5月下旬、Insiderが、アマゾン(AMZN)がホールフーズの食料品店に小売薬局を開設することを検討しているという記事を掲載しました。
市場の反応は過敏で、数分後、CVSヘルス(CVS)、ライト・エイド(RAD)、ウォルグリーン・ブーツ・アライアンス(WBA)の株価は3%から4%下落、薬局関連銘柄の時価総額から60億ドル以上が消えました。多くのアナリストは、この下落は市場の過剰反応であると考えていますが、アマゾンという企業がいかに巨大な力を持っているかを示すエピソードです。
薬局だけがアマゾンが進出を考えているヘルスケア分野ではありません。アマゾンには、自社のビジネスに役立つ機能を構築してから、顧客に同じ機能を提供するという長い歴史がありますが、最近発表した「アマゾン・ケア」というサービスで、この手法を採用しています。
このサービスでアマゾンは、130万人の従業員にオンサイトおよびバーチャルのヘルスケアを提供します。自社のテクノロジーとオペレーションの専門知識を活用して、複雑なヘルスケアプロセスを合理化するとともに、医療サービスについてはクロスオーバー・ヘルスなどのヘルスケアプロバイダーと提携しています。
さらに3月、アマゾンはこのサービスを全米の一般企業に向けて展開することを発表しました。アマゾンのスケールメリットを享受できることで、一般企業はこのサービスに魅力を感じるかもしれません。
バーチャル・ケア・サービスに続くものとして、アマゾンはプライムやマーケットプレイスのサービスを利用して、ヘルスケア市場の物理的な部分にも、より良いサービス、価格、透明性をもたらすことができると見られます。
例えば、米国では年間4,000万件以上のMRI検査が行われていますが、その価格は600ドルから4,000ドルに及ぶ地域もあります。医療機関は、AmazonマーケットプレイスにMRIサービスを出品し、透明性の高い価格、ユーザーレビュー、便利なスケジュール管理、ワンクリックでの支払いサービスを提供することが考えられます。
アマゾンは、プライム会員に無料のビデオ相談や専門家によるセカンドオピニオンをバンドルすることもできます。このようなサービスは、便利で透明性が高く、満足度の高いものとなるでしょう。アマゾンが手がけることによってコンシューマー・ヘルスケアのサービス内容の拡充が期待できます。
最近発表されたAmazon Web Services(AWS)の製品も、ヘルスケア業界の顧客の人工知能(AI)プロジェクトを支援する上で、アマゾンを成功に導くかもしれません。
例えば、手術にAIモデルを使用することで、特定の手術のコストと合併症を40%~50%削減できる可能性があります。AWSのサービスは、一般的なヘルスケアAIプロジェクトの予算の80%を占めるAIデータの準備とモデル開発の時間とコストを劇的に削減することができます。
ヘルスケア業界では、プライバシー、セキュリティ、データの権利に関する懸念から、クラウドサービスの導入が遅れています。アマゾンは、価値の高いAIサービスを追加することで、臨床プロセスとビジネスプロセスの両方をコスト効率よく変革することを支援し、ヘルスケア企業にとって好ましいクラウドテクノロジーパートナーとなることができます。
今後アマゾンが1.6兆ドルという巨大な時価総額をどうやって増やしていくのかと考えている投資家にとって、4兆ドル規模のヘルスケア業界は一つの答えを提供してくれます。中長期的な観点からアマゾンをポートフォリオに加えている(ないしは加えようとしている)投資家にとってヘルスケアへの進出はアマゾンを保有する大きなインセンティブになりそうです。