AI市場の急拡大によって、これまで投資家の関心はエヌビディアをはじめとする半導体企業や、オープンAI、アンソロピックなどのAIモデル開発企業に集中してきました。しかし、AIインフラへの投資が拡大するにつれて、新たなボトルネックとして浮上しているのが「電力」です。
その電力需要を巡る投資先として注目を集めているのが、燃料電池システムを手掛けるブルーム・エナジー(BE)です。ナンシー・ペロシ元米下院議長の夫であるポール・ペロシ氏が、2026年7月に同社株とコールオプションを購入したことが明らかになりました。
今回の投資は、単なる個別銘柄への投資というより、AIデータセンターの急増によって発生する電力不足という大きなテーマに資金を投じた動きとして見ることができます。
AIデータセンター拡大で深刻になる電力不足
生成AIの学習や推論には膨大な計算能力が必要となります。エヌビディアのGPUを大量に搭載したAIデータセンターが世界各地で建設されていますが、サーバーを稼働させるためには大量の電力が欠かせません。
問題は、AIデータセンターの建設速度に対して、既存の電力インフラ整備が追いついていないことです。
大規模なデータセンターを建設しても、送電線の増強や発電設備の整備には数年単位の時間が必要になる場合があります。そのため、AI企業やクラウド事業者にとって「データセンターを建設できる場所」だけではなく、「必要な電力を確保できる場所」が重要になっています。
こうした状況で注目されているのが、施設内やその近くで発電するオンサイト発電です。
ブルーム・エナジーの強みはオンサイト発電
ブルーム・エナジーは、データセンターや大規模な製造施設などに設置できる燃料電池システムを提供しています。
同社のシステムを利用すれば、電力会社から供給される電力だけに依存することなく、需要地の近くで電力を発生させることが可能になります。
これはAIデータセンター事業者にとって大きなメリットがあります。
AIサービスではサーバーを24時間稼働させる必要があり、電力不足によってデータセンターの稼働開始が遅れることは、大きな機会損失につながります。電力網の増強を待たずに一定規模の電力を確保できるのであれば、AIインフラ投資のスピードを高められる可能性があります。
ブルーム・エナジーの成長を考えるうえでは、環境関連企業という側面だけではなく、「AIデータセンター向け電力インフラ企業」という視点が重要になっています。
ペロシ氏は現物株とコールオプションを購入
今回注目されたのは、ポール・ペロシ氏が2026年7月にブルーム・エナジーへの投資を拡大したことです。
現物株については合計15,000株を購入しました。それに加えて、2027年6月満期、権利行使価格100ドルのコールオプションを合計200契約購入しています。
取引当時のブルーム・エナジー株は約166ドルから184ドル台で推移していました。
そのため、権利行使価格100ドルのコールオプションは、株価を大きく上回る権利行使価格を設定する投機的なオプションではなく、すでに大きな本質的価値を持つディープ・イン・ザ・マネーのオプションとなります。
満期も2027年6月と比較的長期間に設定されています。
ディープ・イン・ザ・マネーを選んだ意味
今回の取引で興味深いのは、ブルーム・エナジー株がすでに大幅に上昇している段階で、さらに投資を拡大している点です。
ディープ・イン・ザ・マネーのコールオプションは、株価との連動性が比較的高くなります。一方で、現物株を同じ規模で購入する場合と比較すると、必要となる資金を抑えながら株価上昇の恩恵を受けることができます。
つまり今回の取引は、短期間で何倍もの利益を狙うような極端な投機というよりも、資金効率を高めながらブルーム・エナジー株の中長期的な上昇にポジションを取る戦略と見ることができます。
もちろん、オプションには満期が存在するため、現物株とは異なるリスクがあります。株価が期待通りに上昇しなければ、オプションの価値が低下する可能性もあります。
「ペロシ・エフェクト」による短期的な株価上昇
ペロシ氏の投資が注目される理由は、その投資実績だけではありません。
米国では政治家の株式売買情報を追跡するサービスが広がっており、ペロシ氏の取引を参考にする個人投資家も少なくありません。
バロンズによると、「ペロシ・トラッカー」と呼ばれる模倣トレードツールには20,000人以上のユーザーがおり、推定4,400万ドルの資金が連動しています。
今回の取引開示後、ブルーム・エナジー株は8月24日の取引で一時4%以上上昇しました。
こうした動きを見ると、著名投資家や政治家の取引情報そのものが短期的な買い材料となる市場環境が形成されていることが分かります。
一方で、こうした資金流入は企業の業績とは直接関係ありません。投資家としては、話題性による短期的な株価上昇と、企業価値の成長を分けて考える必要があります。
ブルーム・エナジーの最大の成長材料はAI向け電力需要
今回のペロシ氏の投資で最も重要なのは、「ペロシ氏が買った」という事実そのものではありません。
注目すべきなのは、その投資先がAI時代に不足すると予想される「電力」を供給する企業だったことです。
AIデータセンター市場では、GPU、ネットワーク機器、ストレージ、冷却設備など幅広い分野に投資が拡大しています。そして、そのすべてを動かすために必要なのが電力です。
今後、電力網への接続待ちがデータセンター建設の制約となれば、オンサイト発電設備の価値はさらに高まる可能性があります。
ブルーム・エナジーにとって重要になるのは、AIデータセンター関連の大型案件を継続して獲得できるかどうかです。今後の決算では、売上高や利益率だけでなく、大型契約や受注残の動向にも注目したいところです。
まとめ
ポール・ペロシ氏によるブルーム・エナジーへの投資は、AI投資の対象が半導体やソフトウェアから電力インフラへ広がっていることを象徴する動きと見ることができます。
AIデータセンターの建設が加速するほど、電力供給能力が成長を制約する可能性があります。その中で、電力網に全面的に依存せず、需要地の近くで発電できるブルーム・エナジーのオンサイト発電システムは、新たな成長機会を獲得する可能性があります。
一方、ブルーム・エナジー株はすでにAI電力需要への期待を背景に大きく上昇しています。ペロシ氏の投資開示を追随する資金も株価を押し上げる可能性があるため、短期的な過熱には注意が必要です。
AI投資の次の主戦場がGPUから電力へ移るのか。ブルーム・エナジーは、その変化を確認するうえで注目度の高い企業の1つとなっています。
情報ソース: Barron’s: “Nancy Pelosi Invested $3 Million in This AI Energy Play” (By Naomi Buchanan, Aug. 24, 2026)
※本記事は情報の提供を目的としており、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資は自己責任で行ってください。
*過去記事「ブルーム・エナジー売上165%増 AIデータセンターの電力不足が生んだ急成長」
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