デザインツール企業として急成長を遂げたフィグマ(FIG)が、2025年夏に待望のIPO(新規株式公開)を迎えようとしています。その裏には、アドビによる買収計画の頓挫、そしてCEOディラン・フィールド氏の決意と行動がありました。
アドビとの20億ドル買収が破談に
2022年、アドビ(ADBE)はフィグマを200億ドルで買収する計画を発表しましたが、米国司法省や英国競争・市場庁(CMA)などの規制当局の強い反発を受け、最終的に2023年末に破談となりました。フィールド氏にとってこの結果は大きな打撃だったと伝えられています。
IPO準備と急ピッチのプロダクト開発
買収失敗後、フィールド氏は一層の成長路線に舵を切り、プロダクトの開発に拍車をかけました。フィグマはこの1年で売上を49%伸ばし、8億2100万ドルに達したと報じられています。しかも、フリーキャッシュフロー率は28%と、上場ソフトウェア企業の平均(18%)を大きく上回っています。
プロダクト数も従来の4つから8つに倍増。Illustratorに対抗する「Figma Draw」や、AIを活用したプロトタイプ生成ツール「Figma Make」など、多角的な製品展開を進めています。
デザイナーの「協業ツール」としての進化
当初はデザイナー向けツールとしてスタートしたフィグマですが、現在ではプロダクトマネージャーやエンジニア、マーケターにも広く使われる「コラボレーション・プラットフォーム」へと進化しています。この柔軟なポジショニングが、パンデミック下のリモートワーク需要を取り込み、大きな成長をもたらしました。
AI時代の競争にどう挑むかがカギ
一方で、AIによるUIデザイン自動化の進展は、フィグマにとって脅威でもあります。一部ユーザーは、フィグマを使わずともAIツールでプロトタイプを生成するようになっているといいます。これに対抗する形で、フィグマもAI機能の強化や他社ツールとの連携を図っており、今後の競争力維持が注目されます。
シリコンバレーの注目を集めるIPO
このような背景のもと、フィグマのIPOは2025年最大級の注目案件と目されています。既存株主にはセコイア・キャピタルやグレイロックなど名だたるベンチャーキャピタルが名を連ね、IPOの成功は他の未上場スタートアップの上場再開にも弾みをつける可能性があります。
創業者ディラン・フィールド氏とは何者か
フィールド氏はカリフォルニア州ソノマ出身で、幼少期からコンピュータに親しみ、大学在学中にピーター・ティールのフェローシップを受けて起業に踏み切りました。元々は「ドローンによる警察支援」というアイデアからスタートしましたが、共同創業者とともにWebGLを活用したグラフィックツール開発へと舵を切り、2015年にフィグマを正式リリースしました。
アドビとの買収交渉や、その後の破談を経て、今では75%の議決権を持つCEOとして上場後のM&A戦略も視野に入れているといいます。
フィグマのIPOは何を意味するのか
アドビとの統合が規制によって阻まれた末に、独立企業として上場にこぎつけたフィグマ。そのプロセスこそが、反トラスト政策のひとつの成果とも言えるかもしれません。そして、IPOによって新たな成長資金を得たフィグマが、再びアドビの牙城を崩しにかかる可能性も十分にあります。
今回のIPOは、デザインツール企業の成功例というだけでなく、テック業界における買収・独立・競争のダイナミズムを象徴する出来事といえそうです。
*過去記事「IPOラッシュ再来?注目の米テック3社が上場準備中」