米投資情報メディア「マーケットウォッチ」は2025年9月6日、メタ・プラットフォームズ(META)が24歳のAI研究者に総額2億5,000万ドル(約368億円)を支払う契約を結んだと報じました。これは、現在のAI業界の加熱ぶりを象徴する出来事であり、かつてのドットコムバブルを想起させると専門家は指摘しています。
利益ではなく「支出」で競争するAI企業
この記事を執筆したジェフリー・ファンク氏とゲイリー・スミス氏は、1990年代後半のドットコムバブル期と現在のAIバブルには共通点があると論じています。当時のスタートアップ企業は利益よりも「いかに多く資金を使うか」で存在感を示していました。現在のAI企業も、最先端人材の争奪戦において巨額の報酬を提示し、自らの優位性を示そうとしています。
その代表例が、メタが24歳の若手AI研究者に支払う契約金です。この金額は、NBAのスーパースターであるステフィン・カリー選手の4年契約をも上回るものです。
AGI(汎用人工知能)は本当に目前か?
現在のAI投資熱は、AGI(人工汎用知能)が近い将来に実現するという前提に立っています。しかし、メタのAI最高責任者ヤン・ルカン氏は「現在のAIは猫よりも賢くない」と語っており、AGIにはまだ長い道のりがあると見ています。現実世界との因果関係を理解しないLLM(大規模言語モデル)では、真の知能とは言えないという指摘もあります。
実際、多くのLLMは人間の手による「調整」(いわゆるチューナー)に大きく依存しており、それがなければ誤回答や現実とかけ離れた出力が多発するという問題があります。
LLMの商業的価値とリスク
もうひとつの懸念は、LLMの開発にかかるコストに対し、その商業的リターンが見合うのかという点です。ChatGPTのようなツールは「すごい」と感じさせるインターフェースを持っていますが、医療や法律のような高リスクな領域では信頼して使うには不安が残ります。
たとえば、ある利用者がChatGPTの健康アドバイスに従って食生活を変えた結果、塩分の代わりに臭素(ブロマイド)を摂取し中毒症状を起こしたという報告もあります。これはAIが現実の因果関係を理解していないことのリスクを如実に示しています。
本当に「天才」だけがAGIを生み出すのか?
高額報酬の背後には「一流の人材だけがAGIを実現できる」という前提がありますが、著者たちはこの考え方自体がAGIがまだ遠いという証拠だと指摘しています。かつてのベル研究所では、そこまで高学歴ではない「中西部出身の若者」たちが多数雇われ、結果としてトランジスタやインターネットなどの技術革新が生まれました。
つまり、革新は天才の独創性だけでなく、地道な集団努力からも生まれるという歴史的事実があるのです。
終わりに:AIバブルの行方
今後のAIバブルがどのように評価されるかは不透明ですが、かつてのドットコム時代と同様に「巨額の投資=成功」とは限らないことを思い出す必要があります。メタがAGIレースで勝者となるか、それとも過去のバブル企業のように失速するのか、注目が集まっています。
*過去記事 メタ・プラットフォームズ
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