米国市場では時折、決算の数字自体は小さいにもかかわらず、株価が大きく反応する銘柄が現れます。 バロンズの11月17日の報道によると、量子コンピューティング企業のクォンタム・コンピューティング (QUBT)がまさにその典型的な動きを見せました。
今回は、このニュースを題材に、まだ黎明期である量子コンピュータ銘柄をどのように評価すべきか、投資家の視点から整理・解説します。
ニュースの概要:数字の「中身」を見る
報道および公開された決算データによると、クォンタム・コンピューティングの第3四半期の主な数字は以下の通りです。
- 売上高: 38万4,000ドル(前年同期比 約3.8倍)
- 純利益: 240万ドル(前年同期は570万ドルの赤字)
- 営業費用: 1,050万ドル(前年同期の約2倍)
一見すると「黒字転換」はポジティブな材料に見えますが、中身の精査が必要です。 純利益がプラスになった主な要因は、デリバティブ負債の評価益(920万ドル)という会計上の特殊要因によるものです。本業の儲けを示す営業ベースでは、研究開発費がかさんでおり、依然としてコストが先行している状態にあることは留意すべき点です。
なぜ市場は「買い」と判断したのか?
本業がまだこれからという段階で、なぜ株価は報道後に一時13%近くも上昇したのでしょうか。 バロンズの記事でも触れられている「進歩の兆し」について、具体的な投資家心理を分解すると、以下の2点に集約されると考えられます。
① 「PoC(概念実証)」から「商用化」への第一歩 今回、同社は「米国のトップ5に入る銀行」からサイバーセキュリティソリューションの受注を獲得しました。 量子コンピュータ銘柄にとって最大の壁は「技術的な優位性」よりも「商用化の実現性」にあります。たとえ規模は小さくても、金融大手から「発注書(Purchase Order)」が出たという事実は、実験室からビジネスの世界へ一歩踏み出した証明(Proof)として好感された可能性があります。
② 売上の「伸び率」への期待 売上絶対額の38万ドルは、上場企業としては極めて小規模です。しかし、前年同期の10万ドル、前四半期の6万ドルと比較すると、立ち上がりの角度は急激です。 成長株投資、特にハイテク分野では「現在の規模」よりも「成長の傾き(モメンタム)」が重視される傾向があり、今回の決算はその期待を刺激するものでした。
投資家が注意すべきリスク
一方で、このニュースを受けて安易に飛びつくことに対しては、慎重な姿勢も必要です。以下のリスク要因は見逃せません。
- バーンレート(資金燃焼)の速さ: 売上が増えたとはいえ、営業費用も倍増しています(1,050万ドル)。研究開発費への投資は必要不可欠ですが、手元の現金が枯渇するリスク(増資リスク)とは常に隣り合わせです。
- 競合との差: 量子コンピュータ分野には、イオンキュー(IONQ)やリゲッティ・コンピューティング(RGTI)、ディーウェーブ・クオンタム(QBTS)といったライバルが存在します。今年に入ってからの株価パフォーマンスを見ると、他社が大きく上昇する中でクォンタム・コンピューティングは苦戦していました。今回の急騰は、その「出遅れ修正」的な側面もあったと考えられます。
まとめ:夢を買うか、実績を待つか
今回のクォンタム・コンピューティングの動きは、創薬バイオベンチャーへの投資に近い特性があります。「大手との契約」というニュース一つで株価が跳ね上がりますが、安定した収益体質になるまでには長い時間を要します。
バロンズの記事が示唆するように、量子セクターにおいて「最初の商用契約」は非常に大きなインパクトを持ちます。 しかし、投資対象として検討するならば、表面上の「黒字」だけに惑わされず、次の四半期も継続して顧客が増えているか、キャッシュフローは維持できているか、これらを厳しくチェックする視点が不可欠です。
出典:Barron’s “Quantum Computing Stock Is Down 29% This Year. Why the Market Is Excited by $384,000 in Revenue.”(2025年11月17日公開)
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