2025年現在、人工知能(AI)分野では過熱した投資熱が続いています。中には設立からわずか数か月、売上も製品もほぼ存在しない企業に対して20億ドルもの資金が投じられる例もあります。しかし、冷静に収益性や成長率、バリュエーションを見ていくと、投資対象として相対的に魅力的な企業も見えてきます。
オープンAIとアンソロピックが「割安」に見える理由
AI市場で注目すべきは、基盤モデルを提供するオープンAI(OpenAI)とアンソロピック(Anthropic)です。両社ともに驚異的な成長を遂げており、他のスタートアップとは一線を画しています。
アンソロピックは、2025年2月時点で年間売上40億ドルを目標としていましたが、今年の半ばにはすでにその水準に到達したと報じられました。年初と比べると売上ペースは約4倍です。
オープンAIも同様に成長を遂げており、2025年には売上が120億ドルに達すると予測されています。6月時点ですでに年換算で100億ドルを超えているとされており、その勢いは止まりません。
バリュエーション比較:アプリ系スタートアップとの違い
アンソロピックは2025年3月に615億ドルの評価で資金調達を行い、年換算売上の約15倍という比較的妥当な水準です。オープンAIは同時期に3,000億ドルの評価を受け、売上の約25倍と見積もられています。
参考までに、スノーフレーク(SNOW)やサービスナウ(NOW)といった上場ソフトウェア企業10社の売上倍率は平均して15倍、成長率は11%程度にとどまります。成長率を加味すれば、オープンAIとアンソロピックの評価はむしろ控えめとも言えます。
一方で、AIアプリケーション分野のスタートアップには高すぎる評価が目立ちます。たとえば、AI検索エンジンを提供するパープレキシティ(Perplexity)は、年換算売上の116倍に相当する評価額で資金を調達しました。GleanやHarveyもおよそ70倍の売上倍率で資金を得ています。
パープレキシティの評価は妥当か?
パープレキシティは急成長中で、2024年には年商1,500万ドルだったのが、2025年には1億2,000万ドルに達したと報じられています。しかし、評価額は1年前の10億ドルから140億ドルへと急騰しており、オープンAIやグーグルのGeminiなどと直接競合する点で、今後の成長には不確実性が残ります。
モデルメーカーとしての優位性
オープンAIとアンソロピックは、検索など既存産業の破壊ではなく、新たな産業の創出をリードしています。これは、アプリケーションを構築するスタートアップよりも高いバリュエーションが与えられるべき根拠になります。
しかし、競合となるCohereやミストラルAI(Mistral AI)は、売上の200倍以上で評価されており、オープンAIやアンソロピックの評価は依然として「割安」な水準にとどまっています。
SuRoキャピタルのウィリー・リー氏は、オープンAIやアンソロピックの立場を決済インフラを構築するストライプに例えています。基盤となるエコシステムを構築し、その上にアプリを展開できるという点で、長期的な競争優位性を持っていると述べています。
インフラからアプリへ進出する動きも加速
オープンAIとアンソロピックは、自社モデルの販売に加え、アプリケーション開発領域にも進出を始めています。これは、クラウド事業者がインフラを提供しつつ、自社製アプリを販売している戦略と類似しています。
オープンAIは、チャットGPTによる売上に加え、新たなAIエージェントやコンサルティングサービスに力を入れています。これは、Harveyのようなスタートアップと競合する可能性もあります。
また、アンソロピックは2025年2月に「Claude Code」というコーディング支援ツールをリリースして以降、急速に収益を伸ばしています。AIエージェント市場への本格参入は、カスタマーサポート特化型のシエラ(Sierra)などにとって脅威となります。シエラは昨年秋、年商に対し200倍超という評価額で資金調達を実施しています。
リスクも存在するが、割安な本命候補
もちろん、AI市場は変動が激しく、将来の保証はありません。オープンAIとアンソロピックは現在も多額の資金を消費しており、黒字化には至っていません。ディープシークやメタのLlamaのような低コストなオープンソースモデルの台頭も、競争を激化させる要因となります。
なお、オープンAIとアンソロピックはいずれも現在は非上場企業であり、株式市場で直接投資することはできません。そのため、投資家にとっては、関連企業やファンド経由での間接的なアプローチが現実的な選択肢となります。
それでもなお、AIの中でバリュー投資に近い選択肢を探すなら、今のところオープンAIとアンソロピックが最も有望な候補といえそうです。