厳しいマクロ経済環境と需要の急減速を理由に、予想を大幅に下回る10月期の売上見通しを示したエヌビディア(NVDA)。決算発表翌日の8月25日には予想に反して上昇しましたが、26日は米国市場全体が大きく下げるとともに下げ幅が加速し、1日で9.23%も下落してしまいました。これで年初来の下落幅は46%となっています。
決算発表の後、「今が底値」として買い推奨を行うアナリストもいますが(「エヌビディア 第2四半期決算へのアナリスト評価、「今が底値」と買い推奨も」、経済誌バロンズのコラム「テック・トレーダー」は、強気派はいくつもの重大なリスクを見落としており、すぐに業績が好転する見込みは薄いとして以下のリスクがあることを指摘しています。
暗号通貨のマイニングの問題
エヌビディアのゲーミングカードは主に、時価総額で第2位の暗号通貨であるイーサリアムのマイニングに利用されてきました。イーサリアムの価格の下落に伴い、今年に入ってからマイニング需要はすでに頭打ちとなっていますが、まだ大きな問題が控えていると同コラムは指摘しています。
イーサリアムは早ければ9月にも、いわゆるプルーフ・オブ・ワーク方式からプルーフ・オブ・ステーク方式に移行し、グラフィックカードを使ったマイニングの必要性がなくなると予想されています。
そうなれば、使われなくなった何十億ドルものエヌビディアカードが中古市場にあふれる可能性があります。ウェドブッシュは、過去1年半の同社の四半期売上のうち、イーサリアムのマイニングが8億ドル、合計約48億ドルを占めた可能性があると推定しています。
販売価格の下落
エヌビディアは過去数年間、暗号ブームによって同社のカードが1200ドルから2000ドルという高価格で売れるたことで高い収益性をあげてきましたが、暗号ブームの終焉によってそうした時代に終止符が打たれたかもしれないとテック・トレーダーは指摘しています。
暗号ブームがなくなったあとの需要の水準で考えるとゲーミングカードの価格は800ドル以下まで下がる可能性があり、エヌビディアの利益率に大きな打撃を与えることになると同コラムは予想しています。
ベテランの業界アナリストであるJon Peddie氏は、4月にバロンズのインタビューに対して、高価格帯のカードに対する需要はなくなり、エヌビディアの高めの価格設定は維持できない旨を強く主張していましたが、同氏には先見の明があったようだとテック・トレーダーは評しています。
AMDとの競争の激化
そのPeddie氏がもうひとつ主張していたのが、今年後半に予定されているアドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)の次世代グラフィックカードは、革新的な「チップレット」アーキテクチャのおかげで価格競争力が増し、シェアを拡大することになるだろうということです。
テック・トレーダーはこのAMDの新しいカードがゲームチェンジャーになるかもしれないと見ており、エヌビディアにとって今はまだあまり認識されていない最大のリスクになる可能性を指摘しています。
AMD は、コードネーム RDNA 3 と呼ばれる次期カードのラインアップで、前世代に比べてワットあたりのパフォーマンスが 50% 以上向上すると公言しています。より効率的な設計により、AMDはエヌビディアに対して製造コストの優位性を獲得することができます。
しかし、エヌビディアの四半期決算発表後に発表された半ダースあまりのアナリストのメモの中で、このAMDの脅威に言及したものとはひとつもなかったそうです。
エヌビディアの最高財務責任者であるコレット・クレス氏は、次世代カードにおけるAMDとの競争については、エヌビディアのカードはブランド力が高く、ゲームサービスで最も使用されているカードのランキングで上位を占めていることを指摘し、またゲームパブリッシャーとのパートナーシップとエヌビディアのより高度なソフトウェア機能も相まってライバルに打ち勝つことができるとの自信を見せています。
テック・トレーダーの執筆者であるTae Kim氏は、「クレス氏の指摘にも一理あるかもしれないが、AMDがエヌビディアからビジネスを奪うというPeddie氏の意見に私は同意する」と述べています。
Kim氏は、「価格性能比の高い製品が技術分野ではすべてだ」と述べ、4年前、市場を支配していたインテル(INTC)に対して、ワットあたりの性能で優れたサーバープロセッサを発売したAMDがシェアを奪った事例がゲームカードでも再現されるかもしれないと指摘しています。
現在でも割高な株価
テック・トレーダーが最後に指摘しているリスクが、今年に入って半分近く株価が下がったにもかかわらず、収益予想もまた暴落しているため、現在の水準でもエヌビディアの株価が割高に見えるということです。
エヌビディアは現在、1年後の1株当たり利益予想の48倍で取引されており、これは当面の間、マイナス成長が見込まれる企業としては破格の水準であると同コラムは指摘しています。
以上にあげたリスクを考慮すれば、エヌビディアの業績回復を楽観視するのは時期尚早であり、エヌビディアにとって、最悪の事態はまだまだ続きそうだとテック・トレーダーの記事は結ばれています。
*過去記事はこちら エヌビディアNVDA