2025年8月7日、米製薬大手イーライ・リリー(LLY)の株価が大きく下落しました。同社が開発中の経口肥満治療薬「オルフォグリプロン(orforglipron)」の最新試験結果が市場予想を下回ったことが背景です。最高用量で投与した患者の平均体重減少率は12.4%と、注射型の「ゼップバウンド(Zepbound)」やノボ・ノルディスク(NVO)の「ウィゴビー(Wegovy)」に比べて低い結果となりました。
一方で、この経口薬は効果の絶対値よりも「アクセスのしやすさ」に強みがあり、依然として大きな市場機会を秘めているとみられています。
経口薬が持つ市場拡大のカギ
GLP-1受容体作動薬の注射型治療は、米国での普及率が依然として低く、世界的には高コストや供給制約が普及の障壁となっています。経口薬は製造コストが低く、冷蔵不要で流通が容易なため、より幅広い患者層への提供が可能になります。特に注射を避けたい人や軽度の肥満患者、長期的な体重維持を目的とする層へのアプローチが期待されます。
価格設定と普及戦略
イーライ・リリーは価格について明言していませんが、注射型よりも安価になるとの見方が広がっています。アナリストの中には、所得に応じた段階的な直接販売モデルの可能性を指摘する声もあります。CEOのデイブ・リックス氏は、軽度肥満を含む幅広い層への治療薬として「消費者レベルの価格」を意識していると述べています。
ライバル企業の動きと市場環境
今回の発表を受けて、ノボ・ノルディスクの株価は7.5%上昇しました。同社はすでに経口版ウィゴビーの米FDA承認を申請していますが、製造の難しさや服用条件(空腹時服用)への懸念も残ります。また、バイキング・セラピューティクス(VKTX)など新興企業も経口肥満治療薬の開発を進めており、競争が激化する見通しです。
投資家視点での評価
株価下落により、イーライ・リリーの予想PERは約24倍と、数か月前の40倍近い水準から大きく低下しました。オルフォグリプロンの売上ピーク予想(250億~400億ドル)が株価に織り込まれていた可能性が高く、現在はより現実的な評価に移行したと考えられます。
経口肥満治療薬はまだ発展途上ですが、その普及は肥満治療の新たな章を切り開き、世界的なアクセス拡大に寄与する可能性があります。市場関係者は今後の臨床試験や価格戦略、ライバル企業の動向に注目しています。
*過去記事「イーライ・リリー株急落、減量ピルの効果に失望感も決算は好調」
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