2025年6月末に米中間で成立した貿易合意を受けて、米国商務省は電子設計自動化(EDA)ソフトウェアの中国向け輸出規制を解除しました。この発表を受け、シノプシス(SNPS)、ケイデンス・デザイン・システムズ(CDNS)、シーメンスといったEDAソフトウェア企業の株価が上昇しました。
シノプシスとケイデンス、輸出規制解除を受け株価上昇
シリコン設計に特化するシノプシスは、米国商務省の産業安全保障局(BIS)から7月2日に書簡を受け取り、中国向けのEDAソフトウェアおよび技術に対する輸出ライセンス要件が即時撤廃されたと発表しました。これを受けて、同社の株価は2日の米国市場で4.9%上昇しました。
ケイデンス・デザイン・システムズも同様に、BISから同様の連絡を受け、影響を受けていた顧客向けにEDA製品の提供を再開する手続きを進めていると明らかにしました。同社の株価は5.1%の上昇となりました。
ドイツのシーメンスもソフトウェア販売を再開
ドイツを拠点とし米国にも事業拠点を持つシーメンスは、EDAを含む産業オートメーションやソフトウェアを手掛ける企業です。同社も5月23日にBISから輸出規制に関する通知を受けていましたが、今回の解除により中国へのソフトウェア販売とサポートを再開したと発表しました。ドイツ市場では同社の株価が0.82%上昇しています。
中国市場の重要性と企業別の依存度
EDA市場において、シノプシスは世界シェアの31%、ケイデンスは30%、シーメンスは13%を占めているとされます。各社とも中国市場への依存度は高く、ケイデンスは2024年度の売上46億ドルのうち12.3%、シノプシスは61億ドルのうち16.1%が中国によるものでした。シーメンスもEDA以外の分野を含めた中国売上比率は10.6%に達します。
今回の規制解除が米中戦略に与える影響
リサーチ企業Radio Free Mobileの創設者であるリチャード・ウィンザー氏は、EDA規制は米国の先端半導体封じ込め戦略にとって「決定的な影響を与えるものではなかった」と指摘しています。中国は依然として20ナノメートル以下の先端チップを製造する装置の購入が難しく、EDAツールの有無にかかわらず製造に限界があるとされます。
たとえば、中国企業は現在、TSMC(TSM)が過去に用いた古い技術を応用して7ナノメートルチップを試作しており、独自開発のEDAツールを「使える程度」まで進化させている段階にあります。
レアアース輸出規制の緩和も影響大
今回の米中合意では、米国がEDA規制を緩和する代わりに、中国がレアアースの輸出制限を緩和することにも合意しました。レアアースはチップや磁気センサーなどの製造に欠かせない素材であり、中国が世界の供給の多くを担っています。
ウィンザー氏は、「長期的にはレアアースの供給は中国以外でも可能だが、短期的には供給網の整備に時間と資金が必要」と述べ、こちらの規制のほうが西側諸国にとっては大きなインパクトがあった可能性があると分析しています。
今後の展望
EDA規制解除は、シノプシスやケイデンスなどの米国企業にとって、売上の回復と顧客関係の修復に繋がる追い風となります。一方で、米国と中国の技術摩擦は今後も続くと見られ、政府間の動向が企業活動に与える影響は引き続き注視が必要です。