2025年5月現在、デル・テクノロジーズ(DELL)とHP(HPQ)の最新決算から見えてきたのは、「AI搭載パソコン」に対する企業側の強い期待と、それに対して進まない消費者の購買行動とのギャップです。関税や経済的不透明感が影響し、PC需要は依然として厳しい状況が続いています。
HPは業績予想を下方修正、コスト増と消費減退を懸念
HPは5月末に発表した2025年第2四半期決算において、市場予想を下回る結果となりました。さらに、通期の利益見通しを下方修正しました。理由としては、製造コストの上昇や、消費者が支出を抑える可能性が高まっていることを挙げています。
HPのエンリケ・ロレス最高経営責任者(CEO)は「新たな貿易環境によるマクロ経済の不確実性が需要に影響する」と、米投資情報誌『バロンズ』のインタビューで語りました。
デルも個人向け需要減を強調、AIパソコンには前向きな姿勢
デル・テクノロジーズも同様の傾向を示しました。2025年第1四半期の決算説明会では、個人向け売上が前年同期比で19%減少し、15億ドルにとどまったと報告しています。「個人市場は依然として厳しい状況にある」と経営陣は述べています。
それでも両社は、AI搭載パソコンによって新たな成長機会が創出されると見ています。ただし、関税や経済の不確実性が高い現状では、その成長スピードは鈍化しているようです。
パソコン需要が回復しない背景にはコロナ禍の「前倒し需要」も
PC需要は、コロナ禍中の「前倒し購入」によって一時的に伸びましたが、現在はその反動で需要が減退しています。多くの消費者がパンデミック時にノートパソコンを購入しており、今は旅行やレジャーに支出が移っているのが実情です。
さらに、インフレによる物価高や、連邦準備制度による利上げに加えて、トランプ大統領が導入した新たな関税政策が、消費者心理に大きな影響を与えています。パソコンは一時的に関税の対象から外れていますが、物価全体の上昇が続いていることから、消費者は支出を見直しています。
IDCのデバイス・コンシューマーリサーチ担当バイスプレジデント、トム・マイネリ氏は「消費者は今、どこにお金を使うべきかを真剣に考えており、高額なPCを買うのは後回しにされがち」と分析しています。
法人向けPC市場には明るい兆し、Windows 10サポート終了が追い風に
一方、法人向けPC市場には回復の兆しがあります。企業は一定の水準でハードウェアやソフトウェアの更新が必要なため、投資を先延ばしにはできません。特に2025年10月には、マイクロソフト(MSFT)のWindows 10のサポートが終了する予定です。
サポート終了後は、1デバイスあたり年額61ドルを支払わなければ技術サポートやソフトウェアアップデートが受けられなくなります。この金額は年を追うごとに倍増し、最大3年間まで延長されます。
IDCのマイネリ氏は「このタイミングは企業にとってフリート全体を更新する好機」と述べています。ただし、経済の不透明感や関税の影響で、多くの企業はとりあえずサポート延長費用を支払い、ハードの刷新を見送る可能性もあります。
今後の展望:AI進化と経済情勢が鍵
AIを活用したパソコンが本格的に市場に浸透するには、まだ時間がかかりそうです。技術的な進化は続いているものの、消費者にとっては「将来への投資」に対して慎重にならざるを得ない状況です。
経済の安定と明確な価値提案がなければ、AIパソコンの普及は本格化しないかもしれません。当面、PC市場は法人需要がけん引する形でゆるやかな回復を目指す展開となりそうです。
*過去記事はこちら デル・テクノロジーズ DELL