TSMCとして知られる台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング(TSM)の株価が11月15日の米国市場で下落しました。この動きは、アリゾナ州にチップ工場を建設するTSMCに対し、米商務省が最大66億ドルの政府資金提供を行う可能性を発表したことに関連しています。同社の米国預託証券(ADR)は米国東部時間13時18分の段階で1.51%安の185.71ドルで取引されています。
米政府のチップ法とTSMCへの資金提供の背景
2022年、ジョー・バイデン大統領は「チップ・アンド・サイエンス法」に署名し、国内半導体製造を促進するための支援体制を構築しました。この法律のもと、390億ドルの助成金が予算化され、TSMCはその中から最大66億ドルを割り当てられる見通しです。しかし、2024年米大統領選挙においてドナルド・トランプ氏が再び当選する可能性が高まる中、同法への批判が再燃しています。トランプ氏は、政府支出を抑えつつ貿易関税で同等の効果を達成できると主張しており、TSMCを含む企業への助成金に懸念が広がっています。
商務省はバイデン政権下で予算の割り当てを急ぎ、年内にはTSMCが10億ドル以上を受け取る可能性が高いとされています。
アリゾナ州のチップ工場建設と経済的影響
TSMCがアリゾナ州フェニックス近郊で建設を進める生産拠点は、総投資額650億ドルに上る一大プロジェクトです。このプロジェクトにより、以下の経済的利益が期待されています:
- 製造業雇用:6,000人
- 建設業雇用:20,000人
- 間接雇用:10,000人以上
さらに、米政府はこの投資が米国史上最大の外国直接投資であると発表しました。建設中の3つの施設のうち最初の工場は2025年に稼働を予定しており、アメリカの半導体製造能力を大幅に強化する計画です。
株価下落の原因と米国内半導体設備投資の現状
15日の株価下落は、助成金に関する不確実性が影響した可能性があります。しかし、TSMCの株価は年初来80%近く上昇しており、長期的には堅調なパフォーマンスを維持しています。
他の主要半導体メーカーも米国内での生産拡大を進めています。例えば、インテル(INTC)は85億ドルの助成金と110億ドルの融資を受けてオハイオ州で大規模施設を建設中です。同様に、サムスン電子、SKハイニックス、マイクロン・テクノロジー(MU)なども米国内での生産を強化しています。
これらの動きは、台湾など地政学的リスクの高い地域への依存を低減し、米国のサプライチェーンの安全性を高める狙いがあります。
TSMCへの投資の重要ポイント
TSMCのような半導体大手への投資を検討する際には、以下の点を考慮することが重要です:
- 政府政策の影響
チップ法の助成金は企業にとって追い風ですが、政治的なリスクも伴います。特に2024年の大統領選挙は、半導体政策の方向性を大きく左右する可能性があります。 - 長期的な成長性
半導体需要は引き続き高まっており、AIやIoTの進展がさらなる市場拡大を後押ししています。TSMCは最先端技術を持つ業界リーダーであり、この分野での優位性を維持することが期待されています。 - グローバルな競争環境
インテルやサムスンなどの競合他社も米国での生産拡大を進めており、競争環境が激化しています。これにより、TSMCが持つ市場シェアの維持が課題となる可能性があります。
まとめ
TSMCのアリゾナ州工場建設は、米国内の半導体生産を強化し、地政学的リスクを軽減する重要なプロジェクトです。一方で、助成金に関する不確実性や競争環境の変化が株価に影響を与える可能性があります。
長期的な投資を検討する際には、TSMCが持つ技術的優位性や市場トレンドを考慮しつつ、政治リスクを慎重に評価することが求められます。最新の市場動向を注視しながら、理性的な投資判断を行うことが肝要です。
*過去記事 TSMC