2025年11月24日、レアアース(希土類)生産大手であるMPマテリアルズ(MP)の株価が前日比6.8%上昇し、59.04ドルで取引を終えました。市場全体(S&P500)の上昇率が1.6%であったことを考えると、この日は特に強い動きを見せたと言えます。
直近1ヶ月で株価が22%も下落するなど、ボラティリティの高さが目立つ同社ですが、今回のアナリストによる投資判断引き上げ(「ホールド」から「買い」)をきっかけに、改めてその将来性を分析してみると、単なる「反発狙い」以上の強固な投資根拠が見えてきます。
「価格下限」と「顧客保証」による鉄壁の守り
MPマテリアルズを分析する上で最も重要なのは、同社が単なる一民間企業ではなく、米国の安全保障政策に深く組み込まれているという点です。
事実として、世界のレアアース処理能力の約85%は中国が握っています。10月初旬に中国が輸出規制を示唆した際にMPマテリアルズの株価が100ドルを超えたことからも分かる通り、同社の価値は「中国リスク」と表裏一体です。しかし、米中通商交渉の進展で株価が急落(直近1ヶ月でマイナス22%)した現状は、市場が近視眼的になっていると考えられます。
なぜなら、米国防総省(DoD)との契約(7月発表)が、強力な「セーフティネット」として機能しているからです。 この契約には、以下の驚くべき条項が含まれています。
- レアアース材料の「価格下限」設定:市況が悪化しても、一定の収益性が保証される。
- 磁石の「購入保証」:現在構築中の製造能力に対し、最初から確実な顧客がついている。
つまり、MPマテリアルズは、コモディティ企業最大のリスクである「市況悪化」と「需要不足」のリスクを、政府の支援によって大幅に軽減されているのです。この構造的優位性は、短期的な米中関係の雪解けムードでも揺らぐことはありません。
「資本を使わない」サウジでの高効率な拡大戦略
さらに注目すべきは、先週発表されたサウジアラビアでの合弁事業(JV)です。 このプロジェクトには、MPマテリアルズ、米国防総省、そしてサウジの鉱業大手マアデンが参加していますが、特筆すべきはその契約形態です。
- MPマテリアルズは資本を提供しない
- 提供するのは「専門知識(ノウハウ)」のみ
これは、同社にとって極めて資本効率の良い(ROICを高める)拡大戦略です。通常、鉱山や精製施設の開発には巨額の設備投資(CAPEX)とリスクが伴います。しかし、同社はこのリスクを負うことなく、自社の技術力をテコにして中東という新たな拠点を手に入れようとしています。
これは同社が単なる「採掘業者」から、レアアース精製の「技術プロバイダー」へと進化しつつあることを示唆しており、長期的にはバリュエーションの切り上げ(マルチプル・エクスパンション)要因になり得ます。
アナリスト評価とバリュエーションの乖離
現在、MPマテリアルズ株をカバーするアナリストの88%が「買い」と評価しています。S&P500採用銘柄の平均が約55%であることを考慮すると、プロの投資家からの信頼は極めて厚いと言えます。
- 現在株価:59.04ドル
- 平均目標株価:約79ドル(約40%の上昇余地)
- BMOキャピタルの目標株価:75ドル(今回76ドルから微修正されたが、依然として高水準)
年初来で株価は250%以上上昇していますが、直近の調整局面(マイナス22%)は、過熱感が冷めた絶好の押し目であると考えられます。目標株価の引き下げ自体はネガティブに見えますが、投資判断が「ホールド」から「買い」へ引き上げられたという事実は、現在のアナリストが「今の株価なら明らかに割安」と判断していることの裏返しと言えます。
結論
MPマテリアルズは、米中対立という地政学リスクに翻弄されやすい銘柄ですが、その事業基盤は「米国防総省によるバックアップ」と「資本効率の良い海外展開」によって、かつてないほど強固になっています。
短期的なニュースで株価が乱高下する今の局面こそ、国策に守られた同社の長期的成長ストーリーに乗るチャンスかもしれません。
情報源: Barron’s – “MP Materials Stock Upgraded, Price Target Cut. What It Says About Rare-Earths Plays.” (Updated Nov 24, 2025)
※本記事は情報の提供を目的としており、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資は自己責任で行ってください。
*過去記事「米国GDPの92%がAI依存…その裏で高まる「レアアース危機」とMPマテリアルズの重要性」
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