アルファベットがエヌビディアに“宣戦布告” TPUオンプレ進出でAI半導体覇権争いが激変へ

AI半導体市場において、長らく「絶対王者」として君臨してきたエヌビディア(NVDA)に対し、アルファベット(GOOGL)がこれまでにない踏み込んだ戦略で勝負を挑み始めました。

2025年11月24日にThe Informationが報じた内容は、単なる新製品の発表ではなく、アルファベットのビジネスモデルそのものの転換を示唆しています。本記事では、最新の報道事実に基づき、アルファベットの新たな戦略が市場に与えるインパクトと、その将来性を分析します。

1. 「囲い込み」からの脱却:オンプレミス市場への進出

これまでアルファベットのAIチップ「TPU」は、原則として同社のクラウド上でのみ利用可能なレンタル品でした。しかし、今回の報道で明らかになった最大の転換点は、「TPU@Premises」と呼ばれるプログラムの存在です。

【事実情報】

  • アルファベットは、顧客企業の自社データセンター(オンプレミス)でTPUを使用可能にする提案を行っている。
  • メタ・プラットフォームズ(META)に対し、2027年に自社データセンターへTPUを導入するよう協議しており、その規模は数十億ドルに達する可能性がある。

【分析】 これはアルファベットが「クラウド事業者」から「半導体ベンダー」としての性質を強めようとしていることを意味します。 これまで企業がTPUを使いたければ、データをアルファベットのクラウドに預ける必要がありました。しかし、セキュリティやレイテンシの観点から自社サーバー(オンプレミス)での運用を望む金融機関や大手テック企業であるメタなどにとって、この制約は導入の障壁となっていました。 アルファベットがこの「聖域」を開放し、エヌビディアと同じ土俵(顧客のデータセンター内)でハードウェアを直接競わせる決断をしたことは、シェア獲得に対する強烈な本気度の表れと言えます。

2. 「学習」用途での採用が意味する技術的成熟

AI開発において、推論(Inference)よりも圧倒的に高い計算能力と複雑な連携が求められるのが「学習(Training)」フェーズです。ここは長年、エヌビディアのGPUが独占してきた領域です。

【事実情報】

  • メタ・は、既存モデルの推論だけでなく、新規AIモデルの「学習(Training)」にもTPUの使用を検討している。
  • 最新モデル「Gemini 3」のリリースと高評価が、技術的な裏付けとなっている。
  • アルファベットは「TPUコマンドセンター」というソフトウェアを開発し、エヌビディアの牙城であるソフトウェア基盤(CUDA)に対抗しようとしている。

【分析】 もしメタのような巨大AI企業が、最重要プロセスである「学習」にTPUを採用すれば、業界の勢力図は劇的に変わります。「学習はエヌビディア、推論はその他」というこれまでの常識が崩れるからです。 また、PyTorchとの連携や新ソフトウェアの投入は、開発者がエヌビディアのエコシステム(CUDA)から移行する際の「スイッチングコスト」を下げる狙いがあります。ハードウェアの性能だけでなく、使いやすさというソフトウェア面でもエヌビディアの堀を埋めようとしている点は、アルファベットの勝算を高める重要な要素です。

3. バランスシートを使った強引なシェア拡大策

技術力だけでなく、アルファベットはその巨大な資金力を武器に、なりふり構わぬ市場攻略に乗り出しています。

【事実情報】

  • ロンドンのクラウド事業者フルイドスタックに対し、データセンターのリース費用を賄えない場合に最大32億ドルを肩代わりする(バックストップ)契約を結んだ。
  • アルファベットのクラウド部門幹部は、TPU事業でエヌビディアの年間収益の10%奪取を目標に掲げている。

【分析】 32億ドルもの債務保証(バックストップ)は、通常の商品販売では考えられない異例の条件です。これは、アルファベットが短期的な利益率を犠牲にしてでも、強引にTPUのインストールベース(設置台数)を増やそうとしていることを示唆しています。 エヌビディアの収益の10%といえば、数兆円規模の売上に相当します。アルファベットが金融的なリスクを取ってまでこの目標を追う姿勢は、AIインフラ市場における「エヌビディア一強」のリスクをヘッジしたい顧客企業のニーズと合致し、予想以上のスピードでシェアを拡大させる可能性があります。

4. エヌビディアの反応が証明する「脅威」の大きさ

アルファベットの動きが単なる実験ではない最大の証拠は、競合であるエヌビディアの反応にあります。

【事実情報】

  • アルファベットがアンソロピックやオープンAIとTPU契約を結ぶ動きを見せると、即座にエヌビディアCEOのジェンスン・フアン氏はそれらの企業へ巨額の投資(オープンAIへの最大1000億ドルの暫定契約など)や支援を発表した。

【分析】 王者は、脅威でない相手には反応しません。エヌビディアが主要なAIスタートアップに対して巨額の資金提供を行っているのは、彼らをエヌビディアのエコシステムに繋ぎ止めておくための防衛策と見ることができます。 エヌビディアがこれほど敏感に反応しているという事実こそが、アルファベットのTPU戦略(特に第7世代TPUやオンプレミス展開)が、エヌビディアの支配力を揺るがすポテンシャルを持っていることの何よりの証明だと考えられます。

結論

アルファベットの新しい戦略は、クラウドの枠を超え、ハードウェアと金融力を組み合わせた総力戦の様相を呈しています。メタとの数十億ドル規模の交渉が成立すれば、それは「エヌビディアの独占時代の終わり」の始まりを告げる合図となるかもしれません。


情報源:

  • The Information:”Google Further Encroaches on Nvidia’s Turf With New AI Chip Push” (2025年11月24日)

※本記事は情報の提供を目的としており、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資は自己責任で行ってください。

*過去記事 アルファベット GOOGL

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