AIブームの火付け役となり、市場を独占してきたエヌビディア(NVDA)。しかし、最新の市場動向を見ると、その勢力図に変化の兆しが見え始めています。今回は、バロンズ紙の最新レポートに基づき、アルファベット(GOOGL)の独自チップ戦略が今後のAI市場、そして株価にどのような影響を与えるのかを分析します。
市場は「脱エヌビディア」の可能性を織り込み始めたか
まず注目すべきは、直近の株価の動きです。グーグルが最新AIモデル「Gemini 3」をリリースした11月18日以降、アルファベットの株価は12%上昇しました。対照的に、王者のエヌビディアの株価は同期間に3.4%下落しています。
これは単なる一時的な調整ではない可能性があります。市場は、Gemini 3が高い評価を得ていることだけでなく、その裏にある「グーグルのインフラ自立」を好感していると分析できます。エヌビディアのGPU不足と高価格に悩まされる他社とは異なり、グーグルは自社製チップ「TPU(Tensor Processing Units)」でGemini 3をトレーニングしました。
アルファベットの時価総額は3.86兆ドルに達し、世界3位の座を固めています。1位のエヌビディア(4.38兆ドル)との差はまだありますが、投資家の関心は明らかに「エヌビディアの次」を探すフェーズから、「エヌビディアに対抗できる企業」を再評価するフェーズに移っています。
TPUのエコシステム拡大:アップルもメタも?
これまでグーグルのTPUは、主に自社サービス(マップ、フォト、翻訳など)のために使われる「内部用ツール」という印象が強かったかもしれません。しかし、その認識は改める必要があります。
記事の事実情報によると、現在グーグルは第7世代のTPUを運用しており、その顧客基盤は劇的に進化しています。
- アップル(AAPL):自社のAIモデル「Apple Intelligence」のトレーニングにTPUを採用。
- アンソロピック:評価額3,500億ドルのAIスタートアップが、マルチクラウド戦略の一環としてTPUを採用。
- メタ・プラットフォームズ(META):AIデータセンター用にTPUを購入する協議を行っているとの報道(The Information)。
特にメタやアップルといったテック巨人が、エヌビディアのGPUだけでなくグーグルのTPUを選択肢に入れている点は極めて重要です。これは、TPUがもはや「代替品」ではなく、コスト対効果に優れた「実用的な選択肢」として市場に認知されたことを意味します。この流れは、TPUの設計を支援しているブロードコム(AVGO)にとっても強い追い風となります。
歴史は繰り返すか?インテルの凋落から学ぶ教訓
エヌビディアの現在の強さは圧倒的です。データセンター市場で80%以上のシェアを持ち、粗利益率は驚異の73%に達しています。しかし、この「高すぎる利益率」こそが、競争を招く最大の要因です。
かつてデータセンター市場の65%(2021年Q1時点)を支配していたインテル(INTC)が、わずか数年でシェアを1桁台にまで落とし、エヌビディアにその座を奪われた歴史を忘れてはいけません。技術の世界では、支配的なプレイヤーであっても、より効率的で安価なソリューションが登場すれば、その地位は安泰ではありません。
顧客企業にとって、特定の1社(エヌビディア)にインフラを依存することは経営リスクです。アンソロピックがアマゾン・ドット・コム(AMZN)のTrainium、グーグルのTPU、エヌビディアのGPUを併用しているように、今後は「チップベンダーの分散」が業界標準になっていくと考えられます。
結論:投資家が注目すべきシグナル
グーグルは、自社のAIモデル(Gemini)と、それを動かすハードウェア(TPU)の両方を持つ稀有な企業です。これまではエヌビディアの独壇場だったAIインフラ市場において、グーグルが本格的な競争相手として浮上してきたことは間違いありません。
今後の投資判断において、注視すべきはエヌビディアの粗利益率です。もし73%という高い水準が崩れ始めたら、それはグーグルやアマゾン・ドット・コムなどの独自チップとの価格競争が激化し、エヌビディアの「価格決定権」が弱まっているシグナルとなります。
現時点では、2004年から構築されたエヌビディアのソフトウェア基盤「CUDA」の壁は厚いですが、ハードウェア面での包囲網は着実に狭まっています。アルファベットは、AIサービスの成長とインフラコストの抑制を両立できる銘柄として、長期的に有利なポジションにいると言えます。
出典・参考文献 この記事は、Barron’sの以下の記事に掲載された事実情報を基に作成・分析されました。
- Title: “TPUs Take AI Trade By Storm. What to Know About Google’s AI Chip.”
- Author: Adam Levine
- Date: Nov 28, 2025
※本記事は情報の提供を目的としており、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資は自己責任で行ってください。
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