2025年7月29日、肥満治療薬の期待で高騰していたノボ・ノルディスク(NVO)の株価が急落しました。これにより、ここ数年の「肥満治療バブル」が本格的に崩壊したとの見方が広がっています。
ノボ株が1日で22%近く下落
ノボ・ノルディスクの米国預託証券(ADR)は、7月29日の米市場で一時21.8%安の53.98ドルまで急落しました。これは1年前の高値から半値以下となる水準です。同社の競合であるイーライ・リリー(LLY)も同日4.8%下落し、市場全体に波及する影響を見せました。
背景には、同社が2025年の売上・利益ガイダンスを大幅に引き下げたことがあります。特に注目されたのは、肥満治療薬「ウゴービ(Wegovy)」の収益見通しの悪化です。
ジェネリック品の影響で販売が伸び悩み
ノボは、ウゴービの売上が期待通りに伸びていない主因として、「コンパウンド薬(模造品)」の存在を挙げています。これは、オンライン薬局などが製造・販売している低価格の非正規版で、FDA(米食品医薬品局)はこれらの製造中止を求めていますが、実際には依然として市場に出回っており、約100万人が使用しているとされています。
その結果、ノボが用意した「自己負担向けの低価格オプション」を選ぶ患者が想定より少なく、収益に悪影響を与えているといいます。
業績予想を大幅に引き下げ
ノボが発表した2025年のガイダンスでは、売上成長率は従来の13〜21%から8〜14%に、営業利益成長率は16〜24%から10〜16%に引き下げられました。アナリストの平均予想(ファクトセット調べ)では2025年の売上が3280億デンマーククローネに達するとされていましたが、それに届かない可能性が高まっています。
なお、2025年第2四半期の1株利益は5.96デンマーククローネで、アナリスト予想の5.90をわずかに上回ったものの、市場の失望感を払拭するには至りませんでした。
新CEOにマジアル・マイク・ドゥスタダー氏が就任
今回の発表と同時に、同社のCEO交代も正式に発表されました。新たに就任するマジアル・マイク・ドゥスタダー氏は、国際部門を統括していた社内昇格人事で、ノボにとって初の非デンマーク人CEOとなります。
ドゥスタダー氏は「コスト削減と商業面での実行力強化に注力する」と述べており、イーライ・リリーなどの競合との競争に対する構造的対応が急務とされています。
投資家の夢が現実に直面
肥満治療薬市場は、2022年末から2023年にかけて急激に注目を集め、ノボは一時、欧州で最も時価総額の高い企業となりました。しかし、処方の現場での複雑さ、製造・供給の課題、ジェネリック品の影響などが次第に明らかになり、過度な期待が現実に修正されつつあります。
今後は、複数の新興企業が肥満治療薬市場に参入する中で、ノボとリリーの寡占状態にも変化が訪れる可能性があります。