オラクル(ORCL)の株価が軟調です。9月の最高値から時価総額にして約4,000億ドルが吹き飛び、足元では196ドル近辺と6月以来の安値水準まで売り込まれています。
ハイテク株ブームの中で、なぜオラクルだけがこれほど厳しい評価を受けているのでしょうか。その背景にあるのは、同社の将来収益構造が抱える「歪み」とも言える極端な集中リスクです。今回は、最新の報道とデータを基に、オラクルの現状と投資妙味について分析します。
驚異のRPOと「オープンAI依存」の正体
オラクルへの投資判断をする上で最も重要な情報は、同社が発表した「残存履行義務(RPO)」の内訳です。RPOは将来の売上を予測する先行指標ですが、発表された4,550億ドルという巨額のRPOのうち、実に3,000億ドルがオープンAI一社からのコミットメントによるものです。
これは分析するまでもなく、極めてリスキーな構造です。将来の成長エンジンの約66%を、たった一社のスタートアップ(たとえそれがAIの覇者であっても)に依存していることになります。市場がこの数字を見て、「オラクルはオープンAIと一連托生(心中)する気か?」と懸念を抱くのは当然の反応と言えます。
「先行投資」という名のキャッシュ流出
この巨大な需要に応えるため、オラクルは現在、猛烈な勢いでインフラ投資を行っています。
まず、マイナスのキャッシュフローという問題があります。エヌビディア(NVDA)製プロセッサを搭載したインフラ構築のため、今年と来年のキャッシュフローはマイナスになる見通しです。
次に、債務コストの上昇です。債券市場はこのリスクを敏感に察知しています。オラクルのCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)は約119ベーシスポイントまで上昇し、数年ぶりの高水準となりました。これは債務不履行リスクに対する保険料が上がっていることを意味し、債券投資家が「以前よりもオラクルにお金を貸すのは危険だ」と判断している証拠です。
つまり、オラクルは「将来オープンAIが確実に3,000億ドルを払ってくれる」という前提で、今、借金をして設備を買っているわけです。
アナリストの見解:強気と弱気の真っ二つ
この状況をどう評価するか、ウォール街でも見方は割れています。
慎重派の視点として、D.A.デビッドソンのアナリスト、ギル・ルリア氏は、債権者としてのオラクルの立ち位置を冷静に分析しています。もしオープンAIの経営が傾いた場合、債権回収の優先順位においてオラクルはマイクロソフト(MSFT)やアマゾン(AMZN)の後塵を拝することになります。ただし、コアウィーブ(CRWV)よりは先順位になると指摘しています。 最悪のシナリオ(オープンAIの破綻)だけでなく、「期待値のリセット(規模縮小)」が起きただけでも、過剰な設備投資が重荷となるリスクがあります。現在の株価下落は、このシナリオを織り込みにいっている動きと考えられます。
一方で、HSBCのアナリスト、スティーブン・バーシー氏は極めて強気です。目標株価を382ドルに設定しており、現在の水準から見て「株価倍増」の余地があると見ています。 同氏の根拠は、市場がリスクを過剰に織り込みすぎているという点です。オラクルがこの賭けに勝ち、計画通りにデータセンター事業を拡大できれば、現在の株価は割安な水準であるという見立てです。
結論:投資家はどう動くべきか
オラクルへの投資は現在、伝統的な「安定したSaaS企業への投資」ではなく、「オープンAIの成功に対するレバレッジ(借入)付きの賭け」に変貌しています。
もしオープンAIが今後もAI界のトップを走り続け、約束通り3,000億ドルを支払うなら、株価382ドルという強気シナリオは現実味を帯びます。逆に、AIバブルが弾ければ、巨額の負債と過剰設備が残ります。
個人的な分析としては、現在の株価下落によって、リスクの大部分はすでに価格に織り込まれつつあると感じます。しかし、キャッシュフローがマイナスである期間は株価のボラティリティ(変動)が激しくなることが予想されます。短期的な反発狙いよりも、オープンAIの動向とAIインフラ需要の持続性を信じられる投資家にとってのみ、今の急落局面はエントリーの好機となる可能性があります。
情報源: Based on facts extracted from: “3 Ways Oracle’s OpenAI Deal Could Play Out. Only 1 Looks Good for the Stock.” by Martin Baccardax, Barron’s, Updated Nov 25, 2025.
※本記事は情報の提供を目的としており、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資は自己責任で行ってください。
*過去記事「オラクル株が急落 AIクラウド成長見通しに市場が複雑な反応」
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