2025年11月24日、テスラ(TSLA)株は久しぶりに力強い動きを見せました。市場全体がリバウンドする中、テスラは日中取引で7.1%高の419ドルまで急伸し、時価総額は約1.3兆ドルに達しました。
11月に入り一時14%超の下落に見舞われるなど、軟調な展開が続いていた同社株ですが、今回の反発のトリガーとなったのはイーロン・マスク氏による「AIチップ事業」への言及です。
今回は、バロンズの記事が伝えた事実情報を基に、テスラが描く「AIインフラ企業」としての将来性と、現在のバリュエーションが示唆する投資判断について分析します。
「隠れた半導体企業」としてのテスラ
多くの投資家はテスラをEVメーカー、あるいはロボタクシー企業として見ていますが、マスク氏の発言は別の側面を強調しました。
事実としての強み:
- テスラはすでに数百万個のAIチップを自社車載およびデータセンターに配備済み。
- 次世代チップ「AI5」は完成間近で、「AI6」の開発も始動している。
- 12ヶ月ごとに新チップを量産するという、シリコンバレーのチップメーカー並みの開発サイクルを掲げている。
ここから読み取れるのは、テスラがエヌビディア(NVDA)への依存度を下げ、アップル(AAPL)のような「完全な垂直統合」を目指しているという明確な意思です。 他社がAI学習のためにエヌビディア製GPUの争奪戦を繰り広げる中、テスラは推論と学習の両面で自社製チップへの移行を進めています。D.A.デビッドソンのアナリスト、ギル・ルリア氏が「アルファベット(GOOGL)の社内設計チップには数千億ドルの価値がある」と指摘するように、テスラ内部にも、貸借対照表には表れない巨大な「半導体部門」が存在することになります。
チップを内製化することで、テスラはハードウェア(車・ロボット)とソフトウェア(FSD)の統合を極限まで最適化でき、コスト競争力においても他社に対して構造的な優位性を築く可能性があります。
PER177倍は「バブル」か「先行投資」か
テスラの株価を伝統的な自動車メーカーの尺度で測ることは、もはや不可能と言えます。
バリュエーションの現状:
- 現在、テスラ株は2026年予想収益の177倍(PER)で取引されている。
- メリウス・リサーチのアナリスト、ロブ・ウェルトハイマー氏は目標株価を525ドルに設定し「買い」を推奨。
PER177倍という数字は、自動車販売の成長だけでは説明がつきません。市場は明らかに、テスラをエヌビディア(時価総額4.4兆ドル)のような「AIプラットフォーマー」として評価し始めています。
もしテスラが、自社設計のAIチップを用いて完全自動運転(FSD)や人型ロボット「オプティマス」を実用化レベルまで引き上げ、さらにその計算資源を外部へサービスとして提供できるなら、現在の時価総額1.3兆ドルは、AIインフラ企業としての入り口に過ぎない可能性があります。 アナリストが強気の目標株価(525ドル)を維持しているのも、単なる車両販売台数ではなく、この「AIによる付加価値の爆発的増大」を織り込んでいるからだと推察されます。
今後の注目点:開発スピードと人材獲得
マスク氏は今回の発表に合わせ、AI人材に対して異例の「直接メール募集(AI_Chips@Tesla.com)」を行いました。
「12ヶ月ごとの新チップ量産」という目標は極めて野心的です。半導体業界のムーアの法則を超えるスピードを自社単独で維持しようとしており、これには優秀な人材の確保が不可欠です。 投資家としては、今後数四半期において、以下の点が検証ポイントとなります。
- 「AI5」「AI6」チップがスケジュール通りに投入され、FSDの性能向上に直結するか。
- AIチップ開発コストが利益率を圧迫せず、将来のキャッシュフロー源泉(ロボタクシー等)につながる道筋が見えるか。
結論
今回の急騰は、テスラが単なる「EVの会社」ではなく、「AIを物理世界に実装するためのチップとハードウェアを持つテクノロジー・コングロマリット」であるという再認識によるものです。 短期的にはボラティリティが高い展開が予想されますが、長期的な視点では、自社チップという「心臓部」を握ったテスラの競争優位性は、AI時代において極めて強固な堀(Moat)となる可能性があります。
情報ソース: Tesla Stock Pops as Musk Talks Up Its AI Chips Business (Barron’s, Updated Nov 24, 2025)
※本記事は情報の提供を目的としており、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資は自己責任で行ってください。
*過去記事はこちら テスラ TSLA
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