エッジAI(人工知能)は現代のテクノロジー市場において新たなフロンティアとなっています。AIをデバイスの「エッジ」、つまりデータセンターやクラウドではなく、ユーザーが直接使用するデバイス上で動作させることが可能になる技術です。
これにより、スマートフォンや自動車、さらにはモノのインターネット(IoT)デバイスなどのエッジデバイスが、AIのパワーを直接活用できます。エヌビディア(NVDA)はこの分野で高い評価を得ていますが、今回は、その他の可能性を秘めたエッジAI企業をいくつか紹介します。
クアルコムとモバイル機器のAI
クアルコム(QCOM)は、モバイル機器向けプロセッサの圧倒的なプロバイダーであり、インターネットに接続されていないノートパソコンやスマートフォンでも、生成AIプログラムを実行できることを示しました。
例えば、グラフィックデザイナーが新しい企業ロゴを考えようとして、AIを搭載した画像生成ソフトを使ったとします。AIモデルはクラウド上で学習されたものですが、デザイナーは自分のアイデアをオフラインで維持したいと思うかもしれません。つまり、「推論」(学習したAIモデルを適用して結果を出すこと)が可能なチップをノートパソコンや携帯電話に搭載する必要があります。
クアルコムが最近マイクロソフト(MSFT)とともに発表したところでは、同社のSnapdragonチップは、AIモデルの能力の重要な指標である10億以上のパラメータを持つテキストから画像へのモデルを、Windowsデバイスだけで実行できるとのことで、今後数ヶ月のうちに、最大100億のパラメータを持つモデルをデバイス上で実行できるようになる見込みです。
サスケハナ・ファイナンシャル・グループのアナリスト、クリストファー・ローランド氏は「クアルコムは、少なくともモバイル側で(エッジAIを)リードしている」と述べ、クアルコム株を「買い」と評価し、目標株価を現在の株価より17%あまり高い135ドルとしています。
クアルコムの競合企業としては、台湾のメディアテックが挙げられます。メディアテックはエヌビディアのチップを自社のスマートフォン用プロセッサーに統合するとの報道があります。しかし、クアルコムがソフトウェア機能で優れているため、ローランド氏はクアルコムがメディアテックに対する優位性を保つと考えています。
モービルアイと自動車のAI
自動車の分野では、インテルのスピンオフ企業であるモービルアイ(MBLY)が注目を集めています。同社は車載用AIチップを提供し、エヌビディアやテスラ(TSLA)と競争しています。同社は先進運転支援システムで約70%の市場シェアを持つと言われています。
車載用AIチップの重要な要素のひとつは、演算能力です。Counterpoint Researchによると、自動車が自分で運転できるようにするには、1秒間に400兆回以上の演算(TOPS)を実行できることが必要になるそうです。
モービルアイの最新のEyeQ Ultraチップは176TOPSで、エヌビディアのDRIVE Orinは254TOPSだそうです。Thorと名付けられたエヌビディアの次のシステムの性能は2,000TOPSで、2025年に生産が開始される予定だと発表されています。
このようにエヌビディアが車載AIにおいてより多くの計算能力を持つようになりますが、モービルアイは、消費電力、ソフトウェア統合、拡張性など他の考慮事項のバランスを取るため、「TOPSの競争」は避ける方針であると述べています。
モービルアイの株価は今年に入ってから37%上昇し、45ドルに迫っていますが、一部のアナリストはまださらなる上昇の余地があると見ています。レイモンド・ジェームズは目標株価を50ドルとしており、モービルアイは先進運転支援システムの紛れもないマーケットリーダーになる予定であると主張しています。
ラティス・セミコンダクターとモノのインターネット
冷蔵庫からサーモスタットまで、あらゆる物理的なモノにコンピューティングを組み込む「モノのインターネット」が、家庭用・産業用を問わず拡大することで、何十億ものデバイスが接続されることになります。
ラティス・セミコンダクター(LSCC)はモノのインターネット(IoT)の領域で強みを持つ企業です。ラティスは低消費電力のプログラマブルチップを製造しており、このような製品はエネルギー効率を求める産業用顧客にとって魅力的です。
「エッジAIは、ラティスの低消費電力FPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ)が特に有利に働くと思われる新興トレンドだ」と、レイモンド・ジェームスのアナリストは最近のリサーチノートで書いています。
ラティスは最近売上見通しを上方修正し、長期的な売上成長率を従来の2桁台前半から年間15%〜20%に引き上げると発表しました。これは、AIトレンドと、こうした需要によりよく対応できるミッドレンジFGPAへの拡張が一因となっています。
ファクトセットの調査によると、ラティス・セミコンダクターに対するアナリストの平均評価は「オーバーウェイト」、目標価格は98.62ドルとなっています。ラティスの株価は今年に入ってから27%上昇し、81ドルあまりとなっています。
クラウドやエッジデバイス、その両方のハイブリッドでAIを駆動するチップへの需要は高まる一方です。成熟した市場と同様、多様化する可能性があり、投資家にとってチャンスが増えることを意味します。