S&P500指数(SPX)が過去3年間で約2倍に達するという、歴史的な上昇相場の中に私たちはいます。AI(人工知能)が経済構造を変革するという期待感が市場を牽引してきましたが、2025年の暮れを迎えた今、投資家が直視すべき「不都合なデータ」が浮上しています。
今回は、最新の市場データに基づき、高評価銘柄が直面しているリスクと、その具体的な兆候について考察します。
「PER 40倍」という分水嶺
市場分析において、株価収益率(PER)は常に重要な指標ですが、トリバリエイト・リサーチの最新調査は、特定のラインを超えた銘柄に対する明確な警告を発しています。
2025年、時価総額上位900社のうち22銘柄が初めて「PER 40倍」の大台を突破しました。しかし、2003年以降の歴史的なデータは、このラインを超えた銘柄にとって厳しい未来を示唆しています。PERが40倍を超えた銘柄は、その後の3年間で市場平均を平均12ポイントも下回るパフォーマンスしか残せていないのです。
これは、投資家の期待が実体経済の成長速度を遥かに追い越してしまった時、その反動がいかに大きいかを示しています。2025年9月以降、ブロードコム(AVGO)、サークル・インターネット・グループ(CRCL)、オラクル(ORCL)、ピュア・ストレージ(PSTG)といったテクノロジー企業が相次いでこの「危険水域」に足を踏み入れましたが、過去の統計に従えば、これらの銘柄は今後数年、市場全体に対して劣後する可能性が高いと考えられます。
ブロードコム:好決算でも許されない「質の死角」
この「高すぎる期待」の弊害が最も顕著に現れたのが、半導体大手であるブロードコムの事例です。
同社の株価は年初来で約50%上昇し、11月下旬にはPER 40倍のラインを超えました。しかし、12月に入り状況は一変します。第4四半期決算で市場予想を上回る利益を計上したにもかかわらず、株価は3日間で18%も暴落しました。これは過去5年間で最悪の下落幅です。
なぜ好決算で売られたのか。その原因は、CEOがAIチップ事業のグロスマージン(粗利益率)の低さに言及したことにあります。
ここから読み取れる分析は明確です。現在の市場は、単に「予想を上回る利益」だけでは満足しなくなっています。投資家はAIブームに沸きつつも、その内実(利益率の質)に対して極めて敏感になっており、少しでもネガティブな要素があれば、これまで積み上げたプレミアムを一瞬で剥落させる準備ができているということです。
現在、ブロードコムの株価は調整を経て、2026年予想収益ベースでPER 34倍付近まで低下しています。この水準訂正が「痛みの終わり」を意味するのか、それとも長期的なアンダーパフォームの始まりなのか、慎重な見極めが必要です。
*過去記事はこちら ブロードコム AVGO
サークル:IPOの熱狂と現実の乖離
もう一つの象徴的な事例が、ステーブルコインUSDCを発行するサークル・インターネット・グループです。2025年6月のIPO時には263ドルという高値をつけましたが、12月22日現在は87ドル付近と、ピークから大きく値を下げています。
ブロードコム同様、サークルも業績自体は好調です。11月中旬の発表では、市場予想の3倍以上という驚異的な利益を叩き出しました。しかし、株価は決算発表後の数週間で約10%下落しています。
ここでの懸念材料は「需給」と「割高感」の複合要因です。
1つ目は、決算発表と同時期にIPOのロックアップ期間が終了し、内部関係者による売り圧力への警戒感が高まった点です。
2つ目は、極端なバリュエーションです。株価が下がった現在でも、ファクトセットのデータによれば、2026年予想収益ベースでPER 89倍という極めて高い水準で取引されています。
利益が予想の3倍であっても株価が下がるという事実は、現在の株価に織り込まれている期待値がいかに異常な高さであるかを物語っています。PER 89倍という数字は、わずかな成長鈍化も許されない綱渡りの状態を示唆しており、投資家にとってはブロードコム以上にリスク管理が求められる銘柄と言えます。
*過去記事「ビザがUSDC決済を本格導入へ―サークル株急騰が示唆する「金融の未来」」
結論:2026年は「数字の質」が問われる
S&P500の上昇とAIへの熱狂は続いていますが、足元では明らかに選別の目が厳しくなっています。
歴史的な統計が示すPER 40倍超え銘柄の長期的不振、好決算でも利益率への懸念で暴落したブロードコム、そして予想を遥かに超える利益でも超高PERと需給悪化で下落したサークル・インターネット・グループ。これらの事実は、2026年に向けて「単なる増益」や「AI関連」というテーマ性だけでは、現在の高い株価を正当化できなくなっていることを示しています。
投資家は、表面的な成長率だけでなく、利益の質(マージン)やバリュエーションの妥当性を、これまで以上にシビアに分析する必要があります。
情報ソース: Barron’s: “Broadcom, Circle, and 8 More Stocks That Look Overvalued for 2026” (By Ian Salisbury, Updated Dec. 23, 2025)
※本記事は情報の提供を目的としており、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資は自己責任で行ってください。
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