2025年初頭、中国の人工知能スタートアップ「ディープシーク」が、低コストかつ省チップで動作する高度なAIモデル「R1」を発表し、米国市場に衝撃を与えました。この発表を受けてエヌビディア(NVDA)の株価は一時的に大きく下落しましたが、同社はこれをむしろビジネス拡大の好機ととらえています。
推論需要を押し上げるR1モデルの登場
6月5日、バンク・オブ・アメリカのグローバル・テクノロジー・カンファレンスに登壇したエヌビディアのアクセラレーテッド・コンピューティング担当バイスプレジデント、イアン・バック氏は、「R1モデルの登場により、すべてのAIモデルが推論型へと進化しつつある。それに伴いGPUやサーバーの需要が急拡大している」と語りました。
とくに、最新アーキテクチャ「ブラックウェル」と高速接続技術「NVLink」を活用したGB200システムは、こうした推論ニーズの高まりに的確に対応できる製品であり、市場投入のタイミングも絶好だったと強調しています。
バック氏は「推論市場の総規模は従来の20倍に拡大している」と述べ、これがエヌビディアにとって大きな成長チャンスであるとしています。
市場の懸念に反論、強気を維持するアナリストたち
米国みずほ証券のアナリスト、ジョーダン・クライン氏は6月5日のメモで、「エヌビディアがAI市場の軸足がトレーニングから推論へと移行する中で不利益を被るという見方は誤りだ。むしろ業界全体でGPUの使用量が増加する好材料だ」と指摘しました。
また、バンク・オブ・アメリカのアナリスト、ヴィヴェック・アリア氏も「顧客の需要は依然として強く、クラウドとエンタープライズの両市場で関心が高まっている」とコメント。同氏は当日の投資家向けディナーで、エヌビディアの最高財務責任者コレット・クレス氏およびIR責任者の針俊也氏と面会しています。
ブラックウェルの順調な立ち上げと次世代チップへの展望
アリア氏によれば、AIプラットフォーム「ブラックウェル」は順調に立ち上がっており、2025年度第1四半期におけるコンピューティング関連の売上の約7割を占めています。さらに、次世代チップ「ブラックウェル・ウルトラ」は第2四半期から製造が開始され、年後半には本格的な供給が始まる見込みです。経営陣は「コストの増加は最小限に抑えられる」としており、スムーズな製品移行が期待されています。
中国リスクと米国のAI政策への対応
エヌビディアの中国事業については、すでにリスクが織り込まれており、現在のデータセンター収益見通しには中国向け売上は含まれていません。米国政府がH20チップの中国販売を禁止した後も、中国向けの新製品投入はあり得ますが、それは追加的な売上にとどまるとされています。
また、トランプ大統領がバイデン政権時代に導入されたAI拡散規制の施行を控えている現状は、国家主導型のAI需要(いわゆるソブリンAI)の拡大を後押しする可能性があります。
エヌビディア株にはさらなる上昇余地
バンク・オブ・アメリカはエヌビディア株に対して「買い」評価を継続し、目標株価を180ドルに設定しています。これは現在の株価水準から約28%の上昇余地があることを意味します。
エヌビディアの強みとして、以下の点が挙げられます:
- AI分野における高い性能とスケーラビリティ
- 豊富な製品パイプライン
- 広範な顧客基盤とその規模
- 開発者向けエコシステムの支援体制
AIの波が加速するなか、エヌビディアは今後も最有力プレーヤーであり続けるとの見方に揺らぎはありません。
*過去記事はこちら エヌビディアNVDA