スターリンク急成長でも地上キャリアが消えない理由:最新データで読み解く通信の未来図

  • 2025年11月24日
  • 2025年11月24日
  • BS余話

「衛星インターネットが普及すれば、地上の携帯キャリアは不要になるのではないか?」

スターリンクASTスペースモバイル(ASTS)といった宇宙関連企業の躍進を目の当たりにし、このような懸念を抱く投資家も少なくありません。しかし、最新の市場動向と企業の戦略を深く分析すると、そこには「対立」ではなく、互いの弱点を補い合う強固な「共存関係」が浮かび上がってきます。

今回は、2025年11月22日のマーケットウォッチの記事情報を基に、なぜ衛星通信が既存キャリアにとって「脅威」ではなく「追い風」となり得るのか、その将来性を分析します。

「空白地帯」を埋めるための必然的な提携

まず注目すべき点は、既存の通信キャリアが、衛星通信企業を排除するのではなく、積極的にパートナーとして迎え入れているという事実です。

具体的には、TモバイルUS(TMUS)スペースXと2022年から提携しており、2025年7月にはすでに商用サービスを開始しています。また、ASTスペースモバイルもベライゾン・コミュニケーションズ(VZ)に対し、2026年にサービスを提供する計画を進めています。

なぜこれほど提携が進むのでしょうか。最大の理由は、地上の基地局だけではカバーしきれない物理的な限界にあります。米国には依然として約50万平方マイルもの「地上波が届かないエリア」が存在しています。

通信キャリアにとって、こうした過疎地や山間部に基地局を建設するのは採算が合いません。しかし、衛星通信を使えばインフラ投資をせずにエリアを「100%」に近づけることができます。つまり、衛星企業との提携は、既存キャリアにとって「コストをかけずにサービス品質を向上させる」ための合理的かつ戦略的な選択であるといえます。

コストと品質の壁:衛星は「代替」ではなく「プレミアム」

「それでも将来的に、すべての通信が衛星に置き換わるのでは?」という疑問に対しては、コストと品質の観点からその可能性は低いと考えられます。

現状のファクトとして、衛星サービスの利用コストは地上通信と比較して、欧米では2〜3倍、新興国では最大5倍にもなるとされています。また、通信速度や安定性(レイテンシ)において、光ファイバーや地上の5Gネットワークは依然として優位です。

このことから、投資家が描くべきシナリオは「衛星が地上の回線を駆逐する」という破壊的なものではなく、「地上の回線をメインとしつつ、衛星をプレミアムなオプションとして追加する」というハイブリッドなモデルであると予想されます。

実際、TモバイルUSはスターリンクの利用料として月額10ドルを課金するモデルを採用しています。これは、既存キャリアにとってARPU(ユーザー平均単価)を押し上げる新たな収益源となる可能性があります。

規制と参入障壁:衛星企業がキャリアを必要とする理由

逆に、スターリンクやASTスペースモバイルといった衛星側にとっても、既存キャリアと組むメリットは絶大です。通信事業は国ごとに複雑な規制やライセンスが存在し、これを一社単独でクリアしていくのは膨大な時間とコストがかかります。

既存キャリアと提携することで、衛星企業は「規制のクリア」と「顧客基盤へのアクセス」を一挙に獲得できます。スターリンクはすでに世界で800万人以上の加入者を持っていますが、さらなる拡大には既存キャリアの巨大な顧客ベースへのアクセスが不可欠です。

特にASTスペースモバイルは、12月に低軌道(LEO)最大規模のアンテナを打ち上げ、既存のスマホに直接通信する技術を強みとしていますが、これもベライゾンなどのパートナーがいるからこそ、スムーズな収益化が見込めると考えられます。

今後の投資視点

バンク・オブ・アメリカの試算によれば、低軌道衛星市場のTAM(獲得可能な最大市場規模)は約2,000億ドルに達するとされています。

この巨大市場における勝者は、「単独で世界を変えようとする企業」ではなく、「地上と宇宙のネットワークを最も効率よく融合させた陣営」になる可能性が高いです。

  • 既存キャリア:衛星オプションによる付加価値向上と、解約率の低下が期待できます。
  • 衛星企業:技術の確立とともに、いかに多くのキャリアと提携し、規制の壁を越えていけるかが鍵となります。

スペースXがエコスター(SATS)から約200億ドルの周波数帯を購入するなど、独自の動きも見せてはいますが、当面の間、市場のメインストリームは「対立」ではなく「協調」による成長となると予想されます。


情報ソース: MarketWatch: “AST SpaceMobile and Starlink may prove friend, not foe, to these wireless stocks” (Nov. 22, 2025)

※本記事は情報の提供を目的としており、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資は自己責任で行ってください。

*過去記事「宇宙株ASTスペースモバイルに急ブレーキ バークレイズが異例のダブル格下げ

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