アマゾン ワン・メディカル買収で不況に強い事業構造に

米国のプライマリーケア組織、ワン・メディカルを買収する契約を締結したと発表したアマゾン(AMZN)。「アマゾンがワン・メディカルを買収する契約を締結

39億ドルを支払う今回の買収は、2017年のホールフーズの137億ドルでの買収、3月に完了したMGMの85億ドルでの買収に続き、アマゾンにとって過去3番目の規模となります。

規制当局や法律家が、大手テック企業の取引が新たなカテゴリーに支配力を拡大することを恐れて精査するようになったため、MGMの買収の完了にはホールフーズの2カ月弱に対し、1年近くを要しています。

ただ、MGMの国内興行収入のシェアが2002年以降4%を超えておらず、これほどの時間をかけて精査することには無理がありました。同様にワン・メディカルの買収をしてもアマゾンのプライマリーケア業界におけるシェアが大きくアップすることはありません。ワン・メディカルの昨年の商業収入4億9300万ドルあまりであり、米国の商業保険のプライマリーケアに対する年間支出総額の1%未満だということです。

ワン・メディカルは、2007年に設立され、いわゆるコンシェルジュ・プライマリーケアに特化した会社です。年間契約料は199ドルで、24時間365日利用できる遠隔健康サービス、当日の予約、アプリを提供しています。同社は5月の時点で、米国内に188の拠点を持ち、75万人以上の会員を擁しています。

同社と契約すればバーチャル訪問が、いつでも可能となりますが、遠隔医療だけの会社とは異なり、ワン・メディカルは全国の医療機関のネットワークで対面診療も行っています。同社のアプリを使えば、予約を取ったり、医療従事者とチャットしたり、処方箋を依頼したりすることができます。

同社はプライマリーケアに重点を置き、実質的な待ち時間ゼロを誇っていますが、IPO申請時には行動医療への進出に関心を示していました。

ワン・メディカルは、親会社の1ライフ・ヘルスケアがティッカー「ONEM」で取引されており、2020年に上場しましたが、新規患者を集め、新しい場所や雇用に資金を投入したため現金を使い果たして赤字になり、最近は売りに出されているとの情報が流れていました。今月初め、ブルームバーグは、医療保険会社Aetnaを運営するCVSヘルス(CVS)が一時期同社の買収を検討していたと報じていました。

ですから、今回アマゾンが買い手となったのも当然の流れかもしれません。アマゾンは、過去4年ほどの間に、広範囲に及ぶヘルスケア事業を着実に築き上げてきました。2018年には、ミレニアル世代に優しいクリーンなユーザーフェイスも提示した薬物送達サービス「PillPack」を現金約10億ドルで買収しました。2020年半ばからはクロスカバー・ヘルスと共同で、プライマリーケアを提供する従業員ヘルスセンターを立ち上げており、現在、従業員や他の雇用主に対してアマゾン・ケアを提供しています。

JMPのアナリストは、「ワン・メディカルは短期的には売上に大きく貢献しないが、AMZNは患者とのタッチポイントが増え、特に予防的、反応的な医療判断がなされる初期の段階で、より多くのタッチポイントを提供することになる」と分析しています。

また、この買収により、アマゾンはサービスをバンドルする新たな選択肢を得ることになります。ウォール街のアナリストによると、アマゾン・ケアにワン・メディカルのサービスが含まれる場合、最終的にはアマゾン・プライムの会員にも提供されるサービスになることが予想されるそうです。

バーンスタインのアナリストは、「アマゾンの視点からは、この取引には3つの要素がある。オンライン薬局とのクロスセリングの相乗効果、さらなる実店舗の提供、そして雇用主に対するB2Bの提供の可能性である。また、これはプライムバンドルの別の要素になると想定している」と述べています。

とは言え、ワン・メディカルの事業規模はアマゾンの他の部門と比べると微々たるものです。例えば、アマゾン・ウエブ・サービスは第1四半期に184億ドルの売上高をあげていますが、ワン・メディカルの第1四半期の売上は2億5400万ドルあまりに過ぎません。

また、同業他社と比べてもワン・メディカルの存在は小さなものです。遠隔医療大手のテラドック・ヘルス(TDOC)の第1四半期の売上高は5億6500万ドルを超えており、米国で5400万人以上の会員数を誇り、海外にも進出しています。

このように、買収がスムーズに承認されたとしてもアマゾンの業績にすぐにインパクトを与える即効性のある買収となる可能性はありません。ただ、長期的に見れば、この買収は今のアマゾンの欠点を補ってくれる事業を育て上げることに貢献してくれるかもしれません。

今、アマゾンを悩ましているのは、祖業であるeコマースがインフレ率の上昇やサプライチェーンの問題を抱えていることにより、会社全体の営業キャッシュフローや営業利益が悪化していることです。しかし、インフレ率の上昇やその他の経済的な問題は、通常、ヘルスケア企業にはあまり影響を与えません。

景気が悪くなると、人々は様々な分野で支出を削減しようとしますが、診療予約や処方薬といった医療費に関しては、その選択の対象にはなりにくいと考えられます。強力なヘルスケア事業があれば、景気後退時にアマゾンの業績を支えることができると予想されます。

アマゾンがヘルスケアの世界でどれほどの存在感を示すか、あるいは成功するかどうか、正確に予測するのは時期尚早ですが、不況時にも強い事業を育てあげることにつながるという長期的な観点から、今回の買収は将来大きな意味を持つかもしれません。

*過去記事はこちら アマゾン AMZN

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