2025年7月、AI半導体スタートアップのグロック(Groq)が、わずか数ヶ月前に投資家に提示していた年間売上予測を大きく引き下げたことが報じられました。当初は2025年に20億ドル超の売上を見込んでいたものの、現在の予測は5億ドル強にとどまっています。
グロックとはどんな会社か?
グロックは、2016年に元グーグルのエンジニアであるジョナサン・ロス氏によって設立された米国の半導体スタートアップです。本社はカリフォルニア州マウンテンビューにあり、AI推論に特化した独自アーキテクチャ「LPU(Language Processing Unit)」を搭載したチップを開発しています。現在までにブラックロックやタイガー・グローバルなどから累計10億ドル以上を調達しており、エヌビディア(NVDA)とは異なるアプローチでAI計算の高速化と低コスト化を目指しています。
サウジアラビアとの大型契約も実現は未定
グロックは、サウジアラビアとの15億ドル規模の契約を2025年初めに発表し、大型案件の追い風を受けて急成長をアピールしていました。しかし、データセンター容量の不足などを理由に、この契約に基づく売上の多くを2026年以降に計上する見通しに変更したと説明しています。
この契約の一部は、サウジのAI企業「Humain(ヒューメイン)」との収益共有によって実現される計画です。また、サウジアラビアは同時にエヌビディアやAMDのチップも輸入し始めており、グロックは熾烈な競争環境にさらされています。
チップの特徴と課題
グロックのAIチップは、学習ではなく推論に特化しており、モデルの動作スピードを高めつつコストを抑えることが強みとされています。昨年には、メタのオープンソースモデル「Llama」をグロックのチップ上で高速動作させるデモがSNSで話題となりました。
一方で、エヌビディア製品と異なり、モデルの学習用途には使えないという制限があるため、企業への導入ハードルが依然として高い状況です。
クラウド事業の拡大と赤字
グロックは、開発者向けにクラウドベースのAI実行環境を提供する新サービスも展開中です。このクラウド事業は2025年に4,000万ドル超の売上を見込んでいますが、同年の費用は6,400万ドルを上回る見通しで、赤字運営が続いています。
ただし、2026年には収支が逆転し、売上2億ドル超、費用1億7,000万ドル超で黒字化するとの見通しを示しています。
資金調達と企業価値の変化
グロックは、ブラックロックやタイガー・グローバルなどの著名投資家からこれまでに10億ドル以上を調達してきました。現在、60億ドルの評価額で最大5億ドルの追加資金を募っているとの報道もあります。これは1年前の評価額2.8億ドルと比べて倍以上の水準です。
なお、グロックの創業者であるジョナサン・ロス氏はインタビューで、「資金調達のオファーはあったが、現時点で積極的に資金調達を行っているわけではない」と述べています。
グロックの今後に注目
AIブームの中で急成長を狙うグロックですが、データセンターのインフラ制約やエヌビディアとの競争、収益化の道筋など、乗り越えるべき課題は多い状況です。とはいえ、低価格かつ高速なチップという独自の武器を活かし、サウジ市場を中心にどのように存在感を示していくのか、今後の展開に注目が集まっています。