米半導体大手のエヌビディア(NVDA)とアドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)は、中国市場向けに販売する特定AIチップの売上の15%を米政府に支払うという前例のない合意を結んだと報じられています。対象となるのは、エヌビディアのH20 AIアクセラレーターとAMDのMI308チップで、いずれも以前は米国の輸出規制により中国への販売が禁止されていました。
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この合意は、輸出許可の条件として米政府が売上の一部を徴収する形となっており、専門家からは「米国の貿易政策を事実上“収益化”している」との指摘が出ています。米国憲法では輸出税が禁じられているため、法的な問題をはらむ可能性もあります。
専門家が指摘する「危険な前例」
元米国通商交渉官のスティーブン・オルソン氏は、「これは単なる異例ではなく、危険な前例だ」と警鐘を鳴らしています。米政府が企業に直接的な“許可料”を課すような形で貿易をコントロールすることは、制度上も経済運営の理念上も大きな転換点となり得ます。
さらに、ヒンリッチ財団のデボラ・エルムズ氏は「このスキームは他の産業や製品にも広がる可能性がある」と指摘し、「国や企業ごとに『お金を払えば取引可能』という構造が常態化する恐れがある」と警告しました。
米中関係と半導体市場への影響
今回の措置は、AIや自動化など将来産業を巡る米中対立の最前線で行われています。米国はバイデン政権時代から先端チップの対中輸出を制限してきましたが、H20やMI308は性能を抑えて規制を回避した製品です。報道された内容が事実とすれば、トランプ政権はこれらの販売を許可する一方、売上の一部を政府が得る仕組みを導入したことになります。
中国側はチップの安全性や効率性に疑問を呈しているものの、国内メーカーではAIチップの需要を賄えず、結果的に米国製チップへの依存が続く可能性があります。これにより、エヌビディアやAMDは販売機会を得る一方、米政府も新たな収入源を確保する構図となっています。
「国家安全保障」から「収益化」へのシフト
従来、国家安全保障を理由に輸出規制を行ってきた米国が、今回は規制の解除と引き換えに収益を得る構造を採用したとなると、貿易政策の質的転換といえます。適切な監視や透明性が欠如すれば、特定企業との密接な利害関係が形成され、いわゆる「縁故資本主義」への道を開く可能性があります。
今回の事例は、米中半導体摩擦の新局面であると同時に、米国の経済運営モデルそのものに関する議論を呼び起こすことになりそうです。
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