👇