2025年8月4日、米投資情報メディア「バロンズ」に掲載された記事では、投資リサーチ会社Gavekalの共同創業者であるルイ・ギャヴ氏の見解が紹介されました。同氏は、関税や地政学リスク以上に、AI関連投資の過熱が米国株市場にとって最大のリスク要因になり得ると警鐘を鳴らしています。
注目すべきは、こうした懸念の中心にあるのが、AI半導体の主役・エヌビディア(NVDA)だという点です。
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株式市場はAI依存に傾きつつある
ギャヴ氏によると、ChatGPTの登場以降、米国株式市場の時価総額は23兆ドルも膨張しました。これは、日本・欧州・イギリスの市場を合わせた規模を超えるほどの成長です。
AIへの設備投資は、GDP比で約11%に達しており、これは1990年代後半のITバブル時の水準に近づきつつあります。当時も「構造的成長」が謳われ、企業はコンピュータやブロードバンド、ECへの投資を余儀なくされましたが、やがてその勢いは失速し、株価は大きく下落しました。
今回のAIブームでは、マイクロソフト(MSFT)、メタ・プラットフォームズ(META)、グーグルの親会社アルファベット(GOOGL)といった「資産の軽い」企業たちが、大規模なデータセンターへの投資を通じて「重資産型」企業へと変貌しています。その恩恵を最大限に受けているのがエヌビディアです。
半導体業界に広がる不安
一方で、半導体装置メーカーからは慎重な声も聞かれます。
東京エレクトロン(8035)は、エヌビディア向けの最先端半導体需要は堅調だとしつつも、論理半導体メーカーからの受注は弱含んでいると警告しました。ASMLも7月中旬、関税の不透明感を背景に、2026年の成長を保証できないと発言しています。
アジア企業は通商ルールの変更を警戒し、数十億ドル規模の投資に慎重になっているとされます。加えて、世界的なスマートフォン、PC、ノートパソコンの販売不振も逆風となっています。
さらに、ギャヴ氏は中国による半導体自給自足の加速が、世界的な設備投資サイクルに影響を及ぼしていると指摘しています。中国は近年、半導体製造の内製化を急速に進めており、多くの分野で予想以上の成果を挙げているとのことです。
エヌビディアが崩れたら市場はどうなるのか
それでもなお、エヌビディアの株価は上昇を続けており、2025年8月4日時点の時価総額は4.4兆ドルに達しています。
しかし同社は、2000年の上場以来、7回にわたって株価が半減した過去を持ち、今後も同様の調整が起こらないとは限りません。
もしエヌビディアの成長が失速すれば、AIブームによって生まれた巨額の個人資産や、大型テック株に依存した市場のバリュエーションが打撃を受ける可能性があります。
ギャヴ氏は、AIによる生産性向上が実現しない、あるいはベンチャーキャピタルやビッグテックがAI投資を見直すような事態になれば、「負の資産効果」により市場全体が調整に向かうおそれがあると指摘します。
そして、そのとき「AIの次」は何なのか――市場や経済の成長を支える新たなテーマが見つからないまま、投資家心理が冷え込む可能性もあります。
「ここ最近のテック株の勢いの鈍化は、まるで炭鉱のカナリアのようだ」と、ギャヴ氏は警告しています。
おわりに
今回のバロンズの記事は、AI関連株への過剰な楽観に一石を投じる内容でした。エヌビディアをはじめとするAI銘柄への投資においては、成長ストーリーの裏に潜むリスクにも目を向ける必要があります。
AIが本当に次世代の成長エンジンとなるのか、それとも市場は過熱の末に調整を迎えるのか。今後の展開に注目が集まります。
*過去記事はこちら エヌビディアNVDA
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